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決意した日

もう会社を辞めようと決意した日のことを、今でもハッキリと覚えている。


前職でのはなし。
ちょうどいまくらいの季節だった。
中堅社員が何人か集められ、研修を受けることになった。

スペースの都合か、それとも特別感を出したかったのか、わざわざ社外の貸し会議室でその研修は行われるという。
職場は僻地にあり、交通の便がすこぶる悪かった。
朝と夕方以外はバスの本数が極端に減る。1時間に1本、ワイルドな立地。
だいたいそういうものだと工業地帯の相場は決まっているけど。

1時間に1本のバスを待たなくてはならないので、通勤以外で社外に出るのはとにかく億劫だった。

それを考えると、会場の場所にも意味があったのだと思う。
これはスペシャルな研修なんだぞ、わざわざお外に行くんだから。
という経営層からのメッセージ。

おそらくは次世代の管理職候補を選定するのが目的だったのかもしれない。


当時の自分は、中くらいに堅い社員だった。
それを中堅社員と呼ぶのであれば、中堅社員だった。

少なくとも年齢的には、そういう歳だった。年齢というのは生きていると自然に増えるから、なにもしなくてもいずれは適齢期になる。
もちろん能力は別なのだけど。ともかく僕も適齢期だったとは言える。

そういうわけで僕にも招集メールが来た。
ご丁寧に、大切な研修であるため、他の用事に優先する。欠席することは罷(まか)りならない。などと書き添えてあった。
とにかく大切な研修なんだな、とは思った。

僕にも召集が来たことからもわかるように、その会社が深刻な人手不足だったことは明らかだ。


そして研修当日。
中堅社員が5、6人が貸し会議室に集まった。
小さい会社だから全員顔見知りなのだが、どこかよそよそしい。
部屋は安っぽい妙に明るい壁の色。長机とパイプ椅子、ホワイトボード。窓から見える見慣れない風景。

しばらくして満を持して登場した講師。
それは脂の乗った中年男性。
いろいろな企業のコンサルタントをしており、当社の経営企画などにもしているとのこと。

少なくとも、マッキンなんとかとか、アクセンなんとかから来た人ではなかった。
そっちの方から来れば良いというわけでもないとは思う。

とにかく、午後の半日、講師を勤めると、自信満々にその男は言った。
ワーク形式なども取り入れて素晴らしい研修にしていきます、と請け負った。

「さっそく始めましょう」
そう言って、男はホワイトボードに大きく縦線と横線を書いた。盤面を四分割するように。
次にそれぞれの領域に、大きな文字でこう書き入れていった。

火、水、風、土

そう書き入れた。


「お、アリストテレスの四元素説の話かな」
と僕は俄然興味を持った。ギリシャ哲学から始まる研修なんて素敵やん、とさえ思った。ひねりが効いてると好感を持った。






そして講師は続けた。
「人間の性格はこの四つに分けられます」







そのときの気持ちを文字で表すのは難しい。
脳天に衝撃を受けた。冷や汗が出た。
少しでも面白そうと思ってしまった自分が情けなかった。

俺はもう限界だと思った。

何も考えられないまま、とにかく研修を終えた。講師に反抗したりはしなかった。とにかく従順に、研修を終えるためにとにかく終えた。

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