【3分間小説】春へ続く帰り道|車輪の唄 ― BUMP OF CHICKEN
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
夜の空気はまだ冷たい。
春が近いと言われても、夜は冬の名残が残っている。
「重くない?」
大きなカバンをもつ妹に聞いた。
すると妹は肩をすくめて笑った。
「大丈夫!これくらい平気」
昔からそうだ。
強がるとき、少しだけ照れたみたいに笑う。
自転車を押しながら、二人で駅へ向かう。住宅街は静かで、タイヤがアスファルトをこする音だけが小さく響く。
気づけば妹はもう18歳。
ランドセルを背負って、俺の後ろをついてきていた小さな背中が、今は俺の隣を同じ歩幅で歩いている。
川沿いの道に出ると、街灯の光が水面に揺れていた。
「東京ってさ、人すごい多いよね」
妹が言う。
「らしいな」
「人酔いしちゃいそう〜」
そう言って笑う声には、楽しみと少しの不安が混ざっていた。
駅前の明かりが見えてくる。思ったより、あっという間だった。
妹はここから1番遠い切符を買い、俺は1番安い入場券を買う。
ホームで列車を待つ。いつもと変わらない会話。
ふいに妹がこちらを向いた。
一瞬だけ言葉を探すように口を開き、それから小さく息を吸う。
「お兄ちゃん」
呼ばれて妹に向き直す。
妹は笑っていた。でも、その笑顔の奥には、少しだけ涙が滲んでいた。
「ありがと」
短い言葉だった。
だけど、その一言に、いろんな時間が詰まっている気がした。
両親がいなくなった日。
二人で食卓を囲んだ夜。
失敗ばかりの家事で笑った日。
全部まとめて、置いていくみたいに。
妹は背を向け、列車に乗り込む。
ドアが閉まる前振り返り、軽く手を振った。
それだけで、もう十分だった。
俺は残された自転車のハンドルを握る。妹が長いあいだ乗っていた自転車だ。
タイヤを転がしながら、来た道をゆっくり戻る。
夜風は、少しだけ暖かくなっていた。
春は、もうすぐそこまで来ている。
笑っただろう あの時 僕の後ろ側で
振り返る事が出来なかった
僕は泣いてたから
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。