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サクソフォーンが発明された「本当」の理由

サクソフォーンの歴史をオンラインで検索したり、実際に学生達に話を聞いてみると色々な見解が聞こえてきます。実に色彩豊かな楽器であると共に、その歴史もとても色とりどりです。それが故にこの楽器の発端に関して特に誤解が多いのも事実です。私が専門家として、様々なエビデンスを考察した結果、正しい認識が特に必要だと感じてきました。アメリカでの講義やマスタークラスなどで常にこのトピックを共有してきたのですが、今回はノートにまとめてみました。

では最初に、オンラインで「サクソフォーンの発明起源」を検索すると以下の内容が出てきます。(1〜5、まとめ)

1. サクソフォーンの誕生

発明者:アドルフ・サックス(Adolphe Sax)

  • 生年:1814年(ベルギー・ディナン)

  • 職業:楽器製作者・音響技術者

サクソフォーンは
👉 1840年代前半にアドルフ・サックスが発明しました。

彼は当時の楽器に対して次の問題意識を持っていました。

  • 木管楽器は音量が小さい

  • 金管楽器は音色が硬すぎる

  • 両者の中間的な音色と音量を持つ楽器が必要

この発想から、

木管の表現力 × 金管の音量
を兼ね備えた楽器としてサクソフォーンが設計されました。

2. 特許と正式な成立

  • 1846年:サクソフォーンは正式に特許登録される

  • 特許名:
    「サクソフォーン属(Saxophones)」

この時点で、

  • ソプラノ

  • アルト

  • テナー

  • バリトン
    など、複数サイズの体系的な設計がすでに存在していました。

👉 つまり、サクソフォーンは偶然生まれた楽器ではなく、理論的・音響的に設計された近代楽器です。

3. 初期の使用分野:軍楽隊とクラシック

軍楽隊での採用

19世紀半ばのフランスでは、

  • 屋外演奏

  • 大音量

  • 音程の安定

が求められ、サクソフォーンは**軍楽隊(ミリタリーバンド)**で重宝されました。

クラシック音楽での扱い

よくある誤解ですが、

❌「クラシックでは使われなかった」
⭕「使われたが主役にはなりにくかった」

が正確です。

以下の作曲家はサクソフォーンを作品に取り入れています:

  • ビゼー(『アルルの女』)

  • ラヴェル(『ボレロ』)

  • ドビュッシー

  • グラズノフ(サクソフォーン協奏曲)

4. ジャズとの関係(誤解されやすい点)

よくある誤解

「サクソフォーンはジャズのために作られた」

👉 これは誤りです。

正しい歴史

  • サクソフォーン誕生:1840年代

  • ジャズ誕生:19世紀末〜20世紀初頭(アメリカ)

つまり、

サクソフォーンの方が約50年以上先に存在

ジャズミュージシャンたちが

  • 音量

  • 表現力

  • 人の声に近い音色

を評価し、後からジャズの中心楽器になったのです。

5. 現代における位置づけ

現在のサクソフォーンは、

  • クラシック

  • ジャズ

  • 吹奏楽

  • ポップス

  • 映画音楽

と、ジャンルを超えて活躍しています。

これは、

発明当初から「多用途」を想定して設計された楽器
であることの証明でもあります。


まとめ

  • サクソフォーンは1840年代にアドルフ・サックスが発明

  • 木管と金管の特性を融合した近代的な設計楽器

  • 最初の主な用途は軍楽隊とクラシック

  • ジャズは「後から」サクソフォーンを中心楽器として採用

  • 偶然ではなく、明確な音響思想に基づいて生まれた楽器



さて、上記の内容の中には正確な情報ももちろん含まれていますが、誤解を招く内容がいくつも含まれています。それを一つづつ直していきたいと思います。



発明者:アドルフ・サックス(Adolphe Sax)

まず発明者の名前ですが、アドルフは本名ではなく幼少期から使われていたニックネームです。本名は Antoine-Joseph Sax です。

サクソフォーンは
👉 1840年代前半にアドルフ・サックスが発明しました。

とありますが、特許を取得したのは1846年である事は事実です。しかし、発明の時期を正確に辿ると、1836年には最初のサクソフォンのデザインと試作品が出来ていました。ではなぜ特許取得の1846年まで時間がかかったのでしょうか?

