【3分間小説】 追いかけたのは、風だった|風吹けば恋 ― チャットモンチー
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
7月の地区予選、タイムを見た瞬間に視界が歪んだ。
入賞ラインギリギリの8位。
隣のコースを走っていたサキは、自己ベストを大幅に更新して3位に入っていた。
元々、短距離のセンスは私の方があるはずだった。入部した頃から特別な練習をしなくてもそこそこのタイムが出たし、1年の頃から期待されていたのは私だ。

それなのに、ここ数ヶ月はずっとタイムが伸び悩み、泥沼のスランプにハマっていた。
「ねえ、最近なんで部活来ないの?」
サキからそうメッセージが届いた。
私はそのメッセージに返信しなかった。
うまく走れない苛立ちと、自分を追い抜いていったサキへの嫉妬。惨めな自分から目を背けたくて、夏休みに入ると部活をサボるようになった。
クーラーの効いた部屋でダラダラとテレビを眺めながら、「本気を出していないだけ」「本気を出せば私の方が速い」と自分に言い訳を重ねていた。
8月の上旬、夕方。
買い物の帰りに、たまたま学校の横を通った。
静まり返った夏のグラウンド。西陽が長く影を落とすトラックの上を、一人で何度も何度もスタートダッシュしている影があった。
サキだった。
汗でTシャツを濡らし、息を荒らせながら、何度もタイムを測ってはフォームを確認している。
誰もいないグラウンドで、一人黙々と脚を前へと進めていた。

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
サキが予選で好タイムを出せたのは、運でも何でもなかった。
見えないところで、誰よりも走っていたからだ。それなのに私は、元々のポテンシャルにあぐらをかき、ろくに練習もせず、「スランプだ」と被害者ぶって逃げていただけだった。
「がむしゃらに努力するなんて、ださい」
心のどこかでそう思っていた自分が、猛烈に恥ずかしくなった。
ださいのは"努力すること"じゃない。
逃げている"自分"だった。
翌朝、私は久しぶりに練習着に袖を通し、部活へと向かった。全体練習が終わってみんなが帰った後、夕暮れのトラックに残り、一人でスパイクを履き直す。
すると、後ろから足音が近づいてきた。
「私も一緒にいいかな」
振り向くと、タオルで汗を拭いながらサキが笑っていた。
嫌味のない、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「……別に……いいけど。」
「やった!」

二人で並んで、スタートラインにつく。
「位置について、よーい……」
地面を蹴った。
隣を走るサキを、一瞬だけ見る。
もう、抜かれたくないとは思わなかった。
ただ、もっと速く走りたかった。
夕暮れのトラックを、風が駆け抜けていく。
私も、その風を追いかけるように走った。

走り出した足が止まらない
行け!行け!あの人のところまで
誰にも抜かれたくないんだ
風!風!背中を押してよ
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。