【3分間小説】結びなおす赤い糸|とまどいながら ― 嵐
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
10月の放課後、夕陽がオレンジ色に染める教室で、僕はその言葉を聞いてしまった。
「結衣ちゃん好きな人いるらしいじゃん。お前聞いてる? てっきり結衣ちゃんはお前が好きだと思ったんだけどな〜」
共通の友人たくみが何気なく放ったその言葉が、胸の奥に冷たく刺さった。結衣は幼馴染で、僕たちの関係は「親友」だった。
放課後は一緒に帰り、受験の愚痴を言い合い、くだらないことで笑う。それが当たり前の日常だった。
(……他に好きな人がいるなら、俺は邪魔だよな)
そう思い始めたら、結衣の顔を直視できなくなった。
一緒に帰るのをやめ、話しかけられても適当にはぐらかし、目をそらした。結衣は最初戸惑っていたけれど、次第に傷ついたような顔を見せるようになり、やがて結衣も俺を避けるようになった。
(これでいいんだ。結衣が幸せになるなら)

自分にそう言い聞かせ、会話のないまま冬を越し、あっという間に卒業式当日を迎えた。
式が終わり、教室のあちこちでアルバムを回し合ってメッセージを書き合う喧騒の中、俺は集団から離れた場所に立っていた。
「はい、これ」
不意にたくみから一冊の卒業アルバムを手渡された。表紙のネーム欄には、結衣の名前。
「書けよ。伝えたいことがあるんだろ?」
たくみの真っ直ぐな視線に、心臓が跳ねた。卒業すれば、もう会うこともなくなるかもしれない。戸惑いで手が震えたけれど、意を決してペンを握り、ページの端っこにそっと書き込んだ。
『ずっと好きだった。今までありがとう 颯太』

「サンキュ」とアルバムをたくみに返すと、たくみはそれを持って、人混みの中にいる結衣のもとへ歩いて行った。
俺はその場にいられなくなり、逃げるように校門を出て通学路を歩き始めた。
「颯太……! 颯太待って!」
後ろから走ってくる足音と、息を切らした叫び声。振り返ると、結衣がアルバムをぎゅっと抱きしめて立っていた。目が少し赤くなっている。
「……これ、なに? どういうこと……!?」
結衣が開いたページの端には、俺の書いたメッセージ。
「書いた通りだよ……。俺はずっと結衣が好きだった。でも……お前は他に好きなやつがいるって聞いたから。お前に幸せになってもらいたくて、身を引いたんだ。俺と一緒にいたら邪魔になると思って……」
情けない声で打ち明けると、結衣は目を見開いて、やがてボロボロと涙をこぼした。

「バカ……! ほんとにバカ颯太……!」
「え……?」
「邪魔なわけないじゃん! みんなに『颯太のことが好きなの?』って冷やかされて、恥ずかしくて答えられなかっただけなの……! 急に避けられて、私、嫌われたんだと思ってたんだよ!」
結衣は袖で涙を拭いながら、真っ赤な顔で俺を睨みつけた。
「私が好きなのは……最初から、颯太なの!」
頭の中のモヤが一気に晴れていく。すれ違っていたのは、お互いを想うあまりの「戸惑い」だったんだ。
「……そう、なんだ……そうか、よかった」
情けないやら嬉しいやらで、顔が熱くなっていくの感じる。結衣も涙を拭きながら、照れくさそうに視線を泳がせていた。
「……書いてくれたこと、消さないからね」
「うん。……もう逃げない」
結衣がそっと差し出してきた手を、俺は少し緊張しながら握りしめる。伝わってくる温もりに、お互い顔を見合わせて照れくさそうに笑った。
春の風が吹き抜け、桜の蕾が揺れる。
遠回りしたけれど、繋いだ手をぎゅっと握り直して、並んで春の道を歩き始めた。
とまどいながら僕たちは 不確かな道探して
ためらいがちに走り出す きまぐれな未来きっと
手に入れるために
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