【3分間小説】つぼみのままの大人たち|TSUBOMI feat. 九州男 ― lecca
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
春が来るたびに、あの頃を思い出す。
大学一年生の春、サークルの新歓で隣に座ったのが彼だった。
「俺、緊張してる人が苦手なんだよね」
と笑いながら話しかけてきたくせに、一番緊張していたのは彼の方で、それがなんだかおかしくて、私たちは自然と笑い合っていた。
付き合い始めてから八年。
気づけばそんなに経っていた。
「結婚するのは彼しかいない」と、疑ったことすら一度もなかった。社会に出てからも、それは変わらない。
変わったのは、私たちを取り巻く毎日の方だった。
残業、締め切り、上司の顔色、終電。
気づけば連絡は用件だけになって、会う約束は「また今度」で流れていった。月に一度会えればいい方で、週末会わないことが確定するとホッとした自分に気づいたとき、私はひどく傷ついた。
──会わない方が、楽だって思ってしまった。
やっとの休日に会っても、どこかぎこちない。
話題を探している自分がいた。他愛もないことで言い合いになって、帰りの電車でひとり泣く夜もあった。
それでも「好き」という気持ちだけは本物だと信じていた。
ある夜、スマホを見ながら気づいた。
彼の名前を見ても、もう胸が動かない。
いつから、彼のことを考えなくなったんだろう?
ちゃんと終わらせなきゃ。曖昧なまま流れていくのだけは嫌。
勇気を出して「話したい」とメッセージを送ったら、彼もすぐに「俺も」と返してきた。
公園のベンチで、ふたり並んでしばらく黙っていた。桜がもう散りかけていた。
「最近、一人でいる時が楽なんだよね」と私が言うと、「俺も同じ」と彼が続けた。それだけで、全部わかった。好きだから余計につらかったこと、すれ違うたびに自分を責めていたこと、それでも戻る場所が見つけられなかったこと。
泣くつもりはなかったのに、涙が出た。
彼も目を赤くして、空を見ていた。
大人になろうと頑張っていた私たちだけど、つぼみのままで終わってしまった恋。花は咲かなかったけど、あの頃のふたりで前だけ見ていた時間は本物の愛だった。
春が来るたびに思い出す。
それだけは、ずっと変わらないと思う。
手を繋いで超えてきたそれぞれのシーン
胸に残して 時は流れるから
ねぇ、好きだよってもう言えない
夜も昼も つぼみの時期をあなたといた
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。