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気まぐれ俳句鑑賞30『夏の海水兵ひとり紛失す』渡邊白泉

夏の海水兵ひとり紛失す 
渡邊白泉

天気は快晴、風もなく、波も穏やか。そんな夏の一日に、「水兵」が「ひとり」いなくなる。

「紛失」という語は、人間ではなく、切符や診察券、留め金などの部品、つまり、交換可能な管理物に使うものだ。だから、海軍の航海日誌を思わせる報告めいた無機質なこの措辞は、私をどこか不穏な、落ち着かない気持ちにさせる。

戦死ではなく、自殺でもなく、行方不明でもなく、「紛失」。その主体は、日本という「国家」か、それとも「夏の海」なのだろうか。人間のすることとは関係なく、何事もなかったかのように静かに、細かな光をただ反射させる「夏の海」。

「紛失」されたものは、どこかに紛れて見えなくなっただけで、本当に消滅したわけではない。探そうと思えば探せるものを、「紛失」と記録しただけだ。ひとりの人間として悼まれることもなく、ただ姿を消してしまった「紛失」者。忘れられ、探されることのない「水兵」の気配が、いつまでも夏の海には残っている。

出典:鑑賞現代俳句全集〈第6巻〉 俳句形式の可能性(1980年)


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