シン・嫉妬抗体 (理系ショートショート)
「おはよう、光。行ってくるよ。兄ちゃん、しっかりがんばってくるから光も応援頼んだよ」
おれは清木 心。日本国内で細々と痔の薬を売っている『Gファーマ』の研究員だ。
妹の光はもうこの世にいない。かつて女子高生作家としてその界隈で人気があったが、光の人気に嫉妬した一部のアンチが、光の作品は盗作だと噂を流した。結果、光は心を病み、美しくて清い光が一つ、この世から消えた。
あれから15年、光を奪った『嫉妬』をこの世から撲滅するため、おれは人生の全てをかけ、この日を迎えた。
光の写真に手を合わせると、玄関のドアをおおげさに勢いよく開ける。
さぁ、今日から嫉妬のない新世界の始まりだ!
💊💊💊
国際嫉妬学会 (International Society of SHITTO )
国際嫉妬シティTOKYOで開催されている学会のメインホール。
500人収容可能なその部屋に、立ち見が出るほどの聴衆が集まっている。
「光、一緒にがんばろう」
そうつぶやくと、おれは壇上にあがり、大きなモニターを背に立ち止まる。
すうーっと息を吸い込み、深呼吸する。
おれは、後に伝説となるプレゼンを開始した。
「なんでアイツばっかりいい思いをするんだ?
おれの方が認められるべきだ。
本当はわたしが選ばれるはずなのに。
世界中に溢れる嫉妬の心。
いちど嫉妬に囚われると、他人と自分の優劣を逆転しようと攻撃的になります。
人が生きる以上、嫉妬はなくならない!
なくならないが故に、誹謗中傷が絶えない。
それはリアルの世界にとどまらず、オンラインの世界でも猛威を振るっています……!
今日もどこかで嫉妬の炎が燃え、それによって傷付くひとが生まれる。
この負の連鎖を断ち切るべく、我が社が開発したのが、嫉妬心に対する抗体『シットシラズブマブ』です!!」
新たな薬の誕生を高らかに宣言すると、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
つかみは上々だ。そのまま会場が静かになるまでたっぷりと間をとる。
次第に会場は静まり返り、皆、固唾を飲んでおれの次の言葉を待っている。
「まず我々が最初にやったこと。それは、抗体医薬を作るための抗原を集める所からでした。
具体的には、職場やご近所さんで「あのひとは嫉妬深い!」と評判の嫉妬人100人を集めました。
その後、「100人に選ばれなくて悔しい!」と直接抗議してきた、生え抜きの嫉妬人8人を追加し、108人としました。
108人の血液を元に、マウスへ免疫してマウス抗体を取得、その後 ……
(中略)
……嫉妬心に対する抗体を作製しました。
ええ、実に開発まで15年かかりました。
途中何度も諦めかけましたが、我々チームの心の支えになったものがあります。
嫉妬をなくしたいという強い心?
もちろんそれもあります。でも、それだけじゃなかった。
支えになったもの、それは……
嫉妬心です。
我々が私生活も犠牲にして、研究に没頭している間にも、世間では楽しく遊んでいる人たちがいる。
ずるいぞこのやろー!!
おれたちだって遊びたいぞー!!!
嫉妬心の薬を開発するのに、嫉妬心が支えになったなんて、全く皮肉な話です。
とにかく、遂に出来上がったのがこちらです!!」
プレゼンが終わると、会場全体がスタンディングオベーションに包まれた。
その中には当然、ライバル会社の研究員も紛れており、昏い嫉妬の炎を燃やすのだった。
💊💊💊
シットシラズブマブの効果は絶大だった。
販売されると世界中から、攻撃的な嫉妬人は速やかに消えていった。政府がシットシラズブマブの接種を義務化したのが大きかった。おかげで隠れ嫉妬人達も、自覚なき嫉妬人達も、漏らすことなく投薬された。
結果、世界中から嫉妬は消滅し……
Gファーマのライバル会社は次々と倒産した。
もちろん、Gファーマがとんでもなく儲かったから、という理由もある。
ただそれよりも、「Gファーマよりいい薬を作るぞ」という感情が消えたことが大きい。
つまりライバル会社は、嫉妬心ではなく競争心を失い、やる気も失ってつぶれてしまったのだ。
そう、シットシラズブマブは失敗だった。
嫉妬心を抑え込む薬かと思いきや、競争心を抑え込む薬だったのだ。
世界中から競争がなくなり、一見平和になった。
と同時に、世界は成長をやめた。
💊💊💊
Gファーマの悲劇から300年後。
世界の人口は半分になり、文明は3000年ほど後退していた。
荒れ果てた居住区のはずれの路地裏に、小さな赤い花が咲いていた。
1人の少女が見つけて、その花を摘み、耳元に飾って満足気に微笑む。
すると、それを見ていたもう1人の少女が、「わたしのよ!」と後ろから花を奪った。「ほら、わたしの方が似合うじゃない」
赤い花を奪った少女は、鼻歌交じりに路地裏を抜け、奥に広がる高台へのぼった。
少し開けた高台のてっぺんには、そこだけきれいに整理された墓がある。
『清木家之墓』
手をあわせた少女は、おもむろに耳にかけていた赤い花を墓に飾った。
「知ってた?ご先祖サマ。嫉妬って、人の数だけあるのよ♪ だから大丈夫。たったひとつの抗体なんかに負けないから。わたしが今度は嫉妬の力で世界をもとに戻してアゲル🎶」
3度目の参加です。
前回池松さんからフィードバックをいただきましたので、それを踏まえて修正しました。
【修正ポイント】
• 清木の背景を冒頭に追加。前半は清木目線に変更。
• 300年後の世界に、清木の子孫を登場させ、歴史的つながりを意識。
• 結末を変更。ここは悩んだが、希望を残す形に。
ちなみに映画化するなら最後に登場する女の子は、心の妹の光と同じ配役で、めっちゃ活発な雰囲気の美少女を起用したいです😂
よろしくご査収ください。
前作はこちら。
池松さんの企画はこちら。
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