【3分間小説】胸を騒がせる夢をもう一度|Grace of my heart ― MAX
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
デザイン専門学校を卒業して早5年、玲(れい)の心はすっかりすり減っていた。
連日の残業と、コンペの落選通知。自分の名前でブランドを立ち上げるという夢は、いつの間にかクローゼットの奥に押し込んだ。
今は他人のデザインの修正や雑務をこなすだけの毎日。忙殺される日々の中で「選ばれない」事実に傷つくのが怖くて、玲は夢から逃げかけていた。
「やっぱ、夢は見るもんじゃないねぇ」
週末の夜、弱音を吐きに訪ねたのは、家具職人の見習いとして働く創(はじめ)の作業場。創は黙々と古い傷だらけの椅子を磨いていた手を止めて、作業机の一番下の戸棚を開けた。

持ってきたのは、玲が昔描いたスケッチブック。
「俺は玲のデザインが好きだよ。本当は、まだ諦めたくないんじゃない?」
『一流デザイナーになったら高く売れるよ!』と渡したスケッチブックを、創はまだ持っていてくれた。玲は、驚きと懐かしさでいっぱいになりながら、ページをめくる。
ふと創に視線を戻すと、彼は温かい眼差しを玲に向けていた。
玲は胸の奥がじんわりと熱くなった。
翌朝、創は玲を呼び出し、1枚のチケットを差し出す。
それは、下町の古い倉庫で開催されている、玲が学生時代から憧れ続けている世界的デザイナー、ギルのゲリラ個展のチケットだった。
「え!なんでギルのチケット持ってるの!?入手困難って聞くよ!」
「ひーみーつ♪」
創はいたずらに笑って、玲の手を引く。
レンガ造りの会場に一歩足を踏み入れた瞬間、玲の目に輝きが戻った。そこには、忘れかけていた自由で鮮やかなデザインの世界が広がっていた。

圧倒されていると、隅で作品のメンテナンスをしているギルの姿が目に飛び込んできた。緊張で固まってしまった玲をよそに、創は彼に向かって歩み出し、声をかけた。そして、二人は笑顔で握手を交わした。
「え!ちょっと創、ギルと知り合いなの!?」
驚く玲に、創はニコッと微笑みかけながら
「彼女、ずっとあなたに憧れてるんです」とギルに玲を紹介した。
「普段はどんなデザインを描いているの?」
無邪気に質問してきたギルに、玲は緊張で震えながらも、ポツポツと話し始めた。日々の忙しさを言い訳に新しいデザインを描けていないこと、自分の才能のなさや選ばれない恐怖を、堰を切ったように吐き出した。
するとギルは、玲の手をじっと見つめ、ニコッと笑いかけた。

「あなたは考えすぎよ!やりたいようにやればいいの。You can do what you wanna do!」
そのパワフルな言葉が、創のくれた温かさと重なり、玲の胸の中で弾けた。誰かのせいにしたり、環境のせいにしたりして逃げるのはもう終わり。
夕陽に向かって静かに決意表明をした玲。
そんな玲に、1冊の新しいスケッチブックを差し出した創。
明日の行方はまだ何も見えない。けれど、創の手を握って夕暮れの街を歩く玲の横顔には、もう迷いはなかった。
You can do what you wanna do
愛はチャンスをくれる 特別な力で
Do what you wanna do
胸を騒がせる夢も 信じられる
いいなと思ったら応援しよう!
チップありがとうございます!
大変はげみになります。