見出し画像

【ファジサポ日誌】167.鬼ヶ島での逆転劇 ~第22節 鹿島アントラーズ vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー ~

おにがしま、鬼ヶ島、「鬼鹿島」。
「鬼」木監督が率いる今シーズンの鹿島の強さに敬意を込めて「鬼鹿島」と呼ぶサポーターがいる。桃太郎伝説に因む地、岡山としては「鬼鹿島」ことカシマサッカースタジアムに乗り込んで鬼退治を果たす。

昨シーズンまでにはみられなかった、こんなファンタジーと真剣勝負の融合のような戦いを全力で楽しむことが出来る。これもJ1の醍醐味であると改めて感じるところである。

クラブやサポーター団体は、岡山の新スタジアムの建設に向けて署名活動を開始した。繁忙期に突入してしまった筆者はまだ何もお手伝いが出来ていないが、この1週間で目立ったのはカテゴリーを問わない他クラブサポーターの皆さまからの積極的な署名と温かい励ましの声であった。

改めて御礼を申し上げたい。

本来、チームの直近の成績と新スタジアムの必要性の議論は別物と筆者は考える。しかし、ホームJFE晴れの国スタジアムが毎試合チケット完売となっている現状を憂い、日本最高峰のフットボールゲームを観戦できない機会損失を訴えている現状、ファジアーノ岡山の戦いぶりもJ1リーグに相応しい内容でなくてはならない。

そういう意味においても、この勝利が岡山内外に与える影響は大きいものと考える。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

前半、鹿島の猛攻から先制を許しましたが、その後の失点を許さず後半早々にLST(8)江坂任のテクニカルな同点ゴールが生まれ、間を空けずCH(33)神谷優太の今シーズン初ゴールとなるゴラッソにより勝ち越します。
選手交代を活用しながら、改めて攻勢を強める鹿島を最後をやらさない粘り強い守備で凌ぎ、岡山はJ1・8勝目を今シーズン初の逆転勝利で飾りました。

カシマスタジアムでの試合は2016シーズン天皇杯3回戦(●1-2)以来の2回目で初勝利、もちろん対鹿島戦も初勝利となりました。

これで岡山の成績は8勝6分8敗、得失点差0の完全な五分となり、勝点は30に到達。J1残留に向けて、まだ4勝分の勝点は必要と思われますので全く油断は出来ませんが、首位チーム相手に大きな自信となる1勝であったことは間違いありません。

岡山も鹿島も「相手コートでの戦い」を目指している点では、コンセプトは似ていると言えます。そんな中で大きな違いとして目立ったのは、止める、蹴るの技術の差であり、それがパス数の大きな差にも繋がっているのですが、基本技術の面で不利に立った岡山がどうして勝利を得ることが出来たのか、この点を後ほど考えてみたいと思います。

メンバーです。

J1第22節 鹿島-岡山 メンバー

岡山は前節横浜F・マリノス戦から1人の変更。RWB(88)柳貴博が入ります。

一方、鹿島は前節町田戦(●1-2)からスタメン3人に変更がありました。LSB(7)小川諒也はシント=トロイデンVVからの移籍後初先発となりました。ボランチの一角は(20)舩橋佑が務め、RSHには(25)小池龍太が入ります。

前回のホーム戦で岡山の左サイドを苦しめた(77)チャヴリッチはLSHに入りました。
キックオフ直後は(25)小池とRSB(22)濃野公人のポジションが逆になっていたようですが、すぐにこのポジションに落ち着いたようです。

2.レビュー

(1)レベル差を感じたボランチの攻防

前書きでも少し述べましたが、岡山も鹿島もこれまでのゲームや監督インタビューからも分かるとおり、システムの違いはありますが、ハイインテンシティと相手コートでのサッカーを目指しているチームです。

序盤からお互いにアグレッシブに自分たちの良さを出そうと前進を図りますが、鹿島の方が各選手の止める、蹴るの技術がしっかりしていた点と、中盤、特にボランチのところの攻防で優位に立ちます。

J1第22節 鹿島-岡山 前半 中盤の攻防の概念

図はあくまでも概念として捉えていただきたいのですが、鹿島のビルドアップにあたり、岡山は鹿島の2CBに前線3人のうち2人を当て、もう1人は鹿島ダブルボランチを監視します。これは対4バックの岡山の通常の規制方法です。
この場合、岡山はダブルボランチ+前線のうちの1人の3人で中盤を規制できるのですが、鹿島はまず(20)舩橋がそのドリブル技術と正確なパスを駆使して、岡山のボランチを剥がします。
更に2トップの(40)鈴木優磨のみならず、(9)レオセアラもボランチの位置まで下り、浮き球に関しては、岡山ボランチとのフィジカル差を活かして収めてしまいます。

