「透明な長靴」(ユニシロシリーズ)(長靴を履いた男の続編です)
湯煮史郎が見つめているのは、
世にも不思議な長靴です。
どこが不思議かと言うと
長靴が透明なのです。
シンデレラのガラスの靴のように
透けているのです。
「あ〜あ、この長靴、売れるかなぁ」
と、ため息混じりの独り言、
その声が近くにいた女性店員の松原千恵子の
耳に届くのでした。
困っている湯煮史郎の顔を
見ると嬉しさを隠せない彼女は、声が弾んでいます。
「どうしたのですか?店主さん、
ため息ばかり吐いてますよ。
さっきから・_・〆」
「これなんだよ、見てくれよ。
この透明な長靴をね、仕入れしたんだけど
売れるかなぁって、考えてるんだよ
どう思う、君は・・_€」
「何故、長靴が透明なんですか?
不思議な長靴ですね。」
訝しむ思いで松原千恵子は言うが
「そうだろう、不思議だろう。
僕も不思議と思ってさ、購入したんだけど、
透明な長靴なんて、意味無いよな。
売れなかったら大損だよ」
と、嘆く湯煮史郎に
「そんな事いつもの事でしょ」
と、冷たく言い背を向ける松原千恵子だ。
だが、「捨てる神あれば拾う神あり」
の諺があるように、奇特な方がこの長靴を
買っていったのだ。
さらにそのお客はわざわざ、お礼を言いに
ユニシロ店に訪れてくるのであった。
「店主さん、この透明な長靴は効果抜群でしたよ。」
店に入るなり、お客さんが湯煮史郎に挨拶を
している。
「効果抜群って、
雨の日に履いても大丈夫だったのですね。」
湯煮史郎は応えるが、お客はその事に応える事なく
「この透明な長靴を履いて歩くと、みんな振り返るんだ。
僕って、あまり注目されていないから、嬉しいんだ。
みんな、雨の中を裸足で歩いているように思うだろうね。
みんなが僕を凝視するんだよ」
と、声をイキイキと弾ませている。
「それにね。僕の憧れている女性がさ、
銀河鉄道999のメーテルに似ている
女性だけど、一度しか会っただけなのに
僕の事を覚えてくれたんだ。
何故って、この透明長靴を見てね印象に残った
だって、嬉しいね」
「それは、良い事です、お客様。
何を隠そう、隠しはしませんが、
この透明長靴には、人の記憶に残る
アイテムが施されているのです。
嘘と思っていらっしゃるなら、この透明長靴を
履かずに、その人前に行ってください。
きっと、貴方を忘れているはずです。」
と、湯煮史郎は口からの出まかせを
平然と言うのであった。
その言葉を反感を持って聞いていたのは
負けず嫌いの男。
男は決意した!
…この長靴を履かずに彼女に会っても
彼女が僕の事を覚えてくれているはずだ!…
紫陽花駅にある喫茶店「しずく」。
いつものように、ガラスの扉を開けると
黒猫がまばたきもせず、迎えている。
「いらしゃいませ、」
と涼やかな声はメーテルに似たオーナーの女性。
…今日は透明長靴を履いてないが、
オーナーは僕を覚えているだろうか?…
と、不安に思うが、
「あら、お久しぶりです。
この前の破れた靴下を履いていたお客様ですね」
…そこかよ、顔で覚えていてくれよ…
