ラグビーのカテゴリー問題。現役選手の視点で考えたこと
プロラグビー選手の山川力優です。東芝ブレイブルーパス東京に所属しながら、アスリートと社会をつなぐマッチングサイトを経営しています。
3本目のnoteです。今回はちょっと趣向を変えて、いま話題になっている「カテゴリー問題」について、現役選手として中にいる立場から考えたことを書いてみたいと思います。
先に言っておきますが、誰かを批判したい記事ではないです。
とくに、海外から日本に来て、日本語を覚えて、日本のために戦ってきた選手たちがいなければ、いまのリーグワンも、日本代表の強さも、なかった。そのことには、心から敬意を持っています。
外国人選手がダメとか、協会が悪いとか、そういうことが言いたいんじゃない。ただ、現役選手として中にいるからこそ感じる「違和感」や、もっとこうあってほしいという思いを、正直に書いてみます。
答えが出ない話も多いけど、考え続けること自体に意味があると思ってます。
社会人になってから見てきた景色
僕がプロの世界に入ったのは、トップリーグ最後の年でした。
そこからリーグワンに変わり、数年が経った今、リーグの景色はまったく変わりました。外国人選手の数がどんどん増えていった。 メンバー表を見たら、外国人のほうが多いチームがほとんどになっていた。
選手だけじゃない。ヘッドコーチも、ディビジョン1の大半が外国人です。日本人の監督は本当に数えるほどしかいない。
練習は英語で進む。ミーティング資料も英語。通訳を介してコーチと話すから、コミュニケーションに倍の時間がかかる。
日本にいるのに、アウェイみたいな感覚になる。
これ、僕がリーグに入った時にまず思ったことなんですよ。「俺が英語を聞き取らなあかんのか」って。
日本人って真面目やから、「自分が英語を勉強して合わせなきゃ」ってなる選手が多い。僕も英語はめちゃくちゃ勉強してます。
でも冷静に考えたら、ここは日本やし、僕らが例えばニュージーランドに行って日本語をベラベラ喋ってたらおかしくないかって話で。
ヘッドコーチから何から何までトップが外国人になると、海外から来た選手たちも日本語を覚えることよりプレーに集中したい、という空気がチーム全体に広がっていく。
みんなもう慣れてしまっていて、「海外のチームみたいになっている」ということに気づいてないと思うんです。
完全にグローバル化したリーグ
言語だけの話じゃないんですよ。
やっているラグビーそのものが変わった。外国人のヘッドコーチが、ニュージーランドや南アフリカなど海外の流儀を持ち込んでくる。フィジカルが強い選手を中心に据えて、体のぶつかり合いで勝つラグビーを追求する。
日本人は体が小さい。でも、小さいなりの戦い方があるはずなんです。スピードで勝負する、組織力で崩す、低いタックルで大きい相手を倒す——そういう「ジャパンラグビー」のスタイルがあった。
ところが、フィジカル中心のラグビーをやるとなれば、体の大きい外国人選手が起用されるのは当然の流れ。リーグは完全にグローバル化した。
外国人コーチは、言葉の壁がない分、外国人選手とのコミュニケーションがどうしても取りやすい。それは自然なことだとも思う。
でもそれが積み重なると、日本で育った選手の出場機会がさらに狭まっていく。違和感を持ってる選手は、僕の周りにもたくさんいます。
誤解してほしくないんですけど、外国人選手やコーチが優秀なのは事実です。リーグワンの試合のクオリティは、僕がトップリーグ時代に入った頃とは比べものにならないぐらい上がった。
けれど、日本で育った選手にとってかなり厳しいリーグになっていった。
日本で育った選手の居場所が狭くなった
年俸などの待遇面でも、日本で育った選手は本流とは言いにくいです。
外国人選手の年俸が高騰する中で、日本で育った多くの選手の年俸は低いまま。
実力主義だから、と言われればそれまでなのですが、極端になり過ぎているから、夢が見にくくなってきている。