横浜FM戦でのレビューでも少し触れましたが、岡山のダブルボランチの弱点はシンプルにフィジカル勝負を持ち込まれることで、横浜FM戦でも相手の攻勢を許す一因になっていたと思います。

更に厄介であったのが右サイドにいる筈の(25)小池までもが中盤に寄ってきて組み立てと縦への前進に参加することでした。
こうして鹿島は岡山の中盤3枚に対して、技術、フィジカル、人数の全ての面において優位に立ちます。

そうした文脈の中から生まれた鹿島の先制点であったと思います。

岡山の中盤としては、入れ代わり立ち代わり様々な選手に顔を出され、動き回されているところに(25)小池まで入ってくるという感じであったと思います。またパスを受ける(40)鈴木優磨はダイアゴナルランにより角度をつくり、しっかりシュートコースをつくっています。
あまりに見事でした。

岡山としては、ボランチの弱点を徹底して突かれた失点シーンでしたが、この後、追加点を許さずに前半を終えられたことが勝因の一つであったと思います。

(2)文脈の中のサッカー

筆者は鹿島の現在のみではなく、長い伝統を見た時にその大きな特長は「文脈の中でサッカーをするチーム」という点にあると考えています。

序盤からハイインテンシティ&ハイポゼッション全開でゲームに入った理由は、6月に入ってからリーグ戦を連敗していたからであり、ホームのこの試合は何としてでも先手を奪って勝利を掴みたいからであったと思います。

一方で先制をしてしまえば、今度は失点しないことを優先します。
鬼木監督は試合後のインタビューで、先制後に畳みかけられなかったことを課題としていましたが、この試合も含めて今シーズン32得点の攻撃力を誇る鹿島において、前半のみで複数得点を奪ったのは第2節の東京V戦(○4-0)のたった一試合しかないのです。
前半で得点を奪えばいったん意図的にペースダウンする。
これも鹿島の文脈と捉えられます。

更にはこの猛暑を考慮した時に、これ以上前線の選手がアグレッシブに上下動を繰り返すことは難しいとの判断、また岡山がシンプルにCF(99)ルカオにロングボールを当てる前進方法をとりながらも、CKのチャンスを掴んでいたことも踏まえて、能動的に鹿島が失点管理を優先したものと考えます。

よって鹿島先制後の局面は岡山最終ラインと鹿島前線との争いにシフトするのですが、ここで岡山の最終ラインは決して強度で負けていませんでした。
この点も戦況において大きかったと思います。

鹿島としてはプランどおり、岡山にとっても及第点の前半であったといえます。

(3)岡山後半の修正

及第点とはいえ、岡山としては勝点獲得のためにゴールを奪わなければならない立場です。そこで修正を図ってきます。

前後半の(99)ルカオの位置に注目していただきたいのですが、前半は中央寄りでボールの受け手になっていたのが、後半はよりサイドに流れて深さをとっています。
これはおそらく攻撃局面が長かった影響もありますが、鹿島の両SBが高い位置を取り続けていた為、その背後のスペースを狙う意図があったものと推察します。
この修正により岡山のボール運びは(99)ルカオに当てるロングボールから、(99)ルカオをサイドのスペースに走らせるボールへと変化します。

この岡山の修正に対して鹿島が様子見をしているうちに、同点ゴールが生まれます。この後半の最初に追いつけた点が非常に大きかったと思います。

この映像の前のシーンも結構重要です。
岡山はゴールキックではなく、GK(49)スベンド・ブローダーセンからのビルドアップを選択、最終ラインまで下りたCH(33)神谷優太が対面の(40)鈴木を剥がし、そのままドリブルで右サイドまで運びます。

鹿島としては意表を突かれた岡山のボール運びであったと思います。
持ち運ぶ(33)神谷に対してプレッシャーが全く掛かっていません。
そして右サイドの(88)柳(貴)から右へ流れる(99)ルカオの前方スペースへとパスが出されます。
これも回転を掛けた浮き球で(99)ルカオが最も処理しやすいパスであったと思います。

この(99)ルカオからのマイナスのクロスに合わせる味方がいないことも岡山の攻撃の課題でしたが、どうやら偶発的ではあったようですが、中央へ走り込んだLST(8)江坂任の足元へ入ります。
非常にラフなクロスでしたが、(8)江坂はバウンドに合わせながら、ボールをバウンドさせることでシュートを枠内へと導いています。

