ときめきトゥーシューズ #毎週ショートショートnote
英国製のトゥーシューズ作りにこだわる吾郎の店に、一人の少女が来店した。吾郎は気付いていた。ここ数週間、彼女が窓越しに店内の様子を窺っていたことを。
吾郎のトゥーシューズは一点物で高価だ。
所作からしてまだ新人であるだろう少女に、手の届くような物ではない。
それでも、彼女は扉を開けた。
「……あの…。」
声を聞いた瞬間、吾郎はハッとして顔を上げた。
その声は、プリマドンナを目指しながら夢叶わなかった娘、紗月の声そのものだった。
陽葵と名乗った少女は、顔を紅潮させながらバレエに懸ける思い、吾郎の靴に対する憧れを滔々と語った。
全てを聞いた吾郎は、店の奥から一つの箱を取り出した。
亡き娘のために作り上げた、一足のトゥーシューズ。
まるで奇跡のように、陽葵の足にピッタリだった。
二年後。
吾郎はステージで踊る陽葵を見つめていた。
若きプリマを支えるトゥーシューズは、紗月の夢と陽葵のときめきを繋ぐ架け橋になっていた。
本文395文字
こちら、田原にかさんの「毎週ショートショートnote」の参加記事となります。
今週もいいお題でした!
なんというか、ほんと皆さんワードセンスが素晴らしくて裏山!
田原にかさん、皆さん、今週もどうぞよろしくお願いします!
<おまけ>
裏お題:ときどき東照宮
山に抱かれた神域はいつものように静謐だった。
観光客の喧騒が遠い潮騒のように響く。
「今日も見つからなかったか……。」
拝殿の裏手、鳴竜の意匠が施された柱からかすかな声が聞こえてくる。
声の主は、ここに祀られているはずの徳川家康公。
正確には、その霊だ。
家康公は毎週火曜日の午後、数時間だけ東照宮にやって来て「理想の家臣」を探している。
「正信や康政とは言わん。だがせめて、この国の行く末を語れる若者はおらんのか。」
「東照宮にいるのは観光客だけですよ。」
日光市役所観光課の最重要業務担当となった伊藤は、静かに言った。
「観光客、か……。日ノ本は平和になり過ぎてしもうたのかのう……。七日後にまた来る。次に会う者には、わしが江戸幕府を開いた理由を問うてみようと思うのじゃ。」
そう言うと、家康公は参拝客の列が途切れる一瞬を見計らい、深い杉木立の中へ消えていった。
来週も静かな神域の裏側で、将軍のときどき東照宮「怪談」が開かれる。
本文406文字
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