【3分間小説】もう会えない君は、空の向こう|銀河鉄道の夜 ― GOING STEADY
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
ほとんどの荷物は、すでに段ボールの中に収まった。
ガムテープで留められた茶色い箱の山を、春を告げる少し生ぬるい風が窓から吹き抜けていく。来月から、俺は東京の大学へ進むためにこの街を出る。
がらんとした部屋の床に寝転がり、CDウォークマンの再生ボタンを押した。 ヘッドホンから流れてきたのは、ゴイステの『銀河鉄道の夜』。 ひび割れた爆音のギター。空間を貫くようなシンセサイザー。そして、あのひたむきで、泥臭くて、どうしようもなく切ない歌声。

目を閉じると、一瞬で14歳のあの頃に引き戻される──
彼女の名前は、夏美。 同じクラスで、同じ図書委員。放課後の図書室、窓を開けると、金木犀の香りが風に乗って部屋いっぱいに満ちていた。
夏美はいつも、クラスの女子が聴かないようなうるさいバンドのCDを、こっそり学校に持ってきては俺に聴かせてくれた。
「これね、すごくいいんだよ!夜、部屋で一人で聴いてると、本当に夜空を飛んでるみたいな気持ちになるの」
そう言って彼女が貸してくれたのが、この曲。 一つのプレイヤーから伸びたコード。右のイヤホンは俺の耳に、左のイヤホンは夏美の耳に。 図書室の窓際で、金木犀が混ざった風に吹かれながら、俺たちは静かに音の洪水に溺れていた。
金木犀の香りと音楽が、俺にとっての『青春』そのものだった。

「私、隣町に引っ越すことになったんだ」
曲が終わった瞬間、夏美は静かにそう言った。
まだ、中学生に携帯電話なんて贅沢品だった時代。連絡を取る手段は、家の固定電話か、手紙しかなかった。
「でも、大丈夫だよ!いつでも会えるよ。」
そう言ってはにかんだ夏美の笑顔を、俺は信じて疑わなかった。 だけど、現実はそんなに甘くはなかった。
引越し先の住所に送った手紙は、二度ほどやり取りしたきり、お互いの環境の変化とともにいつの間にか途絶えてしまった。あの頃「いつでも行ける」と思っていた距離は、中学生にとって、そして高校生になっても、途方もなく遠かった。 気づけば約束は埃をかぶり、俺たちはそのまま大人になってしまった──
ウォークマンの中で、CDが小さく回転する「キュルキュル」という音が耳の奥で響いている。 部屋の窓から入る春の風が、部屋に残ったわずかな生活の匂いをさらっていく。
もう、彼女がどこで何をしているのかは分からない。 この広い空のどこかで、別の誰かと笑っているのかもしれない。大人になった俺は、あの頃の金木犀の香りも、風の優しさも、ただの「思い出」として胸の奥に仕舞い込もうとしていた。
だけど、このメロディを聴いている間だけは、あの青く、不器用で、全力だった日々が、ほんのりとした優しい余韻を伴って蘇ってくる。
もう二度と会えない、大切な人。 俺はゆっくりと身体を起こし、窓の外に広がる夕焼け空を見上げた。 ヘッドホンからあふれる激しいメロディに声を重ねるように、俺は小さく呟いた。
「ハロー 今君に素晴らしい世界が見えますか?」

銀河鉄道の夜 僕はもう空の向こう
飛び立ってしまいたい あなたを想いながら
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。