自分の「デフォ」に気づく
有標、無標
すばらしき日本語 という本を読みました。
僕は言葉について勉強したり考えたりするのが好きなので、こういった本は目についたら読むようにしています。
面白いので、ぜひ読んでみてください。
この本で、特に興味深かったのが5章の「愛せない日本語」です。長年、日本語講師をしている著者が、文字通り好きになれない日本語を取り上げています。
その例として 「共働き夫婦」 を事例に出して批判しています。「片働き夫婦」という言葉は聞いたことがなく、つまり、「夫婦のどちらかのみが働いている」ことが前提となっている点を著者は批判しています。
その文脈で 「デフォ」 という言葉に触れています。著者がネットで「デフォのラーメン」という記述を見たことがきっかけだったようです。
どのぐらい市民権を得ている言葉なのかはわかりませんが、僕は高校生の時分(1995年ぐらい)から使っていました。僕が当時ハマっていたコンピュータ周りで頻出していた言葉だからだと思います。
著者の専門である言語の世界では、デフォと似たような概念があるそうです。少し引用します。
実は言語学にも、似たような考え方があります。2つの対立項があったとき、その違いを生むシルシがついている方を有標、シルシのついていない方を無標と呼びます。ごく平たくいってしまえば、フツーが「無標」、トクベツが「有標」です。シルシなしのフツーが「デフォルト」です。
たとえば、ほとんどの言語において、「肯定」は無標で、「否定」は有標です。「飲む」にくらべて「飲まない」は長いし、「飲める」にくらべて「飲めない」は長い。また、「単数」は無標で、「複数」は有標です。the cat にくらべて the catsはsという一文字分長い。意味がフツーのものは、形も短く単純。意味がトクベツのものは、形も長く複雑。トクベツを表すときは、たいてい、フツーに何かがくっついた形になるのです。
有標、無標という考え方と有標の場合には、何かが付与されることが私にとって学びでした。
身の回りの言葉からデフォを逆算する
前述の著書では、いくつかの言葉が事例として挙げられています。
共働き夫婦 → 片働き夫婦とは言わない
女流作家 → 男流作家という言葉はない
女子アナ → 男子アナとは言わない
女性がトクベツがゆえに、有標になっているのです。
さて、ここまでの考え方を仕事やキャリアに適用して考えてみたいと思います。
使えるキャリア理論 その3 ABC理論 で紹介したように、人はそれぞれ価値観(Belief)を持ち、その価値観のフィルタを通して物事を認識し、感情や言動として出力されます。
価値観は、言い換えれば「自分のデフォ」 です。社会的な常識(Common Sense)であるケースもあるでしょうが、その常識を受け入れることも含めて自分の価値観です。
男性育休 → ”女子アナ”の逆。育休は女性が取るのがデフォ
最近、多くの企業が勧めるようにになりました。取得率だったり、日数だったりを公開をする事例も増えてきました。
育児は女性がするものだというデフォが見える言葉です。
残業 → 残るためには、基準が必要
最初に思いついたのが「残業」です。たぶん、みなさんの身の回りでよく使われる言葉でしょう。
残業は、「業」に「残」がついた有標です。言うまでもないですが、残業とは「残って業務をすること」です。残るためには、なにか基準がないといけません。
これは、いわゆる「定時」です。一般的には、17:00~18:00ぐらいの間のどこかが定時のことが多いかと思います。私の勤めている会社は17:30です。
つまり、17:30に業務を終了することが無標であり、デフォだという価値観です。
週休二日 → 働いていることがフツー
日本では「週休二日制」という言い方をします。つまり、休みが有標であること、すなわち働いていることが無標で、デフォだということです。
ちなみにドイツでは、Fünftagewoche という言い方で、これは「週5日勤務」を意味するそうです。つまり、日本語とはデフォが逆です。
有標を意識して、使う言葉を吟味する
有標・無標という言語学の概念の紹介。それは「デフォ」の明示であり、身の回りの有標に目をやることで自分のデフォ=自分の価値観に気づく方法について紹介しました。
言葉の力がすごいものであることは既知のものかと思います。
例えば、「残業」という言葉を使っている限り、そこには「定時」が存在し、基準となる時間を仕事の中で必ず意識することになります。
果たして 「定時」が存在することが、自分の働き方やキャリアにとって望ましいものなのでしょうか?
自分の価値観に気づき望ましくないものはそれを変えていくことを、有標の言語化によって自ら実践することができます。
今回はそんなお話でした。
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