【3万字】アサヒ・キリン・サントリーのRTD事業戦略書
1. 競合分析:RTD市場の構図と主要プレイヤー
1.1 RTD市場の発展と成長(1980年~2020年代)
RTD(Ready to Drink)市場の黎明期(1980年代): 日本のRTD市場(缶入りチューハイ・カクテル)の始まりは1980年代に遡ります。1983年、サントリーが缶チューハイの先駆けとなる「タコハイ」を発売しja.wikipedia.org、1984年には宝酒造が「タカラcanチューハイ」を投入して大ヒットさせましたshokuhin.net。同時期にアサヒビール系では瓶入りチューハイ「ハイリッキー」(現「ハイリキ」)が登場し、市場が活性化しましたja.wikipedia.org。こうした製品は、それまで居酒屋中心だったチューハイ文化を家庭にも浸透させ、新ジャンルのソフトアルコール市場を切り開いたのです。
成長期(1990年代~2000年代): 1990年代には缶チューハイの市場規模が拡大し、多様なフレーバーの商品が登場しました。2000年代に入るとRTD市場は飛躍的に成長を遂げます。特に2001年にキリンビールが発売した「キリン氷結」はフレッシュな果汁感と手軽さで大ヒットし、以降長年トップブランドとして市場を牽引しましたjp.reuters.comjp.reuters.com。各社は競って新製品を投入し、RTD市場は9年連続で二桁成長(2007~2016年)するなど顕著な拡大を続けましたjp.reuters.com。この間、商品のトレンドも**「低アルコール・甘い系」から「高アルコール・甘くない系」へ**とシフトしていますjp.reuters.comjp.reuters.com。たとえばアルコール度数3%前後の甘味系チューハイの人気が一巡する一方、2010年前後からアルコール7~9%の「ストロング系チューハイ」が急伸し、2011年からの5年間で高アルコールRTD市場は2倍以上に拡大しましたjp.reuters.com。背景には「食事に合うお酒」としてビールから流れてきた消費者の需要取り込みがありますjp.reuters.com。実際、「‐196℃ストロングゼロ」(サントリー)は“食中酒”を前面に打ち出し市場を拡大させましたjp.reuters.comjp.reuters.com。さらにリーマンショック以降の景気停滞期には、「安価で手軽に酔える」高アルコールRTDの人気が高まる傾向も指摘されていますjp.reuters.com。
成熟期(2010年代後半~2020年代): 2010年代後半になると、RTD市場は国内酒類市場における主要な成長分野として確立され、ビール各社が「主戦場」と位置付けるまでになりましたjp.reuters.comjp.reuters.com。サントリーの「-196℃ストロングゼロ」や「ほろよい」、キリンの「氷結」シリーズ、アサヒの「もぎたて」(2016年発売)などがヒットし、新商品も次々投入される熾烈な競争市場が形成されていますjp.reuters.com。2019年時点では、アルコール度数7%以上のRTD出荷量が2009年比で約4.6倍(2,286万ケース→1億0612万ケース見込み)に増加したとの調査もありますzeiri4.com。2020年代に入ってもRTD市場は拡大傾向を維持しており、2021年には14年連続で市場規模が過去最大を更新しましたjmrlsi.co.jp。もっとも2022年はコロナ特需の反動や外食復調により一時的に前年比99%と微減しましたが、2023年に市場は再び持ち直し、2024年も堅調な推移が見込まれていますjmrlsi.co.jp。
新たなトレンド(2020年代中盤): 最近の注目トレンドは**「無糖系チューハイ」**です。2020年にキリンが発売した「氷結 無糖レモン」が火付け役となり、糖類ゼロ・甘味料ゼロの“甘くない”RTDが人気カテゴリに成長しましたwatch.impress.co.jp。無糖RTDの市場シェアは2020年から2024年に約6倍(4%→24%)に拡大したとも報じられておりwatch.impress.co.jp、各社から無糖シリーズが続々投入されています。実際、2023年時点でRTD全体に占める無糖商品の比率は約24%にも達し、RTD成長の牽引役となっていますwatch.impress.co.jp。アサヒビールが2022年に発売したジンベース無糖サワー「アサヒGINON」は発売1年足らずで高いリピート率を獲得し、ロングセラーブランドに肉薄する人気ぶりですjmrlsi.co.jpjmrlsi.co.jp。またフレーバーの多様化も進み、王道のレモン系に次ぐ“次のヒット”を狙って梅、お茶(緑茶ハイやウーロンハイ)、シークワーサー等の新フレーバーも登場していますjmrlsi.co.jp。ベースアルコールも焼酎だけでなくウォッカやジンなどを用いた商品が増えており、RTDカテゴリはかつてない広がりを見せていますjmrlsi.co.jp。
