ホンモノ大人は、にしんそばを食べる【七杯目 丸屋・世田谷喜多見】
小田急線喜多見駅。
成城学園の先、狛江の手前にある駅だ。
東京近郊に住んでいても、わざわざこの駅で降りる人はあまり多くないと思う。
世田谷の住宅街のなかにあるこの駅を利用するのは、たいていこの街に住んでいる人たちだろう。
飾らない、おらが町。
駅周辺にはそんな空気がある。
ぼくがこの駅で降りることは、年に2回くらい。
目的はひとつ。お蕎麦の名店「丸屋」だ。
家族経営のこのお店は、地元で長く愛されている。
お蕎麦はもちろんだが、実は丼ものも美味しい。
平日は仕事帰りの人たち、週末は家族連れ。
どの時間帯に行っても、だいたい満席だ。
真冬でもお店の前で待っている人がいる。
とても賑わっている店である。
(斜め前のラーメン屋に逃げ込もうかと思うくらい寒い日もあった。確か年末だったかな)
無事入店し、あてがわれた席に落ち着く。
さてさて、と店内を見渡す。
天丼を頬張る独り客の女性。
常連らしく店員と笑顔で話し込むご夫婦。
顔中にピアスをしてざるそばを啜るギタリスト風の若い男性。
客層も実に幅広い。
地元の小学生から送られたメッセージ入りの画用紙も飾られている。
30席ほどの店内なのに、どこか多様性と包容力を感じる。
そんな空間が心地いい。
さて、ぼくの注文である。
胃袋の調子がいいときは、
まず乾杯ビール。
そのあと〆張鶴か、さつま美人に切り替える。
板わさ、玉子焼きをつまみにしばし飲んでから、天ざる。
そこから「かけ」までいってみる。
冷たいのも、温かいのも、旨い。
そうそう、にしんそばである。
にしんそばを頼む日は、朝から決めている。
「今日はにしんそばでいく」と。
魅力的なメニューが多い店なので、一度迷うと迷宮入りする。
だから一本勝負で喜多見駅を降りることにしている。
もちろん、にしんそばも旨い。
東京の蕎麦屋らしく、上品な蕎麦粉で喉越しがいい。
出汁は甘すぎず、ほどよくキレがある。
鰊の歯応えもちょうどいい。
やわらかい。
ぼくがこの店でにしんそばを頼むときは、
ビールと一緒に序盤でいく。
繊細なにしんそばは、舌がバカになる前にいただきたい。
それがホンモノの大人としての流儀だと思っている。
にしんそばを食べ終えると、また小田急線に乗って新宿まで戻らねばならない。
ぼくは新宿から埼京線に乗って帰るのだ。
ただ、せっかくここまで来たのだから、と
成城学園前まで歩いてみることにする。
知っているセレブが犬の散歩でもしていないかな、と
キョロキョロしながらしばし歩く。
カロリーを消費することも、忘れない。
また行きたくなるお店、丸屋。
わざわざ喜多見駅で降りる価値があるお店である。
