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「二匹目のウナギ」

⚖️文化地理がっかり学会・特別法廷


坂間千鶴議長

「開廷します」

海尾

「本日の議題は『二匹目のウナギ』です」

土屋

「二匹目のドジョウではなく?」

海尾

「令和ですからインフレです」

高島

「ウナギのほうが高いですからね」

土屋

「たしかに比喩も値上がりしています」


第一章 そもそもウナギとは何か

坂間

「まず基本事項を確認します」

スクリーンにウナギが映る。

海尾

「ウナギは日本人にとって極めて特別な魚です」

高島

「しかし不思議ですね」

坂間

「何がですか」

高島

「日本人は刺身が好きなのに、ウナギは生で食べません」

海尾

「それには理由があります」

土屋

「まずそうだからですか」

海尾

「違います」

海尾

「ウナギの血液には毒性があります」

会場ざわつく。

高島

「正確には血清毒ですね」

海尾

「加熱で失活しますが、生食は危険です」

土屋

「つまり」

坂間

「つまり?」

土屋

「寿司屋でウナギの刺身が出てきたら逃げろ」

海尾

「雑ですが正解です」



第二章 なぜ真夏に食べるのか

坂間

「次です」

高島

「土用の丑の日ですね」

海尾

「2026年の土用の丑の日は7月26日です」

土屋

「今年も来ましたか」

高島

「毎年来ます」

海尾

「一般には平賀源内発案説が有名です」

土屋

「証拠は」

海尾守

「ありません」

土屋

「学会でそれを言うのですか」

高島

「ただし江戸時代から土用の丑の日とウナギが結びついていたのは事実です」

坂間

「なぜでしょう」

高島

「売れなかったからです」

会場静まる。

高島

「夏場はウナギが売れなかった」

海尾

「脂がのるのは本来秋から冬です」

土屋

「つまり」

高島

「売れない商品に理由をつけた」

土屋

「令和のSNSと同じですね」



第三章 なぜ高いのか

坂間

「次です」

海尾

「皆さん薄々気づいていると思います」

土屋

「財布が薄々ですか」

海尾

「はい」

海尾

「ウナギは高い」

高島

「シラスウナギの減少」

坂間

「養殖コスト」

海尾

「燃料費」

高島

「輸送費」

坂間

「人件費」

土屋

「つまりウナギ固有の事情だけでなく
まさしく昨今の物価高原因全部のせですね」


第四章 場所性

坂間

「では本日の専門家を呼びます」

会場がざわつく。

エドワード・レルフ入廷。

レルフ

「ウナギは場所である」

土屋

「帰ってください」

レルフ

「いや違う」

坂間

「続けてください」

レルフ

「人はウナギを食べたいのではない」

海尾

「ほう」

レルフ

「土用の丑の日にウナギを食べる自分を確認したいのだ」

会場ざわつく。

高島

「それは少しだけわかる」

土屋

「納得しないでください」

レルフ

「場所とは記憶である」

レルフは力説した。

「祖父が食べていた」

「父も食べていた」

「だから私も食べたい」

レルフ

「これが場所性である」

土屋

「ウナギの話が郷愁の話しへ変化している」


イーフー・トゥアン証言

トゥアン

「人間は空間を場所へ変える」

坂間

「今日も予定どおり始まりましたね」

トゥアン

「普段のスーパーは単なる空間だ」

高島

「はい」

トゥアン

「しかし土用の丑の日になると」

「聖地になる」

会場拍手。

土屋

「鮮魚売場ですよ」

トゥアン

「人々はあの匂いに吸い寄せられる」

海尾

「それは広告なのでは」

トゥアン

「広告もまた文化である」


サウアー証言

サウアー

「私は景観を調査した」

坂間

「どこを」

サウアー

「ベルク」

高島

「埼玉ですか…それなら
狭山市のくるべ北入曽店の方が
もっと格安ですよ。現金のみですが」

サウアー

「ヤオコーも調査した」

土屋

「スーパー巡りですね」

サウアー

「土用の丑の日には異様な景観が現れる」

スクリーン。

大量のウナギ。

のぼり旗。

炭火焼写真。

金色の筆文字。

サウアー

「これは文化景観だ」

土屋

「販促です」

サウアー

「販促も文化だ」

土屋

「最近は地理学者というより
マーケターみたいですね」


第五章 本題を思い出す

海尾

「ところで」

坂間

「なんでしょう」

海尾

「二匹目のウナギでした」

沈黙。

全員

「あっ」

高島

「完全に忘れていました」

海尾

「noteですから」

坂間

「そうでした」

海尾

「多くの人がバズる方法を探しています」

土屋

「そうですね」

海尾

「タイトルを工夫する」

高島

「する」

海尾

「画像を入れる」

坂間

「入れる」

海尾

「SEOを勉強する」

高島

「する」

海尾

「引用する」

坂間

「する」

土屋

「それで?」

海尾

「でも…ほとんど読まれない」


会場静まり返る。


レルフ

「場所性が足りない」

トゥアン

「感情が足りない」

サウアー

「景観が足りない」

高島

「読者が足りない」

土屋

「なにか足りているモノはないんですか」


最終判決

坂間千鶴議長

「判決を言い渡します」

一、

ウナギは生で食べてはいけない。

一、

土用の丑の日は江戸時代最強クラスの販促企画である。

一、

スーパーの鮮魚売場は年に一度だけ聖地になる。

一、

二匹目のドジョウはいまだに見つからない。

一、

二匹目のウナギはもっと見つからない。


大滝秀治が最後列から立ち上がる。

「なぜだ」

坂間

「なぜでしょう」

大滝

「簡単だ」

「二匹目が簡単に見つかるなら…店長が蒲焼にして売っている」

土屋

「解散」

こうして文化地理がっかり学会は今年も結論をごまかした。

学問とは真理を探究する営みである。

しかしウナギだけは違う。

探しているうちに値段が上がる。

そして帰り道、

匂いだけを記憶に家路をいそぐ…

まあウナギふりかけも美味しいからね…。


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