サラリーマンはなぜゴルフをするのか|元商社マン2人の答え
三井物産と伊藤忠商事。総合商社を20代で辞めた2人は、会社員時代、ゴルフを徹底して避けてきた。「できる」と言えば土日を奪われるからだ。その2人が今、「ゴルフは人生に一番似たスポーツだ」と口を揃える。接待の内側を知る元商社マンが、コースで一発で露呈する人間性と、それでも回る理由を語った。
サラリーマンはなぜゴルフをするのか?
ゴルフには、居酒屋では絶対に得られないものが三つある。環境が変われば話題が変わること、長時間を共にできること、運動する健康な姿を見せられること。辞める数ヶ月前にゴルフを始めたコウキの分析だ。
コウキ: 社会人で仲良くなる機会って、ゴルフをのぞけば酒しかないんですよ。居酒屋に行くくらい。けど居酒屋って、長くても4、5時間じゃないですか。しかも毎回ほぼ同じ環境なんで、話す内容も飽きてくる。その点ゴルフは、場所が変われば話も気持ちも変わる。違う側面が見れて仲良くなるよね、っていうのがまず一つ。
たてぃ: なるほどね。
コウキ: 二つ目は単純に、接してる時間が長いから。朝から夜まで一緒にいる人もいるじゃないですか。それだけ長ければ、自然と仲良くなる。で、これは僕以外あんま言わないんですけど、体を動かす姿を見れるのが多分プラスで。人が運動してるのを見るって、健康の証なんで。
たてぃ: ほう。
コウキ: 小学校の頃、足が速い人ってモテたじゃないですか。その後もスポーツしてる人はモテたりする。人間の本能として、健康そうな人がいいんですよ。ゴルフは走らんけど、汗はかくし大声も出す。わあ!って。その健康な側面を共有できるのは居酒屋にはない。居酒屋は座ってる、不健康な側面なんで。
コウキの見立てを言い換えれば、同じ顔ぶれで同じ居酒屋を重ねても、互いに見せ合う面はもう残らない。ゴルフは半日をかけて、相手の別の一面を引き出す装置になっている。
ゴルフには本当に「人間性」が出るのか?
出る。しかも一発で出る。そう言い切るのは、ゴルフ歴十三、四年のたてぃだ。中学からニュージーランドでプレーしてきた。
コウキのロジックより先に、たてぃは「人間性が一番見えるスポーツ」と結論づけた。ここから彼の口は、普段の寡黙が嘘のように止まらなくなる。
たてぃ: みんな朝が早いから、やっぱり眠いわけじゃないですか。そういう時に起きられる人と、起きられない人がいる。迎えに行く人もいて、それが自分なのかどうか。段取り、いわゆるロジの丁寧さもそう。迎えに来てもらうなら、ドライバーのためにコーヒーを買っていくとか。タバコを吸う人がいるなら休憩を挟むとか。
コウキ: はいはい。
たてぃ: 分かりやすいのだと、さっさと打てばいいのに、七回も八回も素振りしてる人。ああ、慎重で緊張しいなんだな、とか。逆にパッと打ってチョロして、この人焦ってるな、仕事も雑なんだろうな、とか。土を掘ったのに埋めないで行く人。木に挟まって、本当は横に出すべきなのに、こっそり転がしてズルする人。
コウキ: どんどん出てくるじゃないですか(笑)。
たてぃ: いや、どんどん出てくる。歴が長いですから。普段こんな偉そうにしてんのに、ゴルフだとこんな小心者か、とか。最後の人がまだ打ってないのに、カートに戻ってビール飲んでる人とか。
観察の解像度が高すぎて、聞いているコウキが笑い出す。そんな二人が最終的に一致したのは、「一緒にボールを探してくれるやつは、それだけでいいやつ」という一点だった。
コウキ: 僕、上手くないんで、ボールがあっちこっち行くんですよ。そこで一緒に探してくれる人がいると、こいつ偉いなあってなるもんね。
たてぃ: ちゃんと見ててくれる人ね、結局。ボール探してくれる人、マジでいいやつやなと(笑)。
たてぃ: 白が一番見やすいんですよ、実は。黄色とかだとグリーンと同化して見えない。みんなカラーボールを使いたがるけどね。
疲れてくる後半、態度は作れない。そこに素が出る。人を見抜く目がある人ほど、ゴルフは楽しめなくなるのかもしれない。
「ゴルフできる?」は、1年目が答えてはいけない質問だった
面白いのは、これだけゴルフを語れる二人が、会社員時代はどちらも徹底的に避けていたことだ。たてぃに至っては「できる」を隠し、嘘までついていた。理由はシンプルで、土日に会社の人と会いたくなかった。
たてぃ: 僕、物産時代は、会社の人と行ったことが多分一度もない。同期と一、二回あるかないかです。
コウキ: そんなやついない。まじっすか?
