【3分間小説】まだ、帰らない|12/26以降の年末ソング ― [Alexandros]
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
部屋は思ったより静かだった。
年末だからといって、何か特別な音がするわけでもない。冷蔵庫の低い唸りと暖房の音だけが、ちゃんと生きている証みたいに残っている。
社会人三年目。
普通に就職して、普通に一人暮らしを始めた。
「順調だね」と言われる度に、どこかでうなずけないまま今日まで来てしまった気がする。
仕事は「忙しい」という言葉で全部まとめてしまうのはずるいけど、理不尽も飲み込むしかない場面も多かった。
強く言い返せるほどの自信もなくて、かといって素直に折れるのも癪で。気づけば少しずつ鬱憤が溜まってきている。
実家は帰ろうと思えば、すぐ帰れる距離。
一人暮らしの家に帰るより、自動的にご飯が出てきて、自動的にお風呂の湯が沸く実家に行きたい気持ちが強くある。
それでも今年は、一人で年を越すことにした。
「帰ってきなさい」という両親の声が、やさしいからこそ、余計に距離を取りたくなった。
「忙しいから」
そう言って電話を切ったあと、少し胸が痛んだ。
嘘じゃない。でも、全部でもない。
夜。
コンビニで買った缶ビールを開けて、音楽をかける。
流れてきた曲はやけにまっすぐで、やけに正直だった。
誰かに評価されるためじゃなく、
強がるためでもなく、
ただ、自分のままで立っているような声。
気づいたら、手が止まっていた。
ビールは苦味を増して炭酸の音は消えつつある。
——ああ、そうか。
頑張れなかったわけじゃない。
ただ、ちゃんと疲れていただけなのかもしれない。
胸の奥に溜め込んでいたものが、ほろほろと崩れた気がした。
涙が出るわけじゃないけど、じんわりと温かい。
窓の外では遠くで誰かが笑っている。
年末の街は、勝手に前へ進んでいく。
それでもいい。
今は、立ち止まっている自分を
無理に否定しなくていい。
ビールを一口飲んで、スマホを置く。
実家からの着信履歴を見つめ、画面を伏せた。
やっぱり帰らない。
でも、今の気持ちは意地を張ってるんじゃない。
一人で乗り越えたい。
新しい年はきっとやってくる。
そのとき自分がどんな顔をしているのかは、まだわからない。
ただ、この夜を楽しめる気がする。
あと少しで今年も終わるけど
ああ何か 忘れてないか
愛想笑いで頑張った自分を
少し褒めてあげよう
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。