鳩ら
近所に、鳩がたむろしている小さな公園がある。
私はもう長いこと、鳩に話しかけるときの「言葉」を探している。
例えば、猫に話しかけるときは、「にゃー」の類で決まっている。
どんな屈強な男であってもこれで猫とコミュニケーションを取ろうとする。
散歩中の犬に話しかけるときは、満面の笑みで「かわいい〜お名前は?」で決まりだ。
犬に向けつつ飼い主にも聞かせる。犬は答えないし飼い主の視線は冷たい。でもそれでいい。
じゃあ、鳩は?
私はずっと「クルッポー」だと思っていた。
でもよく考えたら、人間に「クルッポー」と言われて何か感じるのだろうか?自分達が「クルッポー」だという自覚さえない鳩らが。
これでは鳩に無視される。
トラウマがある。
無視が怖い。
昔、勇気を出して困っているお婆さんに声をかけたことがある。無視された。
それ以来、私は慎重になっている。
想像してみてほしい。
「クルッポー、クルッポー」と言いながら、鳩に近づいていく。だが、鳩らは全く見向きもしない。それに公園にたむろしている鳩は人間に慣れていて、逃げもしない。
公園に私のクルッポーだけがこだまする。
そりゃ餌を持っていれば寄ってくるかもしれない。だがそれは、餌を食べに来ているだけで、「クルッポー」に反応したわけじゃない。いつも餌を撒いているおじさんが無言なのがその証拠だ。
私は、鳩に話しかけるときの「言葉」を探しているのだ。
でもそう考えると、ある答えに辿り着く。
私自身、鳩の気持ちを無視していたのかもしれない。だからもう、これしかない。
私は公園に向かった。
スマホから「ぽっぽっぽ 鳩ぽっぽ」を流し、服を脱ぎ、踊り狂った。
…言葉を捨てた。
そのとき、一羽の鳩が羽を広げた。
円を描くように私の周りを回る。
つられて、また一羽。さらに一羽。
「ぽっぽっぽ 鳩ぽっぽ」
鳩らの群れが動き、羽音と足音が混ざる。
ああ、言葉なんかいらなかったんだ、最初からこうすればよかったんだ。
気づくと冷たい鉄格子に額を当てていた。
自然と言葉が出てきた。
クルッポー。
鳩は証言してくれない。
6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金。
クルッポー!