非常に彼の高い技術が詰まった今シーズン2点目のゴールでした。

この同点ゴールの際の鹿島の選手たちの表情からは少なからずショックがあったように見て取れました。
岡山の出方を見ながら次なる攻勢を仕掛けようとした矢先の失点であったのかもしれません。
逆に岡山にとっては勇気が湧く同点ゴールでしたが、このゴールで攻撃の手を緩めなかったことが直後の勝ち越しゴールを生みます。

鹿島の文脈という言葉を使いましたが、この後半の出だしは間違いなく岡山の文脈でゲームが進んでいました。
岡山にとっては同点に追いついてペースダウンしたところで、また鹿島とのクオリティの差を出されるとリードを許す展開になる。
勝点を得るためにも、リスクを負い続ける試合運びが求められていたのです。これがJ2の頃では、昇格の為に失点管理を考えなくてはならないので、おそらくこうした試合運びはしていなかったと思います。

この鮮やかな勝ち越しゴールも、先制点同様に映像の前のシーンが重要です。前節横浜FM戦でも息の合ったパスワークを見せたLCB(15)工藤孝太からタッチライン際を(8)江坂へ通し、受けたLWB(39)佐藤龍之介が運びます。(39)佐藤は鹿島CH(6)三竿健斗とのデュエルに勝ち、ボックスへ進入、シュートは(20)舩橋のブロックに弾かれますが、こぼれ球をCH(24)藤田息吹が回収、後方の(33)神谷に預け、(8)江坂とのワンツーで抜け出しますが、ここも(33)神谷がダイアゴナルランにより角度をつけシュートコースを創り出しました。
それにしても、サイドネットに突き刺さる凄い足の振りでした。

この岡山の2ゴールに共通しているのは、ゴールに至るプロセスにおいてボールを運んだことです。先ほど止める、蹴るの話をしましたが、パスワークでは分が悪い岡山がロングボールに頼らず、選手の個の力を活かしてボールを運んだことで鹿島の意表を突いた2ゴールであったとも言えるでしょう。

リードされた鹿島は前半同様にボランチを使ったビルドアップから前進を図りますが、前半と異なったのはサイドのスペースを管理しなくてはならなかった分(25)小池が中央に入れなくなった点、また岡山の自陣からの持ち運びにも警戒しなくてはならない分、(40)鈴木以外の前線が前目残りになった点であったと思います。

こうして岡山のダブルボランチ(24)藤田や(33)神谷は守備面においても息を吹き返します。

鹿島は68分に左サイドを(28)溝口修平、(14)樋口雄太のコンビにスイッチ、(77)チャヴリッチを右に回しますが、岡山は割り切って5-4-1のローブロックで抵抗します。
攻撃は途中出場CF(22)一美和成の収めにRST(19)岩渕弘人が飛び出すシンプルな形が有効で決して守勢一方でなかった点にも好感を持てました。
また、(26)本山遥やこの試合がJ1デビュー戦となった(17)末吉塁が鹿島のサイドを封印します。

鹿島は更に前回対戦で決勝ゴールを決めたLSH(17)ターレス・ブレーネルを投入しますが、決定的なシュートを(49)ブローダーセンがこまめなステップの踏み替えからジャンプ、鹿島の同点ゴールを許しませんでした。

3.まとめ

以上、アウェイ鹿島戦を振り返りました。
おそらくほとんどのサポーターが予想していなかった、前節からのアウェイ2連勝になりましたが、その要因がいくつかある中で筆者はリスクをしっかり取る戦いが出来ている点を挙げたいと思います。

このリスクを取る戦いを展開出来ている背景は、負け数を計算しながら戦わなくてはならない面もあったJ2での戦いJ1昇格争いと、J1で勝点を積み上げるチャレンジの違いであると考えます。

そうしたリスクを取り続けることで、選手個人が一戦ごとに効果的にレベルアップを果たしている。それが今の岡山の姿なのかもしれません。

慢心せず、でも自信も持ちながらホーム中国ダービーに繋げたいですね。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
J1ファジアーノ岡山、J3ギラヴァンツ北九州レビュアー
レビュー作成が趣味を超えてライフワークになりつつある。

昨シーズンは岡山悲願のJ1初昇格のゲームを記すことが出来た。
今シーズンも初のJ1の舞台となる岡山、念願のJ2復帰へ向けて勝負に撃って出る北九州の戦いぶりを追っていく。

日々勉強、分析、解析、解釈、更に磨いていきたい。

岡山在住の開業社労士。今年も日常に追われる。
鉄道ファンでもあるが、最近は鉄分不足が続く。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集