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夏の夜の、ねむるまで

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夏の夜の、ねむるまで

線香花火の火が落ちると、あたりは急に暗くなる。

さっきまで手もとにあった光が消えて
そのぶん、庭の灯籠がくっきりと見えた。

夜は、ずっとそこにいたのだと思う。

部屋にもどると、蚊帳が吊ってある。

夕方、なんとなく出しておいたものだ。

いまどきの家に、蚊帳はいらない。
窓はきちんと閉まるし、蚊取りもある。

それでも、夏になると、たまに吊りたくなる。

裾をそっと持ち上げて、なかへくぐる。
それだけの動作が、どこか儀式めいている。

蚊帳のなかに入ると、世界がすこし遠くなった。

行灯のあかりが、うすい麻の布をとおり
ゆっくりと輪郭をなくしていく。

畳のへりも、枕もとの本も、自分の指先も。

どこまでが部屋で、どこからが夜なのか
わからなくなる。

守られている、というのとは少し違う。
ただ、境目がやさしくなる。

一枚の布で、こんなにも心もとなくて
それなのに安心できるのが、不思議だ。

となりの部屋から、砂を浴びる音がする。

みーくんも、そろそろ夜のはじまり。

寝ころんで、天井を見上げる。

あみ目ごしの天井を眺めているうちに
目がゆっくり、とろけてくる。

眠ってしまえばいいのに
まだ起きていたい。

朝に読み返したら、たぶん半分は消す。

それでも、残りの半分のために 
今夜も起きている。

蚊帳のそとに、行灯がひとつ。

そのむこうに、庭。
そのむこうに、夏。

おやすみなさい。

まだ、もう少しだけ。

雪綴ゆき


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