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この裏切りは、君を守るため 第34話

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第4章 裏切りと愛憎

1 パーティーへ、敵地への潜入

 敵軍のパーティーに潜入すると決めた日から数日間は、組織の人やクレイから、屋敷内の見取り図を覚えさせられ、さらにエスツェリア軍のことを詳しく聞かされた。
 おそらく皆、分かっているのだ。
 大佐の部屋から牢の鍵を手に入れるということが、どういうことなのかを。
 ファンローゼを憐れむ目で見る者もいた。あるいは、本当に大丈夫なのかと、疑わしい目つきで見る者も。
 ここへ来たばかりの、それも組織の者でない人間に、大役を任せていいのかと不安を抱くのも当然だ。だが、言いかえれば、たとえファンローゼが失敗したとしても組織の者でないのなら見捨てることも容易いということ。
 ある日、偶然にも彼らの会話を聞いたことがある。
 万が一失敗したときのことを考え、いつでもこのアジトから撤退する準備をしておくべきだと。
 ファンローゼはその会話を聞かない振りをしてやり過ごした。
 そして、いよいよエスツェリア軍特務部隊、ヨシア大佐の娘の誕生日パーティーの日を迎えた。
 ファンローゼと組織の一人、アデルという青年とともに、現在特務部隊の本部となっている屋敷へと車で向かった。
 会場にたどり着くと、すでに大勢の招待客が車で乗りつけ、きらびやかな会場へと吸い込まれていく。
 着飾った女性たちや、エスツェリア軍の夜会服を着た軍人たちをあちこちで見かけた。
 車から降りたファンローゼとアデルは、緊張した面持ちで屋敷の正面玄関へと向かった。 表情が堅いということをのぞいては、水色の品のよいドレスに身を包んだファンローゼの姿は、華やかな場に違和感なく馴染んでいた。
 玄関前に立つ軍の者に招待状を見せる。
 軍の男はじろりとこちらを見たが、うむと頷き中に入るよう促した。
 二人はごくりと喉を鳴らし、会場内へと足を踏み入れた。
 すでにパーティーは始まっていて、会場内は賑やかであった。
 部屋の中央のテーブルにはたくさんの料理が並び、軍の給士服を着た給士が、手の盆に酒を運びながら招待客たちの間を抜けていく。
「どうぞ」
 差し出されたワイングラスを受けとり、ファンローゼは一口だけグラスの中の液体を口に含む。
 一気に頬のあたりが熱くなった。
「ファンローゼ、あそこ、窓のあたりで会話をしているのがヨシア大佐だ」
 アデルがそっと耳打ちをしてきた。
 視線を向けたその先に、ぴしりとエスツェリア軍専用の夜会服を身にまとった、背の高い痩身の男が大勢の招待客に囲まれ、上機嫌に談笑している。
「あと、いつも大佐の側に控えている大佐の右腕とも呼ばれている人物がいるけれど、今は見当たらない。そいつは大佐のお気に入りで、大佐の娘と婚約することになっている。だけど……」
 アデルの顔が苦々しいものとなる。
「そいつは、エティカリア人だ」
 アデルはこつりとファンローゼの腕を突いた。
「それと、そんなに緊張しないで。自然に振る舞ってくれないと、かえって怪しまれる。君が何かへまをやらかしたら、僕まで捕まるってことを忘れないで」
 アデルの忠告に、ファンローゼは息を吸ってゆっくりと吐き出した。
 震える手を押さえるように、きつく握りしめる。
 確かに緊張して顔が強張っている。
 おそらく顔色も青ざめているだろう。
 パーティーは始まったばかり、ここで失敗をするわけにはいかない。この場に自然に溶け込めるように馴染まなければいけない。
 ファンローゼは目立たないように、うつむき加減で壁際に立った。
 あちこちでエスツェリア軍が行き来している。こんなところにいて彼らに自分のことがばれてしまっては大変なことになる。
 ただおとなしく、時がくるまで静かにやり過ごすのだ。だが、そんなファンローゼの行動がかえって裏目に出た。

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