その理由はパリにいた他の楽器製作者達がアドルフの才能に強い嫉妬心を抱き、妨害を幾度となく加えたことにありました。

実際、サクソフォーンをデビューさせる予定は1841年だったのですが、誰かがバックステージでサクソフォーンを蹴り飛ばして破壊した結果、数年後に見送りになりました。


ではなぜサクソフォーンを発明したのでしょうか?
オンラインでの検索結果、以下の内容が出てきます。

彼は当時の楽器に対して次の問題意識を持っていました。木管楽器は音量が小さい。金管楽器は音色が硬すぎる。両者の中間的な音色と音量を持つ楽器が必要。この発想から、木管の表現力 × 金管の音量
を兼ね備えた楽器としてサクソフォーンが設計されました。

この内容で正確なのは、音響的に何かしらの問題意識を持ってた事、そして木管と金管を融合させた楽器を作る事です。では正確に、音響的どの部分に問題意識を持ってたのでしょうか?

それはアドルフが生きたロマン派後期のシンフォニー・オーケストラです。

当時のオーケストレーションを見てみると以下の構成で成り立ちます:

  • Woodwinds: 2 Flutes, Piccolo, 2 Oboes, English Horn, 2 Clarinets, 2 Bassoons

  • Brass: 4 Horns, 2-3 Trumpets, 3 Trombones, Tuba

  • Percussion: Timpani, plus others as needed

  • Strings: Large sections (Violins I & II, Violas, Cellos, Basses)

次に楽器を音響的に3つの観点から区分してみたいと思います。それらは、音域 (high, mid, low)、音量 (loud, quiet)、技巧 (fast, slow) です。例えば、フルートは中高音域に属し、技巧的な楽器ですが、音量はそれほど大きくありません。それに対して、トランペットは音域は似てるものの、音量はとても大きく、フルートに比べると技巧的ではありません。ヴァイオリンは特に技巧的であるものの、音量が大きく無い為に、たくさんの奏者が必要となります。

High/Fast/Loud: Piccolo
High/Fast/Quiet: Violin
High/Slow/Loud: Trumpet
High/Slow/Quiet: 上記すべての楽器が可能

Mid/Fast/Loud: ???
Mid/Fast/Quiet: Clarinet, viola, Cello, Bassoon
Mid/Slow/Loud: Horn, Trombone,
Mid/Slow/Quiet: 上記すべての楽器が可能

Low/Fast/Loud: ???
Low/Fast/Quiet: Contrabass
Low/Slow/Loud: Tuba
Low/Slow/Quiet: 上記すべての楽器が可能

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

これをみると、中低音域で技巧的でありながら音量も出せる楽器が存在しない事がわかります。アドルフはこの音響的ギャップを埋めるべく、木管と金管を融合して最初のサクソフォーンを開発しました。

この証拠に、一番最初に発明されたサクソフォーンはなんとC管のバスサクソフォーンです。

つまり、サクソフォーンという楽器はオーケストラの中低音域での音響的なギャップを埋める為に誕生した、クラシカルな楽器なのです。

ではなぜ、オーケストラに定着しなかったのでしょうか?

これにはいくつかの仮説がありますが、私が最も優良だと思っている理由には3つあります。

1、同時期にバスクラリネットの完成

アドルフはあまりにも才能に溢れた楽器開発者だった為に、ちょうどサクソフォンと同時期にバスクラリネットの設計を完成させました。同じ開発者ともあり、ベルの部分が似ているのが特徴的です。バスクラリネットは実際音量的にはバスサックスに劣るものの、中低音域を技巧的に演奏できる楽器でした。

そして、新たにサクソフォンの奏法を学ぶよりも、オーケストラに存在するクラリネット奏者がバスクラリネットを演奏する方が時間も労力も短縮できる事により、バスサクソフォンの位置をバスクラリネットが持っていくことになりました。

