初めてのキスの味
山田さんは3つ上のテニス部の先輩だった。
つまり、わたしが大学に入学した時、山田さんは4回生だった。単純な足し算の話だ。
4回生と言えば、本来は大学院進学か、就職かを決める年だ。でも山田さんは留年するという第三の道を選んだ。なんてことはない。山田さんは2回生から大学の授業に出ていなかった。これまた単純な話だ。
いつもテニスコートには、元気に走り回る山田さんの姿があった。
楽しそうに汗を流す山田さん。
コート脇でタバコをふかす山田さん。
そんな山田さんには、前歯がなかった。
ラケットがぶつかって折れたらしい。
ある時、山田さんに、どうして前歯を治さないのか聞いた事がある。
山田さんは得意げにこう言った。
「だって、タバコ吸いやすいやん」
タバコは吸ったことがなかったが、ちょっと何言ってるか分からないと思った。
山田さんは、酔うとよくわたしのケツを揉んできた。
テニス部で同級生の男は他に5人いたのに、ケツを揉まれるのは決まっていつもわたしだった。
山田さんに、どうしておれのケツを揉むんすか?と聞いたことがある。
山田さんは少しはにかんでこう言った。
「だっていいケツしてるやん」
それにはわたしも納得だった。なぜなら、確かにわたしは当時、ぷりっとしたいいケツをしていたからだ。
そして山田さんはわたしの唇を初めてうばった男でもあった。
入学してすぐの新歓コンパ。
王様のイタズラか運命のイタズラで唇を奪われた。
まわりはみんな笑ってくれているかと思ったら、引いていた。
もちろん、わたしもドン引いていた。
なぜか山田さんだけ、乙女のように頬を紅潮させていたのは、酒のせいだったのだろうか。
私にとって初キスの味はヤニの味だった。
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