【読書感想文】 『ナナメの夕暮れ』から『青天』へ。若林正恭の世界に震えた夜
オードリーの若林正恭さん。
ぶっちゃけ嫌いではないけど好きでもなかった(ごめんなさい)。
華はないけど(失礼)いるだけで場が落ち着くタイプの芸人さん、というイメージ。
そんな人が書く文章ってどんな感じだろう?
ちょうど若林さんの初小説『青天』が話題なので気になって本屋さんに行ってみた。
すると横に『ナナメの夕暮れ』を発見。
これは以前、橘ゆずさんの選書サービス『ゆずぴた』を利用した時に薦められたものだった。
もうこれは読むしかないやろーってことで購入。
『青天』も気になるけど、まずはこちらを先に読んだ。
『ナナメの夕暮れ』 文春文庫

家族が寝静まったリビングで、キッチンの明かりだけつけて読んだんだけど、思わず込み上げるものがあってむせび泣いた。
暗闇でスポットライト的についた明かりの下、本を読みながら嗚咽をもらす44歳。いやかなりやばいて。
最近、芸能人エッセイをいくつか読んであまりグッとくるものが無かったから正直期待してなかったのもある。
それでも、いい意味で期待を裏切られまくって、最近読んだ中では一番ズシンときたエッセイだった。
いわゆる『繊細さん』と言えばいいのだろうか。
世の中で皆が疑問を持たずにクリアしていくことが、逐一気になって立ち止まる若林さん。
そんな生きづらさMAXだった「世の中をナナメに見ていた時代」が、40代になって考え方が変わってきたというお話。まさしく『ナナメの夕暮れ』だ。
泣いたのは共感したからではない。
若林さんの生きづらさに比べたら、自分なんて随分図太く生きていると思う。
友人にも「鈍感力がすごい」と言われて「いやぁ、それほどでも」と照れて返せたくらいだ。
だから、若林さんが若い頃、世の中のこと全てにぶつかって、当たり散らかしていたような過去は自分にはない。
だけど泣けたのは、40代になって変化を受け入れている若林さんがカッコイイと思ったからだ。
強がって、自分を大きく見せて、とにかく吠えまくる。自分はお前らとは違うんだ、と線を引いてナナメに見る。そんな過去を否定する訳でもなく、「そうするしかなかったんだよな」と過去の自分の話を聞いて受け止めて、変化していく若林さん。
どこか自分と重ねたのかもしれない。
それとも憧れたのかもしれない。
1人の男の生き様を、ありのままに書いたエッセイだった。
読むことで、否応なく自分自身とも対峙することになる。
これは自分の人生のステージが変わる度に、読み直すと違う感想を持つ本だ。いい出会いができた。ゆずさんにも感謝です☺️
さて、続いて今話題のこちらも読了した。
『青天』 文藝春秋

高校アメフトが舞台のお話。青天とは、タックルで仰向けに倒される屈辱的な状況を表すアメフト用語らしい。
ファンなら周知の事実かもしれないが、若林さんも相方の春日さんも、もともとアメフト部だったらしい。
あの「トゥース」って有名なやつもアメフトの作戦会議で使う掛け声だそうだ。実際小説の中でも、とある登場人物が人差し指を立てて叫ぶシーンがあってちょっと笑ってしまった。
まるで若林さん自身を投影したかのような主人公のアリ。もちろんアメフトをやっているというのもあるけど、それよりもアリは世の中からどこかズレている。生きづらさを抱えている。
社会とピッタリとチャンネルが合う(この言い方が今の若い世代には伝わらないのだろうか)のがアメフトをやっている時だけなのだ。というか、アメフトをやっている時は余計なことを何も考えなくていい、ということなのだろう。
少しでもボールを前に運ぶこと。
目の前の敵をぶっ〇ろすこと。
それだけ。
主人公の抱える葛藤がリアルに感じるのは、若林さんご自身が体験した感情だからなのか。
まさしく高校生の時特有の青々しさをそこかしこに感じる。
これは『ナナメの夕暮れ』を先に読んでおいて正解だった。
今は自分のコントロールの仕方も何も分からなくて、ただただ人と、ただただ目の前の状況と、ぶつかることしかできないアリ。
話し合う意味なんかない、とアリは言う。だからぶつかる。
人の何倍もぐるぐる考えて、自分自身と散々話し合ってきたアリが、他人に対してはぶつかる以外のコマンドが無いってなんて皮肉だろう。
でも『ナナメの夕暮れ』を読んでいたから、きっとアリもそのうちにナナメの世界を卒業出来る日が来ると思うとどこか安心できる。
安心できるということは、この『青天』の世界にどっぷり浸れるということだ。
徹底的にアリ視点で描かれるこの世界は、とにかく読者とアリの距離が近い。
目の前すぐにアリの顔がある感覚。
彼の息遣いや心境の変化が手に取るように分かる。
目の前で起こることに対して、考える暇を与えてくれないゼロ距離。
そして何よりリズムがいい。
若林さんはアメフトの躍動感を見事に書ききっている。
アメフトを全く知らない私は、もちろん専門用語が何一つ分からなかった。でも若林さんが説明もせずに専門用語を多用したのは、頭で理解するよりは感じて欲しかったのかなと思った。リズムが重視されているし、それが読んでいてむしろ心地よかった。
ゼロ距離でリズムを感じるために最適なリリックを若林さんがひたすらぶつけて来ているという感覚。良い。
そう、若林さんはヒップホップ好きでご自身もラップがとても上手い。『青天』にも非常に多くの楽曲が登場する。
ちょっと珍しい読み方かもしれないけど、曲名が出てくるシーンでは実際にその曲を聴きながら読むのもいいだろう。
Hi-standardのSTAY GOLDを聴きながらアリの大乱闘シーンを読む。
THA BLUE HERBのAME NI MO MAKEZを聴きながら試合前のアリと同じように己を鼓舞する。
この音楽と小説の組み合わせがとても楽しい。
そしてちゃんとSpotifyにまとめてくれている人がいた。凄い。
ぶつかり続けた先にアリがどんな表情を見せるのか。是非最後まで読んで体感して欲しい。
私は最後の10ページ、とにかく震えながら読み進めたことをここに記しておく。
そしてちょうど読み終わった時、SpotifyのAIがランダム再生で選んだのはRHYMESTERのONCE AGAINだった。
新たな一歩を踏み出すこの曲が偶然選ばれたのは、ある意味奇跡だと思うのは私だけだろうか。
読み終わって『青天』の意味がひっくり返っていたら、人生何が起きても「へへへ」と笑えるのかもしれないな、と思う。

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