【ショートショート】 ジコチュウ釣り
大学時代の友人Aから連絡があり、久しぶりに飲みに行こうということになった。実に10年振りだ。Aとはゼミが同じで、よく大学最寄りのロッテリアで一緒にレポートを書いたものだ。Aも私も当時ちょっと面倒なメンヘラ気質の彼女と交際しており、お互いの身の上話で「わかるわぁ」とか「先に別れた方がビールを奢ること」とかあーだこーだ言いながら飲むのが常だった。
大学卒業とほぼ同時に私の方は彼女と別れたが、Aはどうだったんだろう? その答え合わせをするのもなんだか楽しみで、約束の日に指定の居酒屋チェーン店へとワクワクしながら出向いた。
店に着くとAは既に掘りごたつの席に座っていて、私の姿を認めると私に挨拶するより先に店員を呼び止めて「生中2つ」と注文していた。
乾杯もそこそこに、「おれは大学出ると同時に別れたけどAは?」と聞くと、なんとその後結婚したらしい。正直あれだけボロクソに言っていたのを知っているので「へ? なんで?」とここまで出かかったけれど、グッと飲み込んで「おめでとう。文句無しに奢るよ」と返した。
Aは上機嫌で「明日の朝から海でジコチュウシンを釣りに行くんだ」と笑う。「家内がね、ジコチュウシンの刺身に目がなくてね」と言ってぐびりとビールを飲む。Aは奥さんのことを家内なんて言うタイプじゃなかったので、妙に気になってなかなか目の前のコウキシンの煮付けの味もよく分からない。
「へぇージコチュウシンって今が旬なんだ。食べたことないんだけどお刺身ってどんな感じなの?」
「ジコチュウはさぁ、身が甘くてうまいんだよ。まさに冬の海の王様って感じかな」
「え。そうなの? 知らなかった!(ジコチュウって略すんだ)この店で食べられないんかな」
「あはは、ムリムリ。すぐ鮮度落ちるから釣ったらすぐ食べないと」
「今度おれも連れてってよ。ジコチュウ釣り」
「いいけど、これめっちゃ使うから持ってきてね」
そう言うとAは自分の横にどかっと置かれた大きなカバンの口を開けて見せてくれた。
「え? なにこれ??」
「いちごジャム。これが一番食いつきがいいんだよなぁ」
おれは海にいちごジャムが漂っているのを想像して、ジコチュウ好きは罪だなと思う。
「で、お前は最近どうなんだよ?」とAが聞く。
「おぉ。まぁまぁかな。仕事も順調だし、今の彼女は可愛くて優しいし。あと最近車も買ったんだよ。」
なんだか分からないが口からするすると出まかせが飛び出して我ながらびっくりした。本当は毎日会社で怒られているし、彼女はこの5年ほどいないし、車の維持費を払う金もない。
「え、まじ? じゃあ明日車出してよ。ドライブがてらジコチュウ釣りいこーぜ。でっかいジコチュウ釣り上げて、食べさせてやるよ」
「お、おう。じゃあ明日車で迎えに行くわ」
どうしよう。レンタカーを借りるしかないか。ナンバーで気付かれるだろうか。
どうしてこんなことに、と思いながら目の前の皿を見ると、そこにあったのはコウキシンではなくてキョエイシンの煮付けだった。
なんのはなシンですか
ヤスシさんの三題噺に参加します。
お題は
・冬の海
・レンタカー
・いちごジャム
でした!
ヤスシさん、今週も考えるの楽しかったです😆
よろしくご査収ください✨️

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