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三匹の子豚は日本列島で全滅する。【気象予報士より「縄文人」のほうが日本の夏を知っている。】

風を読む能力を失った文明について

1.三匹の子豚全滅

私たちは幼少期から、『三匹の子豚』という妙に後味の悪い寓話(ぐうわ)によって、「藁(わら)や木の家は怠け者の象徴であり、レンガこそが文明である」という価値観を、ごく自然に脳へ流し込まれて生きてきた。

しかし私は、この話には決定的な欠陥があると思っている。
日本列島の夏を想定していないのだ。

もし三匹の子豚が、令和日本の八月、
あるいは、縄文海進期の関東平野に放り込まれていたら?どうなっていたのだろう。

結論から言えば、レンガの家に籠(こ)もった勤勉な三男は、オオカミに襲われる以前に、
「室内に滞留した湿気と熱気による蒸し焼き」
によって極めて文明的に、熱中症で死亡していた可能性が高い。

ヨーロッパの乾燥地帯で成立した
「重く・閉じ・熱を保持する」建築思想を、
日本列島へそのまま持ち込むのは…
サウナの中で防寒衣をまとい、
「合理的に汗を最短時間でかく方法です。」
と胸を張る状態だ。
それは自殺行為である。

日本の先人たちは、逆方向へ走った。

吹き飛ばされることを恐れながら、それでも風を通したのだ。
台風で壊れる危険を受け入れたうえで、
木と草と隙間(すきま)の家に住んだ。

この思想は、一見すると敗北主義に見える。
だが実際には逆だ。
彼らは「自然に勝つ」のではなく、
「自然の中で死なない」ことを優先したのである。

兼好法師が『徒然草』で
「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と書いた。
単なる風流ではない。
あれは文学の顔をした、生存マニュアルだ。
日本の冬の寒さは、着込めばどうにか耐えられる。北海道と北東北以外は。

しかし、日本の湿気は人間を内側から腐らせる。
そのことを、日本人は文字より先に知っていた。

2.なぜ川越の縄文人は気象予報士より偉いのか

現代の気象予報士は、巨大モニターの前で
「偏西風が」
「エルニーニョの複合要因が」
「相対湿度が」と解説する。
もちろん彼らを馬鹿にする気はない。
膨大な知識と努力の結晶だ。

でも問題は別にある。
彼らは「気候を説明」しているのであって、
「夏の蒸し暑い気候の中で、どうやって生存戦略を高めるのか?」
を解いているわけではない。

近代科学が酸素同位体比を分析し、
「縄文海進期は現在より高温だった可能性があります」
と6千年後に論文を書くより遥か昔、
川越の先人たちはすでにすべてを理解していた。

当時は、現在の新河岸川近辺まで海が入り込み、
あたりには貝塚が積み上がり、たくさんの魚が採れた。
つまりあの地域は、現代人の感覚でも
「毎年が限界突破した酷暑の地域」
だが、それを上回る
「収穫が保証さらた好地」だった。

その環境であるからこそ…
たくさんの古墳が作られ、経済的に繁栄したのだ。

彼らは気圧配置を知らない。
ジェット気流も知らない。
もちろん天気アプリもない。
しかし自分たちの身体を腐らせる条件だけは知っていた。

  • 風が止まると危険である。

  • 湿気が籠もると病む。

  • 虫とカビは、人類より夏に強い。

彼らは、知識をデータとして蓄積する方法を口伝以外に知らなかった。
その代わり「風が抜ける構造」そのものを文化として後世へ伝承した。

ここが重要である。
現代文明は情報を保存できるが、縄文人は「適応」を保存した。
文字でも論文でもない。

柱の間隔、深い軒、高床、草屋根、開け放たれた空間。
つまり彼らは、建築そのものを記憶媒体にした。

これは現代人が思っている以上に高度である。
なぜなら、本当に定着した知恵は、
考える必要なしに身体が「自動再生・再生産」するからだ。

3.気象科学が進化した本当の理由

ここで私たちは、少し嫌な結論へ到達しなければならない。
気象科学はなぜ進化したのか。
普通は
「人類が自然を理解し、克服するため」
に進化したと説明される。
だがそれは半分だけ正解だと思う。

むしろ因果関係が逆なのではないか。

現代人は、かつて日本人が持っていた能力を、ほぼ失ってしまった。
空を見る能力。
湿気を察する能力。
風の通り道を読む能力。
それは「自然の中で普通に暮らす能力」の喪失にほかならない。

だから補助輪が必要になったのだろう。
自転車に乗れる日本人から退化したので、補助輪か三輪車しか選択肢がなくなったのだ。

天気予報、冷房、断熱材、除湿機、気象AI。
もちろんそれらは偉大な技術であり、文明を否定する必要はない。

問題は「技術が進歩したこと」と「人間が進歩したこと」は、
全く別だという点にある。

かつて川越の先人たちは、湿気を逃がすための家づくりを熟知していた。
しかし現代人は、湿気から逃がれるために窓を閉め切り、
機械に「本日の危険指数は94です」と教えてもらって、
電気という魔法のチカラで室内の温度と湿度を制御する。

なるほど文明は発展した。
だが、その文明が「失われた適応能力を補うための巨大な松葉杖」だとしたらどうだろう。
私たちは、知識を増やしながら、
同時に自然の読解力を失っていったのだろう。

本当に耳を傾けるべきものは、
毎月更新される気象庁の長期予報だけではない。

新河岸川の川辺に立って
「なぜ昔の家に深い軒があったのか」
「なぜ日本人が風の通る家に執着したのか」
その理由を身体で理解することではないだろうか。

もっとも…残念ながら現代人である私は、
冷房の効いた部屋で寝る。
「今年の夏は観測史上最大級の危険です」
とAIが書いた記事を読み、文明のありがたさを享受する。

たいへん合理的だ。
縄文人より、退化した人類なのに…。


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