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【ショートショート】 寂しさの無い世界で

「この前の熱海旅行から帰ってきた時、無性に寂しくなったから作ったのだよ」

博士の視線の先には、一見すると何の変哲もないシーサーが置かれていた。

「博士、これはなんですか?」

こういう時は自分の考えは一切出さずに「なんですか?」と聞くのが良い。例えそれが研究所にあるのが不自然な沖縄の守り神だったとしてもだ。助手も長い付き合いで博士の性格は心得ていた。待ってましたとばかりに、得意げに博士が言う。

「これはだね、寂しい気持ちを消してくれる画期的な装置なのだよ。その名も『ばいばいさびシーサー』だ。この眉間から特殊な周波数の電波が出て、これを持った人の”寂しい”という気持ちが消失するのだ」

「なんて画期的な装置ですか! 素晴らしい!」

「そうだろう。駄菓子菓子だがしかし、残念ながら私は今全く寂しくないのだ。だから『ばいばい寂シーサー』の効果を試すことができない」

「博士。私も今、残念な気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいで、寂しい気持ちは1ミリもありません」

「やはりそうか……困ったな。よし、いい事を思いついた。今日で君はクビだ」

「なんのはなしですか?」


「いやいや、ほんとに今まで15年間、よく私の元で働いてくれた。感謝しているよ。ほら……なんだかとても寂しい気分が湧いてきたよ」

「はい、博士。驚きと怒りと諦めが大きいですが、私もほんの少し”寂しい”もある気がします」

「よし、こんな時こそ『ばいばい寂シーサー』の出番だ。口の中にあるボタンを押してくれたまえ」

ぽわわわわん。

『ばいばい寂シーサー』から、間の抜けた音が聞こえたかと思うと、博士と助手の”寂しい”気持ちはすっかり消えてしまった。

「なんだろう。君がいなくなって清々しい気分だよ」

「こちらこそ、急にクビにしやがってまじでふざけんなって気分です。そのムカつく顔、二度と見たくないですわ!」

どうやら博士の発明は大成功のようだ。



その後、『ばいばい寂シーサー』の効果はメディアやSNSでおおいに拡散され、様々なシーンで活用されるようになった。


卒業式、結婚式、お葬式。


あちこちで、ぽわわわわんと鳴る度に、寂しさは消えたが、悲しむべき場面で笑う人々が増え、争いの種となってしまった。



ほどなくして、『ばいばい寂シーサー』は発禁処分となった。博士の胸には一抹の寂しさが訪れたが、もはやそれを消す術は無かった。






よしまるさんの「旅」をテーマにしたショートストーリー企画へ参加します。

これが9作目ですね。
最終日に駆け込みです。というか、1つの企画にこれだけ書いたのは初めてかもしれません。

今回は少し旅から離れているような気もしますが😂

よしまるさん、回収よろしくお願いします😊

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