心霊食堂 旅立ちは 思い出の味で 第12話
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第2章 思いやりのお弁当
5 そのお守りは
「直哉さん」
自分には直哉の姿が視えているが、他の人たちには視えていない。
一樹のように霊感の鋭い人なら視えるのかもしれないが、そんな特殊な能力を持った人などごく少数であろう。
つまり今自分は、何もない空間で、誰かに向かって話しかけているというおかしな状況となるため、おのずと声が小さくなる。
呼びかけられた直哉は、ゆるりと顔を上げ、八尋を振り返る。
こちらの呼びかけが聞こえていることに八尋はほっとする。と同時に、自分は霊が視えるだけではなく、会話をすることもできるようになってしまったのかという複雑な思いだ。
そういえば、一樹がこう言っていたことを思い出す。
自分の側にいると、元から霊感の鋭い人は感化されていく場合があると。
「八尋くんは、そのタイプかもしれないですね」
と、言われた。
その時はてっきり冗談かと思っていたが。
八尋は心の中で、なんてこった、と嘆きの声を上げる。
つまり、僕も視える系の人になりつつあるということか。でも、一樹さんもこんな気持ちを味わっているんだな。
ただし、同じ視える人間でも、一樹は霊たちを成仏させてあげられるが、自分には何もできない。ただ視えるだけ。
八尋はぶるっと首を振る。
それよりも、今は直哉との会話に集中しよう。
「あの、何を探しているんですか?」
八尋の問いかけに、直哉は眉尻を下げ悲しそうな顔をする。
「落とし物をして、ずっと探しているんです。それを見つけなければ家に帰れない」
「はあ」
どうしますか? という顔で、八尋は一樹をかえりみる。
「そのまま彼に付き合ってあげてください」
「分かりました」
頷いて、八尋は再び直哉に向き直る。
「僕も探し物を手伝います」
「でも……」
「僕、暇だし、それで何を落としたんですか?」
「さっき、すぐそこの神社で購入したお守りなんです」
「お守りですね。探します!」
「すみません。手伝ってもらって」
「気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」
よし、と気合いを入れて八尋も身をかがめ、直哉と一緒に落としたお守りを探し始めた。
確かに、地面を見下ろしながらひたすら探し物をするような地道な作業は一樹には似合わない。
そう思えばこれは、僕のやるべきことだと俄然やる気がでる。
最初は人目を気にしていた八尋だが、しまいにはなくしたお守りをなんとしてでも見つけてあげたいと思う気持ちが強くなり夢中になって探した。
すると、ガードレールの側に小さな白い袋のようなものを見つけ走り寄る。
「あった!」
まさしくお守りだ。
それを拾い、八尋は直哉に向かって手を振る。
「直哉さん、見つかりましたよ! お守り。これそうですよね」
目の高さまでお守りを持ち上げ、直哉に示した八尋は、あれ? と声をもらす。
「このお守りって」
すると、直哉は走ってこちらに近寄ると、八尋からお守りを受け取り、大切そうに手に握った。
「ああ、よかった。よかった……本当にありがとうございます」
「見つかってよかったですね」
「はい。でも、もう」
探し物が見つかったにもかかわらず、直哉の表情は浮かない。
八尋もかける言葉を見つけられず、気の毒そうな目で直哉を見る。
彼はすでに事件に巻き込まれ亡くなっている。妻に会うことはできない。そう思うと涙が出た。
「どうしてあなたが泣くのですか?」
「だって、そのお守りは……」
その後の言葉を口にできず、八尋は泣きながら肩を震わせた。もう、人目も気にせず声を出して泣いた。そんな八尋の姿に直哉の方が戸惑う。
「ありがとう、私のために泣いてくださって。優しい人ですね」
八尋はあうあうと、言葉にならない声を発する。
そこへ、ぽんと肩を叩かれた。振り返ると穏やかな笑顔の、一樹の姿があった。
「一樹さん、直哉さんの、探し物、見つかり……」
嗚咽混じりで言う八尋の頭に、一樹はぽんと手を置く。
「直哉さん、落とし物が見つかってよかったですね」
「はい。ありがとうございます」
「八尋くんもご苦労さま。悲しい気持ちは分かりますよ。でも、あなたがそんなふうに泣いていたら直哉さんが困ってしまいます」
「そ、そうですね……」
八尋はごしごしと袖口で涙を拭い、ぐずっと鼻をすすった。
「直哉さん、私とともに来ていただけませんか?」
「あなたたちとですか?」
「はい。少しだけ私のお店に寄って欲しいのです。会わせたい人がいるので」
「会わせたい人?」
「ええ、深雪さんです」
「妻にですか?」
直哉は目を見開いた。が、しょんぼりとした顔で手の中のお守りを見つめる。
「僕は死んだんですよね。ここで。通り魔に刺されて。その時の記憶は覚えています。だから、死んだ僕が妻に会うのは無理です」
直哉は自分が亡くなっていることをちゃんと理解している。分かっているのだ。
中には自分が死んだころすら分からずに、この世をさまよう霊がいると一樹は言っていた。
「私を信じていただけないでしょうか」
真剣な一樹の言葉に直哉の気持ちが動いたようだ。
直哉ははいと頷く。
「さあ、八尋くんも帰りますよ。お腹が空いたでしょう。帰ってご飯を食べましょう。手伝ってくれたお礼に、八尋くんの好きなものを作りますよ。何か食べたいものがありますか?」
「ハンバーグ、食べたい」
ハンバーグって子どもかよ、それも片言、と思わず自分で自分に突っ込んだが、今は早く帰って一樹のあたたかいご飯が食べたいと思った。
ー 第13話に続くー