もう少し出場機会があったら、もっと将来がポジティブに見れたら、続けてたやろうな、って言う選手はいっぱいいます。実際、引退していく選手の中には、ここ数年チャンスがなかった人もいると思います。
じゃあ国内がダメなら海外に行けばいいやんって思うかもしれないですけど、ラグビーではまだ、海外のリーグでプレーするルートが確立されていないんですよ。
サッカーなどは、今でこそ海外移籍が当たり前になってるけど、あれも最初から道があったわけじゃなくて、先人たちが言葉の壁やフィジカルの差を乗り越えて、少しずつ切り拓いてきたもの。
でも、ラグビーはまだその段階に至っていない。
挑戦している選手もいるけど、大学を出ていきなり海外、というルートはほぼ存在しないし、海外のラグビーはフィジカル中心のスタイルが主流。
日本で育った選手の持ち味であるスピードや組織力が、個人として飛び込んだ時にそのまま通用するとは限らない。
それに、海外リーグの厳しい「外国人枠」の問題もあります。枠を削ってまで体の小さい日本人選手を獲得するクラブは少なく、実力以前にエントリーのハードルがめちゃくちゃ高いんです。
フランスもイングランドもニュージーランド、アイルランドも、協会主導で、自国で育成された選手を保護する方針を出しています。
国内で居場所が狭くなっても、海外という選択肢がまだ確立されていない。 これがラグビーの現状です。
選手として、国内から上を目指す道筋が見えにくくなっている。当然、モチベーションの低下にもつながります。
この背景にある、二つの別々のルール
ちょっと整理させてほしいんですけど、実はこの問題には二つの別々のルールが絡み合ってます。
一つ目は、「代表に選ばれる資格」のルールです。これはワールドラグビーという国際団体が定めていて、国籍だけでなく、「その国のクラブに5年以上在籍したか」などでも判断されます。
つまり、国籍がなくても、帰化していなくても、リーグワンで5年以上プレイしていれば日本代表になれる。
サッカーをはじめ他のスポーツは国籍や出生地が主な基準になっているものが多い中で、「その国のクラブに5年以上在籍する」ことで代表になれるラグビーはひときわ門戸を開いている。ダイバーシティの観点では、本当に先進的な思想やと思います。
二つ目は、「選手がリーグの試合に出られる資格・枠の配分」のルールです。こっちはワールドラグビーじゃなくて、国内のリーグが独自に決めるものです。
選手をカテゴリーに分けて、このカテゴリーの人は試合に何人まで出られるという制約が課されます。
この二つは別レイヤーの話で、代表になれるかどうかと、国内リーグでどのカテゴリーに分けられるかは、本来は別の問題なんですよね。
でも、この二つが混ざって語られることが多いから、議論がこんがらがりやすい。
そして、この二つのルールがどう使われるかは、国によってまったく違います。
たとえばニュージーランドのチームは「自国代表の強化」が目的なので、将来の代表に育てる見込みがある若い選手にしか出場枠を使いません。
一方で、ここ数年のリーグワンでは、各チームが「リーグでの勝利」を求める側面が強かった。
だからこそ、出場枠の制限がないことを踏まえて、すでに完成された世界トップの選手をどんどん連れてきた。これは日本特有の現象だったんです。
リーグのルールがどう変わってきたか
トップリーグ時代、リーグの出場枠は「国籍」で区切られてました。外国人枠があったんです。それくらい、日本国籍を持った選手が保護されてたんです。だから、帰化してリーグで活躍しようとした外国人選手もいた。
ところがリーグワンが発足した時、この国籍による出場枠の制限がなくなった。日本のクラブに一定期間在籍していれば、帰化してなくても日本で育った選手と同じ扱いでプレーできるようになった。
代表資格のルールに合わせて、リーグのルールも変えた、という形です。
結果、リーグは一気にグローバル化した。
日本で育った選手と外国人選手がほぼ同じ土俵で戦うことになり、日本で育った選手がメンバー外になることが多くなる——さっき書いた状況が生まれたんです。
今回のカテゴリー改正で変わること
