星合の空に願いを託して
7月7日。
帰り道、湿り気を含んだ風に
揺れる笹の葉を見かけました。
さらさらと鳴る葉ずれの音、色とりどりの短冊。
ふだんは足早に通り過ぎる場所で
自然と歩みがゆるむ。
七夕という日には
そんなふしぎな引力があるように思います。
天の川を隔てて引き離されたふたりが
一年に一度だけ、逢瀬を許される夜。
織姫はこと座のベガ、彦星はわし座のアルタイル。
ふたつの星は
およそ15光年も離れているのだそうです。
光の速さで駆けても、15年。
それほど遠く離れた星と星を
昔の人びとは、想い合うふたりとして結びつけました。夜空を見上げた誰かのまなざしが
途方もない距離に、物語という橋を架けたのです。
そう思うと、すこしだけ胸があたたかくなります。
短冊に願いを書くという風習も
歳を重ねるごとに
すこしずつ意味を変えていくように感じます。
幼いころは「おもちゃがほしい」
「ケーキ屋さんになりたい」
ペンを握る手に、迷いはありませんでした。
それがいつのまにか
「家族が健康でありますように」
「穏やかな日々が続きますように」
という静かな祈りに変わっていく。
短冊を前に、ふとペンが止まる、あのわずかな沈黙。
星に願いを託すことは
自分の心を静かにのぞきこんで
いま本当に大切にしたいものを
そっとたしかめる時間なのかもしれません。
夕闇が深まり、遠くの稜線が夜に溶けていくころ
空を見上げてみます。
今日は、朝からずっと灰色のまま。
日本の七夕は梅雨の名残と重なることが多く
天の川がくっきりと見える夜は
じつはそう多くありません。
この日に降る雨は、織姫と彦星が流す涙
「洒涙雨(さいるいう)」なのだと言われています。
それでも、厚い雲の向こうには
気の遠くなるような時間をかけて届いた星のひかりが
たしかに瞬いているのです。
見えないからといって、ないわけではない。
それはきっと
わたしたちが胸の奥にしまっている願いも同じです。
すぐには叶わなくても
雲に覆われたような日々が続いても
その先で、ひかりは消えずに待っていてくれる。
七夕の夜空は、そんな静かな勇気を
そっと手渡してくれる気がします。
この文章を書き終えたら
もう一度、窓を開けて空を眺めてみようと思います。
今宵、雲の切れ間から
ひとすじの星あかりがのぞきますように。
雪綴ゆき
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