本当に頑張ったと言えるその日まで
科学はいつも公平で、そして残酷だ。
万の仮説検証を積み重ね、望むゴールを目指しても、ほとんどの人間はたどりつけない。
※※※
難病に罹って産まれたご自身のお子さんをいつか治したい。
その一心で、ひとりの医師がバイオベンチャーを設立した。
私は製薬企業の研究員としてそのベンチャーと共同研究を開始し、プロジェクトリーダーを務めた。
「一緒に薬を作りましょう」
手を取りあって、患者さんとご家族の笑顔の為に、全力を尽くすと誓った。
1ヶ月に数千万円の研究費用がかかる大型のプロジェクト。会社から許されたのは1年半という期限だった。その間に結果を出せなければ研究は中止となる。通常3年以上はかかる研究計画を、無理やり1年半に詰め込んだ。
家族も自分も後回しにし、死ぬ気で研究に打ち込んだ。結果、3年分の実験をなんとか期限内に終わらせられた。
でもダメだった。
得られた実験結果をもとに、共同研究は中止することになった。
そして報告書をまとめている最中に、
医師のお子さんは亡くなってしまった。
ショックだった。頑張ればいつかは救えるとどこかで思っていた。まだ時間はあると思い込んでいた。もっとできることがあったんじゃないか。もっと本気を出せたんじゃないか。
もっと……もっと。
※※※
本社の会議室。
重たい空気の中、最後の会議が開かれた。
この会議が終われば、両社の関係は解消される。
先方は、また新しいパートナーをイチから探さなければならない。それは、薬が患者さんに届く日がさらに遠のくことを意味していた。
別れ際の最後の挨拶。
創業者であり、亡くなったお子さんの父でもある医師は私にこう言った。
「この1年半、本当によく頑張ってくれたね。あれだけ真剣に向き合ってくれて、一緒に研究したのがあなたたちで良かった。プロジェクトリーダーも大変だったよね。ありがとう。ぼくたちも患者さんにこの薬を届ける為にがんばります。できたらあなたもこの研究を続けてね」
※※※
先生、お元気ですか?
あれから1年以上経ちました。
先生があの時どんな思いで「頑張ってくれてありがとう」と言ってくださったか。
悔しかったろうに、感謝と労いの気持ちをなによりも前に出してくださったこと、忘れません。
社内事情で当時のプロジェクトメンバーは解散しましたが、みんな諦めていませんでした。
最近また再集合できたんです。
先生。
先生の想い、繋がってます。
研究、ちゃんと続けてますよ。
(本文993文字)
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