親魏倭王、本を語る その97
【タイタンの妖女】
本格的にSFを読むきっかけになったのは友人に借りたカート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』だったのだが、読んでみて感じたのが「遍歴の旅みたいだな」だった。
物語は神に等しい存在になったウィンストン・ナイルス・ラムファードという富豪によって、マラカイ・コンスタントという若い男がラムファードのある計画のために翻弄される。若くして大金持ちになったコンスタントだが、破産し、火星で兵役に就き、流浪の末にタイタンで余生を送ることになる。
特に「宗教的な思索の旅」を思わせる要素はないのだが、なぜか『十牛図』を思い浮かべた。
類似する作品を挙げるとすれば、筒井康隆氏の『旅のラゴス』が近いだろうか。
目的のあるなしに関係なく、時に旅が羨ましく感じる。時雨沢恵一氏の『キノの旅』もロードノベルの傑作だと思うが、持っているもののまだ読めていない。『西遊記』もロードノベルになるだろうか。
【鴉】
麻耶雄嵩氏というと、よく話題になるのが『夏と冬の奏鳴曲』と『隻眼の少女』、それに『貴族探偵』だと思うのだが、個人的に気に入っているのは『翼ある闇』と『鴉』で、特に後者のどこか現実離れした舞台設定と探偵役であるメルカトルの立ち位置の意外性、そして、ある仕掛けがツボにはまった。
読む前からこれがメルカトルシリーズの一冊というのはわかっていたが、当初、僕は『夏と冬の奏鳴曲』のように全編を通して登場するわけではないものと思っていて、メルカトルが早い段階で登場したことと、舞台が彼にとって重要な場所であることだったのがいい意味で想定外だった。
この作品の中の「ある仕掛け」は僕もすっかり引っかかってしまったが、ある「違和感があるシーン」で「なるほど」と腑に落ちた。しかし、母はそのシーンのせいでよけいに混乱してしまったらしい。
今年は母の三回忌である。晩年の母に蔵書を貸して、感想を言い合っていたのが懐かしい。
【高木彬光の歴史ミステリー】
高木彬光の歴史ミステリーは『成吉思汗の秘密』『邪馬台国の秘密』『古代天皇の秘密』の3冊あり、うち『成吉思汗の秘密』と『邪馬台国の秘密』は読んだことがある。
両者を比較すると、『成吉思汗の秘密』は全体にやや難があり、理論構築の面から言うと『邪馬台国の秘密』のほうが完成度は高い気がした。物語としては『成吉思汗の秘密』のほうがおもしろいのだが、「源義経=チンギス・ハン説」を成立させるためにかなり無理をしているような感じであった。『邪馬台国の秘密』は純粋に論理パズルの趣で、ストーリーは神津恭介と松下研三の問答に終始するため、クイーン流ロジックミステリーが好みの人向けかもしれない。
歴史ミステリーというとジョセフィン・ティの『時の娘』が有名だが、この作品に比肩しうるのは『邪馬台国の秘密』のほうではないだろうか。
少し調べたら、『邪馬台国の秘密』光文社文庫版には論拠を示したエッセイが併録されているらしい。
いいなと思ったら応援しよう!
現在、経済的な事情もあって、一部記事を有料にしております。
記事購入と併せ、内容が気に入っていただけましたら支援していただけると助かります。