そして今回変わったのも、この「リーグの出場枠」のルールです。代表資格の方——ワールドラグビーが定めているルール——は変わってません。
これまでの「カテゴリーA」が、日本で教育を受けた年数などによって「A-1」と「A-2」という新しい区分に再編される方針です。
小中学校の義務教育9年間のうち6年以上を日本で過ごした選手が「A-1」として手厚く守られる仕組みになりました。国籍ではなく「日本で長く育ったか」を基準にしている点が新しい。
この改正について、正直に言えば——。
僕自身のバイアスも認めておきます。僕は日本で育った選手やから、日本で育った選手にもっとチャンスがほしいと思うのは、当事者としての感情でもある。
でも同時に、その感情だけで語ると、ラグビーという競技が大切にしてきた多様性の理念と矛盾するかもしれないということも、わかってます。
「日本で育った選手を優遇しろ」と言い切ってしまったら、ラグビーが他のスポーツに先駆けて築いてきたものを否定することにもなりかねない。
それでも、日本で育ってラグビーをしてきた選手が、続けていく道筋が失われつつあった中で、日本にあるリーグとして、日本で育った選手を守る今回の方向修正は、必要だったと僕は感じてます。
一方で、辛い思いをする人もいる
ただ、今回のカテゴリー改正で、影響を受ける選手が多くいるのも事実です。一部選手たちが訴訟を起こすなど、辛い思いをする人も出てきている。
方針が両極にブレることで、一番傷つくのは選手なんです。
トップリーグ時代、国籍が重視されていたから、帰化して出場機会を求めた選手たちがいました。
リーグワンが発足した時、リーグは完全にグローバル化する方向に舵を切った。外国人選手にとっては、そのルールを信じて日本に来た人もいるはず。
一定期間いれば、国籍や育ちの制約なくプレーできると思って、家族ごと日本に移住した選手もいるかもしれない。それが突然変わると言われたら、裏切られたと感じても仕方ない。
運用ルールが変わるというのは、本当に大きなこと。どう転んでも、辛い思いをする人が出てくるんです。
リーグとして、どちらの方向に行くのか
ここで整理すると、二つのリーグ観があるんですよね。
一つは、リーグワンが発足以来目指してきた、完全にグローバル化したリーグ。 国籍や出自に関係なく、実力のある選手が集まり、世界最高水準のラグビーをやる。
もう一つは、今回の改正が向かう先にある、日本で育った選手を保護するリーグ。 日本のリーグである以上、日本で育った選手が活躍できる環境を守る。
どちらかが正しいということはないと思います。
グローバル化すればレベルは上がる。でも日本で育った選手の居場所は減る。保護すればその逆が起きる。どちらにもメリットとデメリットがある。
僕ら選手が一番困るのは、短期的にコロコロとバランスを取ることなんです。リーグワンになった時はグローバル化の方向に振って、数年経ったら今度は保護の方向に振る。その度に影響を受ける選手が出てくる。
リーグワンとして、中長期的に見て、どちらの方向で行くのか。それを明確に示してくれたら、選手としては迷わずにいられます。
選手もリーグを構成する一員。思ったことは発信していく
リーグワンが発足以来目指してきたグローバル化。今回の改正が示す保護の方向性。どちらにも理がある。
リーグ運営に試行錯誤はつきものだし、バランスをとりながら、日本に合った最適解を模索しなければいけないのもわかる。
僕は一選手として、リーグや協会の方針を決められる立場にはいない。でも、リーグを構成する一員ではあるし、中にいるからこそ見えることがある。感じることがある。
それを言葉にしておくことには、意味があると思ってます。
このnoteを読んで、ラグビーファンの方も、選手の方も、もしかしたら協会の方も、「確かにそうやな」とか「いや、こう思うで」とか、何か考えるきっかけになってくれたらうれしいです。
皆さんは、グローバル化によるレベル向上と、日本で育った選手の保護、どちらのリーグを見たいですか?
