【3分間小説】設計図の中の夢と六畳一間|東京 ― ケツメイシ
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
また、やらかした。
三度目だ。先輩の机に置いた図面が、音を立てて戻ってくる。赤ペンの跡が、紙の上で血管みたいに広がっていた。
「後輩くんさあ…」って言いかけて、先輩はため息をつきながら途中でやめた。言う気力も失せたんだろう。それがわかるから、余計きつかった。
帰り道、改札を抜けたところで足が止まった。
どっちに歩けばいいか、一瞬わからなくなった。
部屋に帰っても、何もない。
本当に、何もない。
冷蔵庫には賞味期限が二日切れた豆腐。
窓の外は煌びやかなネオン。
隣の部屋から何語かわからない声が漏れてきて、俺には関係ない。
誰にも関係ない。
この街は、俺が死にかけてても歩き続ける。
布団に倒れ込んで、天井を見た。
なあ、俺、東京で何してんだ?
専門学校のころは、夢とか言えた。
建築士になるとか、母さんが好きそうな家を設計するとか。でも現実は、基礎すら満足に引けない。
センスとか才能とか以前の問題だって、自分が一番わかってる。
毎朝、事務所のドアを開けるのに数秒かかる。
今日こそ辞表を出そうと思いながら、結局また席についてシャーペンを握る。意地なのか、惰性なのか、もうわからない。
「帰りたい」
喉の奥から、じわっと出てきた言葉だった。佐世保の、あの家に。釣りの道具が玄関に積んである、魚くさい、狭い、でも——帰りたい。
スマホを手に取った。父の名前が出てきた。
押せなかった。
あの朝のホーム、父は作業着で来た。顔が強張ってた。泣くとかじゃなくて、ただ固まってた。電車のドアが閉まる寸前、声が飛んできた。
「帰ってくるなよ」
そのときは、突き放されたと思った。薄情な親父だと思った。でも今、布団の上で膝を抱えて、ようやく気づく。
あの声、震えてたじゃないか。
帰ってくるな——
それは”お前の帰る場所は俺が死んでも守ってやるから、だから今は死ぬ気でやれ”という意味だったんじゃないか。
言葉が不器用すぎて、真逆の形になって出てきただけで。
泣けなかった。
泣けたら、楽だった。
でも涙も出なくて、ただ喉の奥が焼けるみたいに痛かった。
俺は這いつくばって、明日も事務所に行く。図面を引く。また突き返される。それでも引く。夢とか希望とかそういう綺麗な話じゃない。ただ、帰れないから。帰るわけにはいかないから。
窓の外、東京の光が滲んで見えた。綺麗だとは思わなかった。でも、消えなかった。
名前を呼ぶ君の声が今も胸に残る東京の街に住んでどれだけ慣れてきたって
今も 君を思い出す
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。