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【ショートショート】お盆の夜、妹の誕生日に灯るもの

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お盆の夜、妹の誕生日に灯るもの

朝の町が、すこし静かだ。

世間はお盆休み。

すれちがう車もまばらで
町ぜんたいが、ゆっくり息をしているようだった。

夏の富士山は、はにかみ屋だ。

白くかすんだ空の向こうに、きょうも姿は見えない。
それでも、そこにいることだけはわかっている。

わたしはいつもの道を
いつもの時間に仕事へ向かった。

公務員に、お盆休みはない。

カレンダーの黒い平日を、きょうも淡々と過ごす。

そして、八月十日は妹の誕生日だ。

妹も同じ静岡で働く公務員で、勤め先はべつべつ。
姉妹そろって同じような道を選んだのは、偶然なのか。それとも、やっぱり似た者同士なのか。

子どものころ、妹の誕生日は
いつも夏休みのまんなかにあった。


スイカを食べたあとのケーキ。
扇風機の風に揺れる、ろうそくの火。

「消えちゃう、消えちゃう」

笑いながら、ふたりで手のひらの壁をつくった。

あの小さな火を、いまでも覚えている。

仕事を終えて外へ出ると、空は藍色に暮れていた。

まだ明かりの残る窓を背にして歩きながら
妹に電話をかける。

三コールで、つながった。

「もしもし。……誕生日おめでとう」

「ありがとう。そっちも今日、仕事だったでしょ」

「うん。世間はお盆なのにね」

「ね。まあ、お互いさま」

電話の向こうで、妹が笑う。

その声に、ふいにあの夜のろうそくを思い出した。

ケーキはない。
プレゼントは、週末に会って渡す約束をした。

それでも、この数分だけで
今日はちゃんと特別な日になった。

電話を切って、ふと富士山を見あげる。

昼間は隠れていた山が
夜のなかに大きな輪郭を浮かべていた。

その山肌に、ちいさな灯りが
糸のようにつらなっている。

ご来光をめざす登山者たちの、ヘッドライトだ。

ひとつひとつは
遠くからなら消えてしまいそうなほど小さい。

それでも、ちゃんと見える。

あのころ、ふたりの手のひらで
守ったろうそくのように。

灯りは、大きくなくていいのかもしれない。

帰り道、妹から一通のメッセージが届いた。

「週末、ケーキよろしく。」

思わず笑ってしまう。

どうやら今年も
ろうそくの火を囲むことになりそうだ。

雪綴ゆき


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