1.2 日本国内における市場シェア動向
トップシェアの推移: RTD市場は長らくキリンとサントリーが競い合ってきました。2001年発売のキリン「氷結」は2002年以降オリジナルフレーバーの強みでトップブランドを維持し、キリンビールはRTD市場のリーダーとして位置づけられていました。しかし2010年代に入りサントリーが攻勢を強め、2015年には販売数量でサントリーが5,759万ケース(前年比+14%)とキリンの4,710万ケース(+7.5%)を上回り、メーカー別シェア首位に立ちましたjp.reuters.com。さらにブランド別でも、2018年にサントリー「-196℃」ブランドが初めてキリン「氷結」を逆転し、トップブランドの座を奪取していますgenspark.ai。特に「-196℃ストロングゼロ」は高アルコール市場の需要を捉えて急成長し、2016年には販売計画を当初8%増から15%増(3,150万ケース)に上方修正する勢いを見せましたjp.reuters.com。一方の「氷結」も根強い人気で、近年までブランド別販売量トップ争いが続いています。
直近の主要プレイヤー市場シェア: 2020年代前半における国内RTDメーカーシェア(販売金額ベース)を見ると、サントリー、キリン、アサヒの3社で市場の大部分を占め、これに宝酒造、サッポロビール、日本コカ・コーラ(※2018年参入、「檸檬堂」ブランド)などが続きますwww2.fgn.jp。2022年見込ではサントリーが首位、僅差でキリンが2位、次いで宝酒造・アサヒが拮抗し、サッポロ・コカコーラが追随する構図となっていますwww2.fgn.jp。例えばある推計では、サントリー・キリン両社で市場の過半数以上を占め、アサヒはシェア約15%前後で3位グループ、残りを宝・サッポロ・他社が分け合う状況とされています(※正確な数値は非公開データのため推計)。
一方ブランド別の人気では、キリン「氷結」とサントリー「ほろよい」が常に上位争いを演じています。JMR生活総合研究所の消費者調査(2025年版)によれば、直近でも「氷結」は認知度・購入経験・リピート意向など全項目で首位、2位に「ほろよい」が付け、3位グループをアサヒ「贅沢搾り」やコカ・コーラ「檸檬堂」が競る状況でしたjmrlsi.co.jp。特に若年層に人気の低アルコール甘味系「ほろよい」と、定番フルーツチューハイの「氷結」は拮抗しており、今後も市場シェアをめぐる競争が続くとみられますjmrlsi.co.jp。
1.3 主要企業別の戦略とブランドポジショニング
アサヒビール(Asahi)のRTD事業: アサヒはビール市場で圧倒的存在感を持つ一方、RTD分野では後発でした。1983年発売の「ハイリキ」は日本初のチューハイブランドとして知られますがasahibeer.co.jp、長らくRTD主力はビール系企業に比べ限定的でした。2016年に満を持して投入した「アサヒもぎたて」シリーズは果実感と鮮度にこだわりヒットし、初年度目標500万ケースを大幅超えするなどRTD市場での存在感を高めましたjp.reuters.com。現在の主力ブランドには、果汁たっぷりの「贅沢搾り」、糖質オフ系の「アサヒSlat(すらっと)」、さらには2022年発売の**「アサヒGINON(ジノン)」などがあります。「GINON」はジンをベースに柑橘を絞った無糖サワーで、高アルコールながら甘くない食事向けとしてヒットし、発売翌年には再購入意向でトップブランドに次ぐ評価を得るまでになりましたjmrlsi.co.jpjmrlsi.co.jp。アサヒのブランド戦略上の特徴は、ビールで培った技術と品質志向をRTDにも応用し、「本格志向」「果実の贅沢感」「機能性(糖質オフ等)」を打ち出している点です。例えば「贅沢搾り」は果汁たっぷりで“濃い果実感”を訴求し差別化を図りjmrlsi.co.jp、新製品「未来のレモンサワー」では缶に本物の輪切りレモンを浮かべるギミックでプレミアム市場を開拓しようとしていますnewsdig.tbs.co.jp。アサヒは後発ゆえシェアは現状3位グループですが、“ビール首位奪還”に成功した営業力・流通網を生かし、RTDでも攻勢を強めています。特に近年はRTDを「重点成長カテゴリー」**と位置づけ、名古屋工場に50億円を投じて新RTD製造ラインを新設するなど増産体制を敷いていますryutsuu.biz。これは将来の需要増を見据えた布石であり、アサヒの本格参入によりRTD市場競争は一層激化するとみられます。
