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気まぐれ俳句鑑賞28『文弱や氷いちごに舌染めて』岡本眸
文弱や氷いちごに舌染めて
岡本眸
実を言うと、今まで「文弱」という言葉を使ったことがなかった。「文弱の徒」という語をどこかで見聞きしたことはあっても、自分にも他人にも使ったことはなかった。
『岡本眸全句集』を頭から読み進めながら、心に留まった句を書き写しているところで出会ったのが、掲句である。
筆者の年譜に目を通した上で読んでいく行為には、彼女を待ち構える厳しい現実に、頁をめくることを恐れつつもつい急いでしまう、いささか不謹慎な気持ちが動いたことを、打ち明けなければならない。結婚数年後、子宮癌摘出手術を受けた眸は、その後十年を経て、俳人である夫を四十五歳で亡くしている。この句は、それから約三年後、「母系」という第四句集の冒頭、「微力」の章に収められている。
「文弱」といえば、辞書には「〔武士などが〕自分の本務を忘れ、学問芸能ばかりにふける様子(新明解:三省堂)」とある。切れ字「や」を備えて上五に置かれると、相当に強い衝撃がある。私はそこに自身の境遇に対する嘆き、不甲斐なさ、恥ずかしさ、を聞き留める。それは作者岡本眸の思いを推し量ってではなく、「自分の身に引き写して」のことである。しかも、その嘆きには、世間知に乏しい自分を密かに誇るような、屈折の匂いも嗅ぎ取った。が、そんな私の思いとはよそに、続く「氷いちごに舌染めて」という、稚気に満ちた、明るい反転によって、句の味わいが、ほろ苦くも爽やかな自己肯定、そして愛らしいはにかみを湛えたものへと一変する。その鮮やかな転調に思わず膝を打って身を乗り出してしまった。
一人、部屋で俳句を読みながら、小さく快哉を叫んだ経験は、この句が初めてである。
出典:『岡本眸全句集』ふらんす堂
