【ショートショート】旅路の果て
久しぶりの京都駅。新幹線のドアが開くと、むわっとした熱気に出迎えられて、あぁ帰ってきたんだなと思う。
周りで賑やかに聞こえる関西弁。そこかしこに見られる外国人の群れ。ホームに流れる接近メロディ。懐かしさを胸いっぱいに吸い込んで、JR京都線に乗り換えた。
車窓から見える西山の影は9月だというのに青々としていた。秋の気配はまだまだ遠いようだ。
実家の最寄り駅に着き、改札を出て階段をおりると、見慣れた紺色のインテグラがバス停の横に停まっていた。
車に近づくと運転席から母が私を見つけて手を挙げている。
後部座席のドアを開けて「ただいま。まだこの車乗ってるんやな」と声をかけると、「そんなもん簡単に買い替えられへんやろ」と後ろを振り向くことなく母が答えた。
随分髪の毛が薄くなった気がする。それでもしつかりと運転する母の後ろ姿を見ながら、「元気してた?」と聞くと「あんたこそ、しっかりしぃや」と言われて苦笑する。
車はやがて、かつて通った小学校の横を通り過ぎた。
「あれ、校舎の位置、変わってない?」
「あんたなぁ、もう建て替えたん15年前やで。前に帰った時もおんなじこと言ってたわ」
と呆れられる。
「そやったっけ?」と言いながら、なんて平和な時間なんだろう、と目を細めた。
窓を開けると風が気持ちいい。
「お父さんは家?」と聞くと、「コーヒーいれて待ったはる」と母が言う。
「早くお父さんのコーヒー飲みたいわ」
そう言いながら、目を閉じて風を感じる。微かにまじる金木犀の香りで、家に着いたんだなと分かった。
車のバックする音を聞きつけて、父が待ちきれない様子で玄関先から顔を出した。
「おかえり」
「ただいま。帰ったよ」
気がつくと母の泣き顔が目の前にあった。
「ん……?」
「あんた……良かった……」
息が苦しい。手足を動かそうとしても思うように動かない。どうやら横になっているようだ。
「うまくいったようです。おめでとうございます」
横から知らない男の人の声がする。
声がする方に目線を向けると、白衣を着た男性がこちらを見下ろしている。
「先生、ありがとうございます……!」
母が泣きながらその男性にお礼を言っている。
母の白髪混じりの髪の毛は乱れ、明らかにやつれている。さっき見た母よりも随分歳をとった気がする。
その奥で父が心配そうにこちらを見ていた。やはりその目には光るものがある。
「2人とも、どうしたん?」
私が聞くと、白衣を着た男性が代わりに答えた。
「あなたは事故にあって、5年間意識もなく寝たきりだったんですよ。半年前に承認された新たな治療で記憶の旅に出てもらったんです。結果は大成功です」
その時、母のメガネに映る姿に言葉を失った。
たくさんの管が繋がった褐色の物体。
脳だ。
なんだコレハ?
オレはドウナッテシマったんダ……?
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