キリンビール(Kirin)のRTD事業: キリンはRTD市場のパイオニアであり長年のトッププレイヤーでした。2001年発売の「キリンチューハイ氷結果汁〈氷結〉」は、缶チューハイ市場を一変させたエポックメイキングな商品です。氷結は果汁のフレッシュさと爽快な炭酸を武器に爆発的に売れ、以降20年以上にわたりブランドを進化させていますjp.reuters.com。例えば近年は「氷結 無糖」シリーズを拡充し、糖類ゼロのさっぱりした味わいで健康志向層や食事利用層を取り込み、氷結ブランド全体の成長をけん引しましたjmrlsi.co.jp。またキリンは**「本搾り」ブランドにも注力しています。本搾りチューハイは果汁とお酒だけで作った無添加・甘くないチューハイで、素材本来の味わいを求める層に支持されています。さらに男性向けに苦味や渋みを効かせた「キリンビターズ」や、カロリーオフ訴求の「氷零(ノンアルコールチューハイ)」など、多様なラインナップを展開しています。ブランドポジショニングとしては、「氷結」で若年~中堅層の日常フルーツチューハイ市場を、「本搾り」で素材志向の大人層を、それぞれがっちり押さえている状況です。近年シェアこそサントリーに譲ったものの、キリンはビール・発泡酒カテゴリー縮小に対応してRTDを「収益柱の一つ」**と位置づけており、マーケティング投資を強化していますkirinholdings.com。実際、2020年以降には糖質ゼロや機能性表示食品とのコラボ商品(ファンケル「カロリミット」と組んだ「氷零カロリミット」など)を投入し、新規需要を開拓する動きも見られますtakarashuzo.co.jp。総じてキリンはRTD市場で培ったブランド力・商品開発力が強みであり、今後は既存ブランドのてこ入れとともに、新味や付加価値提案(機能性・健康面)でシェア奪回を狙う戦略が予想されます。
サントリー(Suntory)のRTD事業: サントリーは現在、国内RTD市場で最大のシェアを握るリーディングカンパニーです。その成功の鍵は、幅広い商品ポートフォリオと革新的な技術にあります。まず若年層・ライト層向けの**「ほろよい」はアルコール3%前後のカクテル風味飲料で、「カワイイ」パッケージと季節ごとの多彩なフレーバー展開により新規ユーザーを大量に取り込みました。対照的に「-196℃ストロングゼロ」はアルコール9%のキレ味するどいサワーで、“食事に合う糖質ゼロチューハイ”を掲げビール愛飲層まで取り込んでいますjp.reuters.com。この高低アルコール二極の両輪戦略がサントリーRTDの最大の強みで、気分やシーンに合わせてブランドを使い分ける提案が奏功しました。技術面でも、果実を-196℃で瞬間凍結・粉砕して浸漬する独自製法suntory.co.jpを開発し、ストロングゼロで果実まるごとの風味を再現した点は革新的でした。さらにウイスキー事業の伝統を活かし、「角ハイボール缶」「ジムビームハイボール缶」などウイスキーベースRTDも手掛け、市場全体を開拓しています。2020年代に入るとサントリーはRTD国内首位の座に満足せず、「RTD世界No.1」を目標に掲げグローバル展開を加速しましたasahi.com。海外ではオーストラリアで「-196℃」を現地仕様にローカライズして成功させたほかsuntory.co.jpsuntory.co.jp、2023年には中国市場にも参入し好調な滑り出しを見せていますsuntory.co.jp。こうした攻勢に支えられ、サントリーのRTD事業売上は年々拡大し、2023年のビール・RTD合算売上ではビール各社中トップとなりました(ビール類とRTD合計で前年比109%)ienomistyle.com。ブランドポジショニングでは、「ストロングゼロ」で高アルコール市場の圧倒的王者として君臨しつつ、「ほろよい」で新規層を囲い込み、「こだわり酒場のレモンサワー」など居酒屋系レシピの商品も展開して幅広い層にリーチ**しています。サントリーの弱みを挙げるとすれば、ストロング系に偏った売上構成から来る健康リスク批判への対処ですが、同社も無糖・中アルコール新商品(例えば5%の「サントリー芳醇レモンサワー」等)を開発し、バランスを取る戦略を取り始めています。総合的に見て、サントリーはRTD市場で商品・マーケティング・国際展開のすべてにおいて一歩先を行っており、他社に対する競争優位を維持しています。
