昭和の恩人、社長夫妻バスターズの話—夜10時の『ピヨピヨ事件』
過去を振り返ると、このご夫妻にどれだけ助けてもらったことか。
昔の言い方で言えば、「足を向けて寝られない」ご夫婦でした。
当時、私はそのご夫妻が経営する会社で、経理事務として働かせてもらっていました。
母は、私が24歳の時に交通事故で亡くなりました。
妹も働いていましたが、母の死をきっかけに、「生きているうちにやりたいことをしたい」と言って、ワーキングビザを取得し、海外へ行ってしまいました。
気がつけば、4LDKの中古一戸建てに、私ひとり。
母を亡くしたことで、心にぽっかりと穴が開き、その穴は、歳を重ねた今も、少し、小さくなっただけで、完全には埋まっていません。
日々の仕事に追われている間は、忘れていられましたが、ひとりの家に帰ると、様々な感情が、押し寄せてくる生活でした。
ある日、帰宅して食事を済ませ、お風呂から上がった時のことです。
「ピヨピヨ」
「え? 今のなに?」
もう一度、
「ピヨピヨ」
その瞬間、頭の中は一気にフル回転です。
「鳥? いや、家の中やし…」
「ゴキブリ? ネズミ? いや、今まで見たことないけど…」
「いや~ん、怖い~!!!」
正体のわからないものほど、怖いものはありません。ましてや、家にいるのは、私ひとりです。
とっさに思い浮かんだのが、何かあるたび相談していた社長の奥様でした。
もう夜10時頃でしたが、思わず電話をかけてしまいました。
「奥さん、なにか『ピヨピヨ』聞こえるんです。小鳥じゃないし、ゴキブリは見てないし、ネズミでもないと思うんですが…」
すると奥様は、
「〇〇さん、今ちょっとバタバタしてるけど、時間は分からないけど、見に行ってあげるわ」
そう言って電話は切れました。
怖い半分、知りたい半分で、私は音のする方を、腰が引けながらも探していました。
その時です。
ピンポーン
「えぇっ、奥さん、早っ!」
玄関を開けると——
ジャジャン!
そこに立っていたのは、社長と奥様。
しかも、二人とも、虫よけ帽子をかぶり、虫取り網とネズミ捕りの粘着シートを持って、
「〇〇さん、来たよ!!」
その姿を見た瞬間、不躾ながら心の中で思いました。
「キャ!社長夫妻バスターズ参上やん!!」
ありがたいやら、申し訳ないやら、頼もしいやら。
胸の中は「すみません!」と「助かった…」でいっぱいでした。
玄関に入ってもらう時に
私の耳にまた、あの
「ピヨピヨ」
音のする方を見ると、ソファーの上に置いてあった私のカバンのあたり。
さらに何気なくソファーの下をのぞいた瞬間——
犯人発見。
「あ! これや!」
それは、友人にもらった防犯ブザーでした。
電池が切れかけて、弱々しく鳴っていたのです・・・。
ご夫妻には、玄関先で事情を説明しました。
奥様は、笑いながら言いました。
「〇〇さん、良かったやん。お父さんなんか、ネズミやったらって、やる気満々で用意してたのよ」
社長夫妻バスターズは、そのまま颯爽とかっこよく帰っていかれました。
もう、恥ずかしくて恥ずかしくて。
翌日、会社でお二人に何度も謝り、お礼を言いました。
でも、このご夫妻には、この一件だけでなく、数えきれないほどお世話になったんです。
私にとっては、本当に人生の恩人です。
今はもう連絡を取ることもありませんが、それでも何度でも言いたいのです。
「本当にありがとうございました。」
このご夫婦に出会えたことは、私の人生の宝物のひとつです。
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