短編小説「ドライブスルーで注文しない男」
午前十時。ハンバーガーショップ「バーガー・バンバン」のドライブスルー担当、コミヤの一日が始まった。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ!」
インカムから聞こえてきたのは、しゃがれた男の声。
「うーん……メニューって、どんな感じだっけ?」
(メニュー見える位置に止まってるじゃん)と心で突っ込みつつ、コミヤは答える。
「定番のバンバンバーガー、アボカドチーズ、フィッシュバーガーがございます。」
「じゃあ……えび。」
「ありません。」
「じゃあ、エビ抜きで。」
「だから、ないんです、最初から!」
「そっか。じゃあチキン。」
「チキンも今、休止中でして……」
「なるほど。じゃあフィッシュ抜きのフィッシュバーガーで。」
「……それ、パンです。」
「パン好きなんだよねぇ。」
「パン単品の販売はしておりません。」
「じゃあポテト。」
「ありがとうございます。サイズはS、M、Lからお選びください。」
「じゃあMで。で、中身はL。」
「できるわけないでしょ!」
「バレなきゃいけるだろ。」
「完全に言っちゃってますからね!バレてます!」
「じゃあナゲットは?」
「5個入りと15個入りです。」
「3個で。」
「ないです。」
「……じゃあ15個のうち3個だけください。残りは寄付。」
「どこに!?」
「ナゲットに困ってる人に。」
「聞いたことない!」
横で聞いていた新人のミナミが吹き出した。
「あと、ドリンクは?」と客。
「コーラ、オレンジ、ウーロン茶がございます。」
「じゃあミルクで。」
「ありません。」
「じゃあ、オレンジとコーラを混ぜて。炭ウーロンも。」
「ドリンク界の事故起こさないでください!」
限界寸前のコミヤ。
だが客は突然トーンを変えた。
「……あ、やっぱ注文やめとく。財布、昨日落としたんだった。」
「はぁぁぁ!?」
「今日もいいツッコミだったわ。じゃあ、また来るね。」
車はそのまま、何も買わずに去っていった。
店内に戻ると、ミナミが言った。
「コミヤさん、あの人絶対YouTuberですよね」
「は?」
ミナミがスマホを見せる。
そこには人気チャンネル《ドライブスルーで意味不明な注文してみた》の最新動画が。
サムネイルには、しっかりコミヤの顔が映っていた。
タイトルは、
> 「【神対応】店員さんのツッコミが芸人級だった件wwww」
再生回数、150万回。
コミヤは無言でエプロンを脱ぎ、そのまま店長室へ向かった。
「店長。俺、昇給の話、していいですよね?」
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
短いお話ではありましたが、ほんのひとときでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
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