洗車場の朝に。
誰もいない早朝の洗車場。4つあるレーンの右から2番目が定位置だった。たまには一番右とか、なんなら思い切って一番左を使ってもいいはずなのに、こういう時いつも冒険できない。
入社1年目でミニクーパーを買った。もちろん中古だけど、広いイオンモールの駐車場でもすぐ見つかるくらい目立つ、水色のミニクーパーだ。
その水色のミニクーパーに乗って、入社1年目で大して仕事もしていないワタクシが、仕事に行く前に車を洗いに来ているのだ。平日の朝7時だ。
この状況、お分かりだろうか。これはもう尋常じゃないくらい調子に乗っている。1人悦に入っちゃっていると言わざるを得ない。
でも、仕方ないのだ。
この数年前までは、スタバに1人で行って読書をしている自分が大好きだ、という謎アピールを初対面の女の子にしちゃうくらいイタイ人間だったのだから。
青と白のブラシが前後に行ったり来たりしながら愛車を洗い上げる間、自動販売機で買ったタリーズのブラックコーヒーの蓋を捻る。
プシッという音と共に強い香りが周囲に広がり、口に含むとストレートな苦味が舌にまとわりつく。
キレイになった愛車を拭きあげながら、朝日を反射して輝く車体を見て、最後の一口を飲み干した。
タリーズの缶コーヒーが好きだったのか、それともこの状況でコーヒーを飲んでいる自分が好きだったのか、それはよく分からない。
でも間違いなく、あの時間は自分にとって必要な時間だった。
社会人になって間もなくて、何も誇れるものが無かった自分を、車とコーヒーで武装していた。
それで何とか毎日立っていられたのだ。
あれから15年。
もうミニクーパーは手放してしまった。
タリーズの缶コーヒーも今は苦味が強すぎて飲まなくなった。
武装するものを手放して、何も守るものは無いけれど、年齢を重ねてコーヒーの酸味と柔らかさを味わえるようになった。
そんな私は、あの頃よりずっと静かに、今を楽しめている。
なんのはなしです珈

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