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創作大賞感想 死曲

霧の向こうで味わう、人生の告解

猿荻レオンさんの「死曲」を拝読させていただきました。

作品を読んで最初に驚いたのは、その世界観の不思議な手触りでした。
山奥へ続く道。圏外になるスマートフォン。そして、左手で「15時23分」を指したまま止まっているカシオのプロトレック。

こうした現実的な小物が丁寧に積み上げられているからこそ、蔦に覆われた修道院や「最後の晩餐レストラン」という異様な存在が、かえって現実味を帯びて見えてきます。

私は読んでいるうちに、この作品をファンタジーとしてではなく、どこかに実在する場所の体験記のように感じていました。

調理を担う小動物たち、知性を宿したシマフクロウの先生、そして得体の知れないシェフ。並べてみれば童話のような要素ばかりなのに、漂っている空気はむしろ静かな恐怖です。

特に印象的だったのは、料理の描写と不穏さが同居していることでした。

美しい料理が並ぶたびに安心するのではなく、「こんなに美しいものを、なぜ私は警戒しているのだろう」という感覚を覚えながらページをめくっていました。

霧の匂い、山の冷気、食卓の熱気。
そのすべてが五感に直接触れてくるようで、「世界へ没入する読書」を心行くまで味わいました。

ルイの寂しさ

この作品には魅力的な登場人物が数多く登場します。
けれど私が最も惹かれたのは、ルイという存在でした。
彼はとても美しい。けれど、その美しさにはどこか影があります。

自分が何者なのか分からないまま、それでも日々の仕事をこなし、人に微笑み続ける。その姿を見ていると、「人は過去を失っても前へ進めるのだろうか」と考えさせられました。

一方の雄二もまた、過去の選択や現実の重さを抱えながら生きています。

だからこそ二人は、まったく違う境遇でありながら、どこか似た孤独を抱えているように見えました。

不穏な出来事が続く物語の中で、二人が交わす何気ない会話は、読者にとっても束の間の休息です。

私は二人の関係を友情とも恋愛とも感じませんでした。
むしろ人生の途中で偶然出会った「迷子同士」のように思えたのです。

だからこそ、物語の終盤に向かうにつれて、二人が共有した時間そのものがかけがえのないものに見えてきました。

読み終えたあとに振り返ると、私の心に残っていたのは大きな事件ではなく、二人の間に流れていた静かな時間だったように思います。

これは「時間」の物語だった

読み始めた頃の私は、この作品を不思議なレストランを舞台にした幻想譚だと思っていました。

けれど読み進めるうちに、その印象は少しずつ変わっていきました。

この作品が本当に描いているのは、料理そのものではなく、人が抱え続ける後悔や記憶、そして選択なのではないか。

そんなことを考えるようになったのです。
そして読後、なぜか私の頭に残り続けたのは料理ではなく「時計」でした。

冒頭で印象的に描かれるプロトレック。
そして終盤で象徴的に登場する、もう一つの時計。

それらは単なる小物ではなく、登場人物たちが歩んできた時間そのものを映しているように感じられました。

特に物語の最後に描かれる「わずかな時間の変化」は、とても静かな場面でありながら、不思議な余韻を残します。

私はそこに、「過ごした時間は決して消えない」という小さな希望を見た気がしました。

もちろん、それが正しい読み方なのかは分かりません。

けれど読み終えたあと、自分の腕時計に目を落としたとき、針が刻む一分一秒が少しだけ違って見えたのです。

『死曲』は、美食と幻想の物語でありながら、同時に時間と記憶の物語でもありました。

読者の胃袋ではなく、心の奥にある後悔や願いにそっと触れてくる。
そんな静かな力を持った作品だったように思います。


<作者のご紹介>

猿荻レオンさん、と言えば、私が真っ先にイメージするのは「酒(ビール)」と「食」。それらを独特のユーモアとキレでまとめ上げ、「作品」に仕上げる方。

スペース配信でそのお声を耳にしてからは、「アンニュイな雰囲気なのに底抜けに明るく豪快な笑い方をする方」となりました。

そうした意味では、元々が二面性というか、意外性を持っていたのかも知れないのですが、本作にはまさに、度肝を抜かれました。

「えっ! 全然真面目じゃん!」(失礼!)

普段のnote記事からは想像もできない、まさに「真髄」を見せられたような文章。

テーマも哲学的で、キャッチコピーの「この門をくぐる者は、希望を捨てよ。」は、かの有名なダンテの「神曲・地獄篇」の地獄の門に書かれている有名な一節です。

物語も……はっ! やばいやばい、また感想書き始めてるじゃん!

とにかく、猿荻さんを知る人も知らない人も、一度は読んで欲しい作品です!

その他の応募作はこちらの記事から!


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