狂気的な合理主義者が世界を救う?『Thisコミュニケーション』から学ぶ「理外」のマネジメント
こんにちは。お気に入りの深煎りコーヒーを片手に、足元で眠る2匹の猫を眺めながら、積読していた漫画を一気読みしているキリンです。
日々の業務でDX推進やチームのマネジメントに取り組んでいると、ふと「合理性とは何か」「組織を動かすとはどういうことか」について深く考えさせられる瞬間があります。そんな時、ビジネス書ではなく、意外なエンターテインメント作品から強烈な気づきを得ることがあります。
最近読んだ中で、特に私の心を捉えて離さなかったのが、六内円栄先生の漫画『Thisコミュニケーション』です。先日、noteでとても熱量の高いレビュー記事(https://note.com/youki388/n/ne3a23e893e0b)を拝見し、改めてこの作品の凄みと、そこから得られるマネジメントの教訓について書き残しておきたくなりました。

「死せば1時間戻る」少女たちと、合理性の悪魔
この作品の舞台は、謎の生命体「イペリット」が放つ毒ガスによって、人類が絶滅寸前にまで追い詰められた近未来の地球です。
主人公のデルウハは、類まれな戦闘能力と分析力を持つ元軍人。彼は「毎日パンとサラミを食べる生活」を保証してもらうことを条件に、人類最後の砦である研究所をイペリットから守る任務に就きます。彼が指揮するのは、人体改造によって不死身となった6人の少女兵士「ハントレス」たち。
しかし、彼女たちは過酷な環境で育ったゆえに精神的に未熟で、自分の価値を認めてもらうために功を焦り、連携どころか同士討ちすら引き起こしてしまう有様でした。
そこでデルウハがとった行動が、この漫画を唯一無二のサスペンスに仕立て上げています。ハントレスたちは「死ぬと、死ぬ直前1時間の記憶を失って再生する」という特性を持っています。デルウハはそれを利用し、自分にとって都合の悪い事態(命令違反や、自分のミスなど)が起きるたびに、彼女たちを自らの手で容赦なく惨殺し、記憶をリセット(操作)することで部隊をコントロールしていくのです。
コミュニケーションの放棄と、奇妙な信頼関係
目的のためなら殺人という手段すらノータイムで選択する。デルウハは道徳や倫理観を完全に放棄した「合理性の獣」です。
しかし、不思議なことに、読み進めるほどにこの最悪な主人公から目が離せなくなります。なぜなら、彼には情こそありませんが、他者の感情の機微を読み取る能力はズバ抜けて高いからです。
彼はハントレスたちそれぞれのコンプレックスや承認欲求を完璧に分析し、「相手が最も欲している言葉」を的確に投げかけます。記憶を消しながらも、戦闘訓練を通して彼女たちの特性を理解し、指揮官としての信頼を積み上げていく。そのプロセスは、手段こそ最悪(ディスコミュニケーション)ですが、見方を変えれば、徹底的に相手に向き合った「誠実なマネジメント」の歪んだ完成形とも言えるのです。
合理的リーダーは「成長」しない
私がレビュー記事を読んで特にハッとさせられたのは、「ハントレスたちは戦いの中で人間として成長していくが、デルウハは最後までまったく成長しない(変わらない)」という考察でした。
ハントレスたちは、時に傷つきながらも他者との関わり方を学び、少女から大人へと成長していきます(作中には、ダメージを修復する代わりに肉体が成長してしまう「旧型ハントレス」のなな・はちというキャラクターも登場し、この「成長」というテーマをさらに深く掘り下げています)。
一方のデルウハは、彼女たちの成長や能力の向上を「利用」し、最適解をアップデートし続けますが、彼自身の「自分の生存(と食事)が最優先」という利己的なスタンスは最後まで一切揺るぎません。
これを現実の組織マネジメントに置き換えてみると、非常に考えさせられます。システムやデータを駆使して「業務の合理化・効率化(DX)」を推進する私たちは、時にデルウハのように、最短ルートを追い求めるあまり、人間的な感情や倫理をシステム(記憶の消去)で上書きしようとしていないでしょうか。
理外の要素(ノイズ)こそが世界を豊かにする
『Thisコミュニケーション』が傑作として評価されているのは、息詰まるようなスプラッタ・サスペンスの中に、デルウハの不運や想定外のトラブルによって生まれるシュールなギャグ(緩和)が絶妙に織り込まれているからです。
どんなに完璧で合理的な計画を立てても、人間の感情や偶発的なノイズ(理外の要素)によって計画は狂う。しかし、お互いに完全に理解し合うこと(相互理解)など不可能だと割り切った上で、それでも積み上げた「歪な信頼」が、最終的に世界を救う原動力になっていく。
私たちDX担当者も、冷徹なシステム構築者であるだけでなく、現場の泥臭い感情や人間関係という「理外の要素」を許容し、ユーモアを持って向き合うことが、実は一番のマネジメントスキルなのかもしれません。
さて、すっかり作品の余韻に浸ってしまい、マグカップのコーヒーも冷めてしまいました。主人公のように美味しい食事への執着を忘れず、もう一度この物語を読み返してみたいと思います。
皆さんも、もし「合理性」に疲れ果てた時は、ぜひ『Thisコミュニケーション』を手に取ってみてください。それでは、また
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