きにのぞみて
自分の目標とする四文字熟語を選んでその理由を書きなさい、そんな課題が中学生のとき、国語の授業で出された。
なんだか変な課題だけど、熱心な先生だったし、十分に時間をかけられた授業だった。当時はそういうのが流行ってたんだと思う。
ところで“中学生のとき”の枕詞として、股にひどい皮膚病を抱えていた、とつけたくなるのは春樹のせいだし、実際にひどい皮膚病を抱えていたのは事実だ。痒かった。みんなそうだったと思うけども?
その課題に対して、僕は適当な理由を添えて「臨機応変」と書いて提出した。
今になって考えるとちょっと小賢しい。
賢しげなガキの発想である。状況によって対処方法をその時々で変えますよ、という四字熟語は、目標なんか決めても意味ないじゃん、どうせ変わるんだし、という意図を示して、教師をおちょくる意図が感じられる。まさに厨二病というにふさわしい。なにもできないくせにとにかく反抗してみせるのだ。僕にもそんな時期があった。
選んだ理由もなにかそれらしく付け足して書いていたのだろう。何が起きるか分からないこの時代とかなんとか。今だってブイユーシーエーな時代かもしれないけど、そのときだってVUCAな時代だったのだから。
提出したあとしばらく経ってから、その国語教師から職員室に呼び出された。彼はクラス担任でもあった。
他の用事が済んだ後、提出していた僕の目標”臨機応変”について言われた。
「目標のことだけどさ」そう切り出す。
強い口調で「お前はいつもそんなふうにしてるだろうが」と言われた。
それは目標にならねえんじゃねーか、そんな感じで厳しく指摘された。
口調は半分冗談だったけど、半分くらいは本気で言われていたと思う。
立派な体格をしていて、まるで体育教師みたいな国語教師だった。
太い眉毛をして、冬でも薄着でいつも息切れしているような先生で、30歳を少し過ぎたとか、それらくらいの年齢だったのではないかしら。今の僕からしたら随分若いのだ。
当時の僕は、ヘラヘラ笑ってなにか適当なことを言ってその場を収めたのだろう。その後の記憶は薄れている。ただ自分の浅はかさを指摘された、ということだけ強く印象に残っている。
良い先生だったんだな、と今になって感じる。
この歳になってみて、教師という仕事は大変で尊いな、と思う。
赤の他人のことを真剣に考えてくれていたのかもしれないから。
ちなみに仲が良かった友達が提出した四字熟語は、『四面楚歌』だった。
こっちのほうがさらに目標じゃないんじゃないか、とも思う。城が四方向とも敵に囲まれてしまっている。逃げ場がない。周りから敵国の歌が聞こえている。どんな状況を目指す目標なのか分からない。
でも面白い。突き抜けていると感心した記憶がある。周り全体が敵になるくらいにビッグになってやるみたいな意味にもとれる。
彼は抜群にセンスがある男だった。
とはいえ何が正解だったのかはいまだに分からないし、別に怒るほどのことでもないじゃんという気もするし。そして本当にあったことを書いてるからエピソードが弱い。
