南蛮渡来のコーヒーと言うものを
浪花のとあるお屋敷の旦那さん。
ある日、南蛮渡来の珍しい飲み物「コーヒー」が手に入ったと、大層楽しみにしておりまして。
「これを飲めば、わしもひとかどの文明人や」と、そりゃあ心待ちにしておったんですな。
そこへ奉公している若い衆。
こいつがまた、ちょいとおっちょこちょいでして……。
さっそく旦那さんにコーヒーをお出ししようとした、その拍子に――
「うわっ!」
つるっと足をすべらせて、見事にコーヒーをぶちまけてしまった。
「ひぇ~っ、どうしよう……これでは旦那さんにどやされる」
慌てて台所を見回して、代わりになる黒いもんを探した。
そこで目に入ったのが、墨壺。
「これを水に溶かしゃ、色はそっくりや……。ばれへん、ばれへん!」
そうして器に注いで旦那さんへ。
「おぉ、これが南蛮渡来のコーヒーか。……ん、むほっ! ……ごくっ。ほぉ、なんともまろやかで、コクがあるなぁ。さすが南蛮の飲み物や!」
若い衆は横で、笑いをこらえてプルプル震えております。
「なんや、お前、何がおかしい?」
「いえね、だんさん。鏡を見てくだせえ」
旦那さんが鏡を覗き込むと、口のまわりが真っ黒け。
「うわっ! ぬすっとみたいになっとるやないか!」
ところが旦那さんはむしろご満悦。
「なるほど! 飲むと髭が濃くなるのか。見た目もたくましくなるとは、なんと素晴らしい飲み物よ! よし! 明日からこれを売りに出そう」
若い衆、想像すると笑いが止まらない。
「だんさん、この飲み物の名はどうしますかい?」
旦那さんも売れる名前を一生懸命考えてこう言いました。
「ぼくじゅーす、でどや?」
「あぁ……絶対だんさん、気付いてはるやん」
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