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ブラマモル:アンカレッジ【白夜に消えた船】

白夜に消えた艦(ふね)

はじめて行った外国の港はアンカレッジだった。
遠洋航海の最初の寄港地だった…。
どうせなら例年どおりハワイが良かったのに…
緯度が40度も違うがアメリカ合衆国には違いない。

地図で見ればアラスカはずいぶん遠い場所だけど、
海の上をずっと船で走っていくと、
不思議とそれほど遠く感じ…る。

二週間もかかって【エッチらおっちらたどり着いた】
「やっと陸地が見えた!」というのは
船旅ならではの感想だろう。

水平線より向こうに高山のアタマだけがカオをだす…
アリューシャン列島の光景なんてそう簡単いは
お目にかかれないが…
飛行機なら8時間程度の道のりだ…
ライト兄弟に感謝状を贈呈したいが送り先がわからない。

シャチを見た。

三頭が交互に跳ねて…背中で太陽を切った。
女性調教師もなく輪も設置されていないのに
しかも無料で…
人間の船に興味があるのだろうか?
どちらが見物しているのか不明だった。

ラッコたちは、アンカレッジ湾の波間で仰向けに浮かびながら、器用にお腹で貝を割って昼食中であった。
小官どもが甲板からそれを眺めていることなんて
まったく気にもしないふうであった。

寄港中は史跡研修

という観光地巡りにでかけ、
マッツ氷河見学のあとにオオカミの保護施設を訪ねた。
目が合わないようにと気をつけながら、檻の向こうでじっとしているその姿を、どこか自分と重ねる気持ちもあった。

野生のヘラジカが高速道路を横切る風景にも出くわした…
「人間が作った柵なんて気にもしていない」
と簡単に乗り越えていた…
檻の中に2週間閉じ込められたような船乗りには
「颯爽と柵を飛び越える彼等がうらやましいと感じた。」
なぜそんな感情が浮かんだのかいまだに謎だ。

街の本屋に立ち寄って…分厚い洋書を眺めた。
どうせ読めないのに、表紙のざらつきがなぜか好きだった。
「メーシーズ」にも行った。大きなデパート、ピカピカの床
異国の人混みの風情はどこか演劇の舞台みたいで
小官には居心地が悪かった。

毎日三食…和食を食べているのに

「地球の歩き方」で見つけた日本食の店へ行き
別行動の同僚と地元のパブで少し酒を飲んだ。

アラスカの乾燥した空気は、よく酔いが回るのか?
にぎやかなまま港に係留しているハズの船へ戻った。

そのとき…小官ではない誰かが言った。

「……船が、いない」

確かに…そこに泊まっていたはずの艦が
どこにも見当たらない。

白夜の港…。

夜の十時を過ぎているのに、
空は夕方の手間のように明るかった。
だから余計にそう感じた。
影のように艦が消えていた。

一瞬…何が起きたのか分からなかった。
酒が一気に覚めた。港の風だけが静かに吹いていた。

干潮だった。

艦は、小官の足元よりも八メートル下の海面に浮かんでいた。
余りにも干満差が激しくて…

あろうことかブリッジの後ろ
「旗甲板」という
ビルでいえば地上4階にあたる場所へ
小さなはしごのようなラッタルがかかっていた。

小官たちは置いてけぼりになる恐怖から解放され
…何度も何度もラッタルの場所を変えて
帰艦する乗員を待っていた当直員に頭をさげた。

しずかで長い…明るい夜だった。
白夜の港の光…夢の中を歩いているような気がした。

それが30年以上前の…
小官の最初の「外国」の記憶だ。

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