【3分間小説】冷たい夜風を溶かす半額ビール|琥珀色の街、上海蟹の朝 ― くるり
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
「私と飲みたいって思ったことないよね?
酒が飲みたいから誘っていたよね。」
「私が誘う時はいつもあんたと飲みたかったから誘ってたんだよ。誰でもいいわけじゃなかったんだよ。」
「あんたも私と一緒だと思っていたけど、違ったんだね。」
『・・・・・』
「ふっ。図星かよ。」
そう言って私はスマホを持って立ち上がり、玄関に向かった。
『どこ行くんだよ』
「飲み行くんだよ。飲まなきゃやってられないでしょ。」
ダルそうにそう吐き捨て、乱暴に扉を閉める。
夜の冷たい空気に包まれて、私はアパートの階段を早足で下りた。悔しくて涙が出そうだけど、それすらもアルコールのせいにしたかった。
『おい、待てって!』
背後から激しい足音が追いかけてきて、私の腕が強引に引かれた。振り返ると、上着も着ずにTシャツ一枚の彼が、肩を大きく上下させて息を切らしている。
「なによ。あんたは一人で部屋の缶ビールでも飲んでればいいじゃん」
『バカ。よくねえよ』
彼は私の腕を掴んだまま、視線を気まずそうに彷徨わせた。そして、いつもは絶対に言わないような、掠れた声を絞り出す。
『お前さ、俺が酒好きのアル中だとでも思ってんの?』
「……え?」
『酒なんて、ぶっちゃけ誰と飲んでも美味いよ。でもさ、美味い酒飲んで、いい気分になって、その時に隣にいてほしい顔なんて、一人しかいねえだろ』
彼はバツが悪そうに、もう片方の手でガシガシと頭を掻いた。
『誘いやすいって言ったのは、お前がいつも美味そうに飲むからだよ。お前と飲む酒が一番美味いから、だから、断られたくなくて必死だったんだよ。誰でもいいわけないじゃん』
街灯の下、彼の耳が真っ赤になっているのが見えた。
「図星かよ」って言ったときの私の台詞を、そのまま熨斗(のし)をつけて返された気分だった。
「……だったら、最初からそう言いなよ。バカ」
『悪かったよ。ほら、上着。外、寒いだろ』
手に持っていたパーカーを、私の肩に不器用にかけまわす。ふわりと、いつも隣で嗅いでいる、彼の落ち着く匂いがした。
「……で、どこ行くの?」
私が小さく尋ねると、彼はいつもの、ちょっと悪だくみをするような顔で笑った。
『駅前のあそこの居酒屋。今日、生ビール半額だし。……お前と、乾杯しに行きたい』
私は彼の腕をぎゅっと掴み直して、小さく頷いた。今夜の酒は、きっと今までで一番美味しいだろうな。
上海蟹食べたい あなたと食べたいよ
上手に割れたら
心離れない 1分でも離れないよ
上手に食べなよこぼしても いいからさ
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。