たてぃ: 「ゴルフできる?」って聞かれても、「あんまりやったことないです」って答えてました。
コウキ: それ、ただの嘘じゃないですか(笑)。酒の方はかわしてる感じしますけど、ゴルフはただの嘘なんですね。
たてぃ: そうそう。「なんで言わないの?」って周りに言われましたけど、誘われたら困るんで。週末や祝日に、会社の人には絶対会いたくない。完全に分けたい。
たてぃが一年目に受けた「答えてはいけない質問」のワンツーは、酒とゴルフだったという。「お酒好きです」ではなく「立ち飲み程度です」。ゴルフは「あんまりやったことない」。土日を守るための、若手なりの防衛線だ。
一方でコウキは、そもそも同期のノリ自体が苦手だった。
コウキ: 一年目から、ゴルフは絶対やらんと思ってた。会社の人間とつるむ気ないんやから、やってたまるかと。みんな内定者の頃から打ちっぱ行くんですけど、行くかと。誰がゴルフなんかやるぞって。
たてぃ: 内定者の頃から、見たことのない打ちっぱなしのストーリーをあげる子が急に増えますよね。スイングを行ったり来たり繰り返す、あのブーメラン動画で大体。
コウキ: しょうもないなと思って。興味もなかったくせに、タイガーウッズぐらいしか知らんくせに、元からやってますみたいな顔して。俗的すぎんか、こいつらと。
たてぃが接待ゴルフに本格的に飲み込まれたのは、実は博報堂に移ってからだった。テレビ局の人と回るために、平日でも駆り出される。しかも代理店は接待される側だ。
たてぃ: 迎えに来てくれるし、自分は何もしなくていい。接待される側なんで。夏場は朝五時からハーフ回るとか。局のコンペで配る景品、あれ結構豪華なんですよ。それをスポンサーさんから集めてExcelで管理する係をやって、コンペには一回も行かないで退職しました。
コウキ: なんかおもろそうやなって思っちゃいますけどね。
たてぃ: 僕は絶対行かない。行きたくない。
上海のゴルフ場は、打つと民家のガラスが割れる
海外でも回ってきたコウキは、「日本人とゴルフは噛み合わせが良すぎる」と言う。協調性、気遣い、言葉にしない暗黙のルール。ゴルフが求めるものと、日本人が過剰に気にするものが、ぴったり重なる。その裏返しで、上海のゴルフは何もかもが自由でゆるかった。
コウキ: 日本人って、言葉にしない暗黙のルールを気にする生き物なんですよ。しかもゴルフが上手い人はエリートが多い。気遣いを極めた人たちです。だからコースでそこを見てしまうし、できてないと「うわあ」ってなる。ゴルフが嫌いになる理由も、なんか分かるなあって。
たてぃ: はいはいはい。
コウキ: 上海は、全然面白いっすよ。コースのすぐ隣が住宅街なんです。右に打ったらガラスが割れるなって思って、実際に割っちゃった。四百ヤードあるのに、ティーショットはウッド以下で打ってください、と。ええ、どうして?って。
たてぃ: 赤羽の河川敷みたいなね。
コウキ: マジでそんな感じっすよ。キャディーさんが一人ずつつくのに、そんなに高くない。ぐちゃぐちゃな所もあれば、やけに綺麗な所もある。
たてぃ: 河川敷なのに住宅街まで飛んじゃうから、ドライバー禁止、とかね。そんな所にコース作るなよって話ですよ。
コウキ: でも中国は、何にも言われなかったんですよ。自由にどうぞって。
暗黙のルールで人を測る日本のゴルフと、ルールそのものが見当たらない上海のゴルフ。同じスポーツでも、国が変われば別物になる。その落差を笑いながら、話は「じゃあ結局なぜやるのか」に戻っていく。
なぜ二人はそれでもゴルフを「人生に似ている」と言うのか
避けてきたはずの二人が、話し終わりに近づくと同じ場所に着地する。ゴルフは人生に似ている、と。再現性を保てば真っ直ぐ飛ぶはずなのに、それができない。得意なフェーズも、苦手なフェーズもある。ただし「面白い」の中身は、二人で微妙にズレたままだった。
たてぃ: 十八ホールを、パーなら七十二で上がれる。それをどこまで縮めるか。どのクラブを使うかも、どんな強さで打つかも自分次第。同じスイングを再現できれば、ボールは必ず真っ直ぐ行く。なのに、それができない。日々の生活と一緒ですよね。決めた時間に起きて、これだけやればこうなると分かっていても、うまくいかない。そこが面白い。
コウキ: マジで似てると思いますね。得意不得意もあるし。ショートが得意な人もいれば、ロングだと非力でも刻んで行ける人もいる。そこにその人が出るのかもしれない。
たてぃ: どのフェーズで頑張れるか。そこが人生とそっくりで、僕はゴルフはそういう意味で好きですね。
コウキ: なるほど。そういう意味で、ね。面白さっていうのとは、ちょっと違うけど。傍から見てる分には、面白いのかもしれないですけど。
「好き」と言い切るたてぃと、「面白さとは違う」と留保するコウキ。綺麗に一致しないまま、コウキが最後にぽつりとこぼした一言が、この回の実感に一番近い。
コウキ: 今、話を聞いてて、ゴルフってむずいなって改めて思いました。
https://youtu.be/A41HA9Q_rok
この記事は、ラジオ「辞め商の不格好経営」の回「サラリーマンがゴルフをするメリットって何?」の内容を記事化したものです。音声で聴きたい方はこちら。
たてぃがもう一つやっている番組が「下剋上キャリア」。相方は、三井物産→ゴールドマン・サックス→ベイン・アンド・カンパニーを経て、人材エージェントとして起業した三原卓也さん。学歴や経歴に囚われず、キャリアを跳ね上げる方法を実体験ベースで話しています。
「大手にいるけど、このままでいいのか分からない」——そのモヤモヤは、三原さんに直接ぶつけられます。相談はこちら。
たてぃ: 明治大学卒 → 21年三井物産 → 23年博報堂 → 25年起業(X: @basedontatymltn)
コウキ: 京都大学硬式野球部卒 → 23年伊藤忠商事 → 25年株式会社Un-Bound起業(X: @Multi_VitaminZ)
