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気まぐれ俳句鑑賞19『いつも誰もゐない椅子おしろい花が散る』橋閒石

いつも誰もゐない椅子おしろい花が散る
橋閒石

五・七・五の俳句の定型からは逸脱しているが、「いつも(3)」「誰も(3)」「ゐない(3)」とテンポよく続いたあと、「椅子(2)」と1音減ることで小休止が生まれる。「おしろい(4)」の4音が圧力となって、最後にすっと消えるように読める。定型の器から溢れて零れ落ちそうな、言葉の量感が心地よい。

誰かがそこに座っているのを見たことがない椅子。不自然な場所に一脚だけ置かれているのか、あるいは、来るあてのない人を待っているのか。

「いつも誰もゐない椅子」が、唐突に置かれることで、いわば額縁のなかの画面に不在の気配が一面に立ち込めるようだ。互いに関連性がある訳ではない「おしろい花が散る」という出来事が突如置かれるのは、取り合わせの飛躍だが、別々の場所で起きるというよりも、画面の中に不意に花そのものがぽとりと落ちてくるようで、地味なことながら、はっとさせられる。この句の切れ目は、小休止よりも深い、見えない淵が確かにある。

そして、「おしろい花が散」ったあと、最後に残る沈黙の気配。実は、この余韻としての沈黙を聞きたいがために、何度もこの句を読んでしまうのではないだろうか。

季語は「おしろい花」。秋の季語である。第一句集「雪」所収。


出典:『橋閒石全句集』沖積舎より

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