家系ラーメンってなんのはなしですか
ずっと気になっていた。
『王家』
ファラオの方ではない。『おうや』と読むらしい。駅前から商店街を抜けた先にあるお店。いつも行列で賑わっているその店は、気になりつつもなかなか暖簾をくぐることができなかった。いわゆる家系ラーメンのお店だ。
家系といえば、油っこくて、ボリュームたっぷりで、軟弱な自分の胃袋が耐えられる自信が無かった。
でも、今日は珍しくおなかの調子が良い。
今ならどれだけ食べても大丈夫な気がする。
店の前に着くと、時間は13時過ぎだというのに、外まで行列ができていた。炎天下でスマホゲームをしながら20分ほど並んで、ようやく自分の番が来た。
暖簾をくぐり、はしの折れた1000円札を券売機に突っ込む。
少し迷いながらも、1番オーソドックスな、黒ラーメンの玉子トッピングを選択。セルフの水をコップに注ぎ、空いているカウンター席に腰掛けた。
「ふぅ……」
冷房の効いた店内に、冷たい水が心地よい。
油ぎった床を踏んだせいか、靴底からギュッと嫌な音がして、思わず椅子の足に靴を乗せる。
店主に食券を渡すと麺の硬さを聞かれた。
「かためで……」
分かってる風を装う脊髄反射的な「かため」のオーダー。
正直麺の硬さにこだわりはない。肉の焼き方を聞かれて「ミディアムで」って言うのと同じだ。
ふと隣の席を見ると、黒いタンクトップを着た筋肉ムキムキの若い男がラーメンをすすっている。
タンク男は食べ終わって、ドンブリをドンっとカウンターに置くと大声で叫んだ。
「イエー!!」
!?
突然の大声にびっくりしていると、店内にいた客たちが皆、「イエー!」と返している。
え? まさかね。嘘でしょ。そんなしょーもない。
まさかの……まさかのイエー系ですか?!
じゃあなに? 店の名前も、王家ってこと??
頭の中が『?マーク』でいっぱいになっていると、注文した黒ラーメンが到着した。
確かに美味い。濃厚な豚骨醤油のスープに、少し縮れた中太麺がからむ。
残りが少なくなるにつれて、先程のタンク男の「イエー!!」が頭の中で再生される。
いやいや。まじかよ。あれは出来ないわ。
人前で大声で叫ぶなんて。
でも、イエー系なのだから、食べ終わってイエーと叫ぶのがマナーなのだろうか?
周りのお客さんも常連風だけど、イエーと返していたから、叫ぶのがこの店では常識なのだろう。
どうしよう。残りの麺をレンゲにすくい上げながら考えていると、
「イエーーーーーー!!!」
ひときわ大きなイエーが店内に響き渡る。
店主を見ると、何も言わず表情ひとつ変えずにラーメンを作っている。
あれだけ大きな声で叫んでも、眉根ひとつ動かさないなんて……きっとこれはありふれた光景。
なんせ、店名は『オーイエー』だ。
店主のテンションはめちゃくちゃ低いけど、やるしかない。
こういう時、恥ずかしがって中途半端になるのが1番かっこ悪い。
思いきってやるぞ!
最後のスープを飲み干すと、立ち上がって力の限り叫んだ。
「イエーーーーーー!!!」
目の前の店主と目が合った。
ギロリとにらまれて、ボソッと怒られた。
「お客さん、イエーコールは、来店10回目以降になります」
ええええ
イエー系って難しい。やはりぼくにはつぶやき系位がちょうどいい。
今度、隣町の“シロー系”ラーメン屋に行こうと思う。そこは、叫ばずに、ただ小さくつぶやくとかなんとか。
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