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京都・白川町商店街の魔女【21】

21 新しい生活


 生活が変わった。 新しい職場、新しい環境。
 毎日、覚える事に必死であっという間に過ぎていく。

 最初は、週に一度魔女さんの店にきていたのが、月に一度になり、二ヶ月間が空き、となっていった。

 制服の白ブラウスに黒のパンツ。
 おろしたての黒のローファーはまだ、足になじんではいない。
 研修生と書かれた名札をつけて、売場に立つ。

 正直、広いデパートの従業員通路では何度も迷子になった。

 緊張の連続だが、少しずつ仕事を覚え、お客様と接していくうちに、どんどん楽しくなってきた。

 食器の販売は、私が思っていたより奥深いものだった。
 これがほしい、ありがとうございます、だけではない。

 その素材、扱い方、手入れ方法。
 料理と器の合わせ方、季節の演出。
 販売しているブランドの歴史、特徴、こだわりなど。

 ご自宅用なのか、贈り物なのか、どのようなシーンで使用する器をお探しなのか。

 お客様との会話の中からそれらを拾い出し、最善・最適だと考えるものを、場合により提案する。

 勿論、デパートだからそれなりの接客マナー、ホスピタリティが要求される。
 その為の、社内マナー研修にも参加した。

 さらに、デパートとしてのルールや、お会計についての決まりなど、覚える事は山ほどあった。

 最初は何がなんだかで、その場その場に対応するのに必死だった。
 少し慣れてくると、お客様の顔や、周りの状況が見えてきた。
 同じ売場の方だけでなく、周囲の他ブランドの方達とも挨拶を交わすようになった。

 失敗したり、クレームもらって怒られたりもするけれど、波長が合うお客様に出会い、おすすめの食器が売れた時の嬉しさは、予想以上の感動だ。

 はじめて、リピーターさんが来店され、「宮谷さんなら、どれを選びます? この前買ったお皿が、とっても良かったの」と聞かれ、それをご購入いただいた時の喜びは、ずっと心に残っている。

 シフトは早番と遅番にわかれている。
 デパートのオープン前に出勤して準備から担当する早番と、閉店まで勤務してクローズ処理をしてから帰る遅番。

 売場、ブランドによっても、シフトは違うらしい。
 色んな事を、周りの方から教えてもらう。

 家に帰ったら、疲れているので本当にシャワー、ご飯、寝る、の繰り返し。
 休みの日も、ゆっくり寝て勉強しての繰り返しで、なかなか余裕がもてなかった。

 がんばった甲斐があって、私は3ヵ月の研修期間を終了し、試験にパスして、契約社員になった。
 名札から、研修生の文字が消えた。

 と同時に、クリスマス、年末年始へと向け、怒涛の日々に突入した。

 12月のクリスマス商戦を終え、二月ぶりに商店街に来た。
 あちこちに顔を出し、色々と買い物をする。

 商店街を吹き抜ける風は凍えるように冷たい。

 そう言えば、商店街の冬を体験するのは初めてな事に気がついた。
 
 もう、何年もここに通っている気がしていたので、不思議な気分だ。

 自分が販売する側になって、はじめてわかった事があった。

『お店を応援する』って事は、『買物する』という事なのだ。

 買物は、お店を存続させるために、とても大切で必要不可欠。
 私は、修行させてもらっていた時には、わかってなかった。

 師匠は一円も私からとらず、色々とお世話してくれたのに、私はそれに甘えていたのだ。

 恩送りで他の人へあげたらいい、とは言われたものの、心の底にずっと、何かをしなくてはという気持ちはある。

 でもまあ、長期スパンでいいか、とも思っている。

 師匠のお店をのぞく。
 幸いにもお客様はいなくて、師匠は一人だった。
 机の上には、いつものティーカップと本が。この後、すぐ来客者はなさそうだ。
 私はホッとして、軽くノックをしてからドアを開けた。

「こんにちは。お久しぶりです。これ、少しですがお土産です」

 私は商店街で買ったお菓子と、デパートから買ってきた洋菓子を渡す。
 店の中は、そんなに暖かくはなかった。
 椅子に座ると、師匠がぷよぷよの布袋を膝にのせてくれた。充電式の湯たんぽだそうだ。

 温かくて、一気に幸せな気分になった。

「あらためて、久しぶりやね。めっちゃ元気そうやん! ミサキちゃん、自信が顔にあらわれてるで」

「いえ、まだまだですけど、うん。すごく楽しいです。私、今の仕事、好きです。あ、無事、契約社員になれました!」

「おめでとう! よかったなあ。ほんまに充実してるんや。その本気の笑顔見れて、私も嬉しいわ」

 タロットカードで来年の運勢をみてもらう事にした。
 このお店で、初めてお金を支払った。
 未来の位置に、私は星のカードをひいた。

「ええやん、みさきちゃん。来年はますます、飛翔の年になりそうね」

「嬉しい、よかったです。もう少し落ち着いたら、ちょくちょく顔だしますね。師匠のお話もゆっくり聞きたいです」

「ふふっ、そうね。また次に会った時に、色々話しましょか。聞かれた事に、全部答えるわ」

「ありがとうございます。楽しみにしています」

 穏やかな時間だった。
 私も師匠も、お互いにリラックスしているのを感じた。

「今日はありがとうね、ミサキちゃん。ほな、また。どうぞ良いお年を」

「ありがとうございます。あの……翔子さん、も、良いお年を」


~続く~

お読みいただき、おおきにです(^人^)

イラストはAIで生成したものを使っています。

次話⇩



 1話からまとめてあるマガジン⇩


【この物語について】

失恋して痛みを抱えた20代の女性が、レトロな商店街で「魔女いてます」の看板をみつけて、物語が動き出します。自称魔女からだされる様々な課題をこなし、商店街の個性的な店主達と交流する内に、癒され成長していく『まったりスポコン系シスターフッド』のお話です。

【こんな方におすすめ】

🟢毎日何だかしんどい、心をデトックスしたい

🟢ちょっとお節介な年上の先輩に背中を押してほしい

本作は、主人公の成長譚であると同時に、私的な『実在する大好きな場所を頼まれてもいないのに勝手に物語で応援する実験』でもあります。懐かしい商店街と地域コミュニティをご体感いただいた後は、ぜひおうちの近くの商店街でお買物を👍

⏩️京都東山の某商店街をモデルにさせてもらいましたが、内容は完全創作です。現実の店舗、存在と一切関係はございません。ご理解の程宜しくお願い致します。

他サイトにも投稿あり

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