2、パリの管楽器製造者達による嫉妬

当時ベルギーから来たアドルフは田舎者の様な扱いをされ、パリの楽器製造者達は彼の事を激しく嫉妬しました。実際その嫉妬心は、殺人を試みるほどとなり、アドルフと間違って他の人を殺してしまったり、アドルフの工場に爆弾を仕掛けたりと。。。異常な嫉妬心でした。

そしてパリで活躍する作曲家達を脅し、サクソフォンという楽器を楽曲に試用しないようにしたのです。

3、ワーグナーとの喧嘩

当時パリでオペラ座の責任者を務めていたアドルフは、ワーグナーのオペラ公演にあたりバックステージホルンを何名も準備しなければいけませんでした。しかし予算の関係もあり、アドルフはワーグナーに内緒でホルンのパートを自身が作成した楽器とすり替えて少人数で公演を行ったのです。

結果、ワーグナーは激怒し、トリスタンとイゾルデでサクソフォンをソロ使用するはずが、そのパートをイングリッシュホルンにすり替えられてしまったのです!

上の動画で、サクソフォンでそのソロを演奏しているのが視聴できます。なんと美しいソロでしょうか。もしもそのまま大作曲家のワーグナーがサクソフォンを使用していたならば、歴史は変わっていたかもしれません。

軍楽隊での採用

軍楽隊での採用
19世紀半ばのフランスでは、屋外演奏、大音量、音程の安定が求められ、サクソフォーンは**軍楽隊(ミリタリーバンド)**で重宝されました。

ではなぜ、軍楽隊での採用が決まったのでしょうか?

それはアドルフがビジネス精神に長けていたからです。オーケストラでの使用が難しいと感じた彼は、商業的にこの楽器を軍楽隊に売れ込めればビジネスが成功すると考えていたのです。実際に工場運営などで借金も増えていたので彼は必死でした。

実際、エッフェル塔の広場の前で従来の軍楽隊の楽器編成と、アドルフサックスが開発した楽器達で構成された編成でコンペティションを行いました。結果は聴衆の猛烈的なサポートによりアドルフの編成が圧勝しました。

元々はオーケストラで使用することを想定していたので、最初のデザインはC管とF管でしたが、軍楽隊で使用するために現在のB♭とE♭管に変更したのです。

現代における位置づけ

現在のサクソフォーンは、
クラシック
ジャズ
吹奏楽
ポップス
映画音楽
と、ジャンルを超えて活躍しています。

これは、発明当初から「多用途」を想定して設計された楽器であることの証明でもあります。

サクソフォーンという楽器は軍楽隊が世界中を回ることによって、徐々に他の国へと紹介されていきました。特にアメリカ、ニューオーリンズ(元々はフランスの領土)で20世紀初頭にジャズと融合され、現在はジャズやポピュラー音楽で重要な楽器と位置付けられたのです。

しかし、発明当初の意図は完全にクラッシック音楽のみを考慮しているので多用途を想定して設計された楽器ではありません。

楽器のポテンシャルが高く、多様性に満ちていたことには変わりがありませんが、初期のデザインを見てみると(特にマウスピースなど)ファゴットの様な音を目指していたことがよくわかります。

現在私自身も使用しているマウスピースはアドルフが元々考えていた音とは異なり、ミディアムチェンバーのマウスピースを使用しています。その理由としては、音楽が20世紀に入り変化してきたこと。そしてそれに似合う音色が変化してきたこと。ジャズやポピュラー音楽の発展により、より明るく伝達性の良い音色が重視されてきた事などがあります。

この音色と使用する道具の変化については、また次の機会に話してみたいと思います。

まとめ

  • サクソフォーンは1830年代にアドルフ・サックスが発明し、1842年に特許を取得。

  • 木管と金管の特性を融合した近代的な設計楽器

  • 最初の主な用途はクラシック、オーケストラの中低音域楽器

  • 最初のサクソフォンはC管のバスサクソフォン。

  • ジャズは「後から」サクソフォーンを中心楽器として採用

参考文献:

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