見出し画像

マイリトル靴底ラバー ハローアゲイン

あれはもう30年ほど前、親戚の法事だったと思う。中学生だった私は両親と3人でお寺へ向けて家を出た。まだ残暑厳しい夏の終わり頃だった。

ちょっと前までアブラゼミがジージーうるさくしていたのに、気付けばツクツクボウシが鳴いている。


両親も滅多に着ない礼服に袖を通す。
一夏どころか何シーズンも履かれずに靴箱で眠っていた黒の革靴に黒のパンプスを履く。

履かれてなかったけれど、過ぎた時間の分だけダメージは入っていたようだ。

実家からタクシーで駅につき、券売機で切符を買ってホームに向かう途中のことーーー。




両親の靴底が崩壊した。



経年劣化した靴裏のラバーが分解し始めたのだ。


仲良く並んでホームに残る両親の足跡。
いや正確にはカカト部分の黒いラバー達。


2人が歩くたびにラバーの残骸が地面に残される。まるでグリム童話みたいだ。



浪速のグレーテルが落ちた靴底を拾いながらヘンゼルに話しかける。



「おとうさん、どうしよ。久しぶりに出した靴あかんな。あー恥ずかしいわぁ。」


ヘンゼルが提案する。


「しゃあないな。これ使お。」


ヘンゼルが取り出したのはスーパーの白い袋。
彼は几帳面なのでカバンに何枚か袋を忍ばせていたようだ。



カシャカシャカシャ


靴の上からスーパーの袋を被せて両親が歩く。



カシャカシャカシャ



思春期の私にとって今1番一緒にいたくない人は、と聞かれたら

「スーパーの袋を履いた両親です」


と即答できた自信がある。



できるだけ2人から距離をとり別の車両に乗ろうとした私にヘンゼルが近付いてくる。


「人多いし迷子になったら困るから近くにいとけ」


嘘やん。こんなん友達に会ったら絶望すぎるやろ。

もういっそ、スーパーの袋もその靴も脱いで裸足になってくれ。



お寺につくと、

「あんたら、なにしてんのー!」


という陽気な叔母の声がする。


両親がほとんどラバーが取れて薄べったくなった靴を見せる。


「あー、それよぉなるなあ。でも2人同時って珍しいし面白いな。アハハハハ」


何故か爆笑し合う姉妹達。



カシャカシャ アハハ  
カシャ アハハ


あー、頭おかしくなりそう。




それから20年後。


長男の戌の日参りのため、妻と息子と3人で電車に乗って神社に向かっていた。



そして神社近くの駅についた時、



妻の靴底が崩壊した。



焦る妻を前に私は冷静だ。


「これはよくあることなんだよ」と得意げにスーパーの袋を、




出すわけもなく、駅ビルの靴屋で靴を買ったのだった。




いいなと思ったら応援しよう!

えむのマイトン | 路地裏で遊ぼう サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー