【3分間小説】「また来年」を、夜風に逃がして|さくら ― ケツメイシ
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
「あ、いちご飴!」
満開の桜並木に沿って並ぶ屋台の列。
私たちは今年も地元の桜まつりの喧騒の中にいた。
「本当にお前は、昔から花より団子だよな」
隣を歩く幼なじみが、呆れながら優しく笑う。
桜の日である3月27日、毎年開催される桜まつり。
付き合っているわけじゃないけど、学生の頃からいつもこいつと花見をしている。
「はい、お待たせ」
手渡されたいちご飴のパリッとした飴を噛み砕く。甘酸っぱさが口に広がる。そのあとは、湯気が立つたこ焼きを二人でつついて、最後は決まって花見団子。
「ん〜〜〜!やっぱこれだよね〜〜」
ハフハフしながら幸せを噛みしめる。
「団子食ってんのに、口にソースついてるぞ」
差し出したティッシュを受け取りながら、ふと思う。
『大人になったなぁ』
この場所で、この匂いの中で、こうして二人でたわいもない話を連ねていると、10年前を思い出した。昔からこいつは、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる優しいやつだ。
特別な告白があるわけでも、ドラマチックな展開があるわけでもない。
ただ、一緒にいるだけで落ち着く、家族みたいな存在。
夜風に吹かれて、満開の桜がスローモーションのように舞い落ちる。
缶ビール片手に食べ歩いていると、あっという間に並木道の出口、駅に向かう分岐点が見えてきた。
出口が近づくにつれ、心なしか二人の歩く速度が落ちていく。
散り始めた花びらが、私たちの足元を静かに通り過ぎていく。
「……着いたね」
出口に立った瞬間、私は彼の方を振り返り、えへへと笑ってみせた。
精一杯の、いつもの笑顔で。
「着いたね……」
彼の声は、いつもより少し低く、そして重かった。
いつもはここで「また来年!」と、当たり前のように次の約束を交わしていけど、今日は違う。
彼は先月、結婚した。
今夜の「桜まつり」は、彼が「独身最後」の思い出として、私を誘ってくれたものだ。
来年は、彼は新しい家族とこの桜を見にくるかもしれない。
ここに私と彼の姿は、確実にない。
「……じゃあ、またね!」
と手を振った。たぶん、ちゃんと笑えてたと思う。
「おう。またな」
彼もいつものように軽く手を上げる。
私は、彼に背を向けて、駅の方へと歩き出した。
彼も、反対方向へと歩き始める。
背中越しに、彼が遠ざかっていく気配を感じる。
あんなに甘かったいちご飴の味が、今はもう、ただの切なさへと変わっていた。
夜空に浮かぶ満開の桜が、滲んで見える。
さくら舞い散る中に忘れた記憶と
君の声が戻ってくる
吹き止まない春の風 あの頃のままで
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。