2. リスク評価:RTD事業を取り巻く課題と外部要因
RTDビジネスには、市場環境の変化や社会的要因による様々なリスクが存在します。以下では主要なリスク要素を分析します。
2.1 法規制・税制の変化リスク
酒税改正の影響: 日本国内の酒税法改正はRTD各社の収益に直接影響します。近年進められている酒税一本化では、2023年10月に発泡酒・新ジャンルの増税とビールの減税が実施され、一方RTD(その他の発泡性酒類)は税率据え置きとなりましたienomistyle.comienomistyle.com。この結果、RTDの割安感が増しビール類から顧客が流れる現象が起きていますnewsdig.tbs.co.jp。事実、2023年末にはビール各社が「ビール減税」で攻勢を強める一方で、増税を免れたチューハイ市場で顧客争奪戦が過熱しましたnewsdig.tbs.co.jpnewsdig.tbs.co.jp。もっとも、この有利な状況も恒久ではありません。2026年10月には缶チューハイの税率も28円/350mlから35円へ引き上げられる予定で、税制上の優位性がやや縮小しますsbbit.jp。増税幅は1缶あたり+7円と小さいものの、価格転嫁次第では需要にマイナス影響を及ぼす可能性があります。また将来的に政府がアルコール度数に応じた累進課税を導入すれば、9%など高アルコール商品の価格競争力が大きく損なわれるリスクもありますzeiri4.comzeiri4.com。
販売・広告規制の強化: 国内では未成年者誤飲防止や飲酒運転防止の観点から、RTDを含む酒類の広告表現規制が強まる傾向があります。缶デザインに果物のイラストを大きく描く手法について「ジュースと誤認される恐れ」が指摘され、自主規制が議論された事例もありますja.wikipedia.orgja.wikipedia.org。将来的にアルコール広告の時間帯規制や、製品への警告表示義務(タバコのようなラベル)などが導入されれば、マーケティング手法の制約となり得ます。また販売面でも、深夜のコンビニでの酒販売規制強化といった政策が取られればRTDの手軽さに影響が出るでしょう。現時点で具体的な法改正はありませんが、健康問題のクローズアップ次第では、高アルコールRTDの販売自粛勧告や宣伝自粛要請など行政指導が出るリスクも否定できません(実際に一部医師から「ストロング系は危険ドラッグとして規制すべき」との極論も提起されていますzeiri4.com)。
海外市場での規制: グローバル展開においても各国の規制リスクがあります。例えば米国では缶入りカクテルの酒税や販売免許区分がビール等と異なり複雑です。また2000年代末にオーストラリアで**「RTD税」(通称アルコポップ税)**が導入され若者の蒸留酒RTDが重税となった事例があるように、各国政府は若年層の過度な飲酒対策としてRTDに高課税を課す可能性があります。さらに宗教的理由でアルコール規制が厳しい国(イスラム圏など)では市場参入自体が難しく、地域によって販売できる製品・度数が制限されることも考慮が必要です。各社は進出国ごとの法制度(酒類ライセンス、販路規制、容器リサイクル規則など)を精査し、法令順守とロビー活動を適切に行うリスク管理が求められます。
2.2 健康志向の高まりと社会的イメージ
アルコール離れと健康ブーム: 日本では20代~30代の若年層を中心に「アルコール離れ」が指摘され、飲酒人口そのものが長期減少傾向にありますjp.reuters.com。また中高年層でも生活習慣病予防のため飲酒量を減らす人が増えています。このような健康志向の高まりはRTD市場にも影響します。RTDは「手軽に飲める甘いお酒」としてカロリーや糖質が気になる存在でもあり、肥満や糖尿病リスクを懸念する声があります。そのため各社は糖質オフ・プリン体ゼロなど健康面に配慮した商品を打ち出していますが、そもそもの**「アルコール=不健康」イメージ**が拡大すれば需要縮小リスクがあります。特にストロング系チューハイはその飲みやすさから過剰摂取を招きやすく、「身体に悪い」「依存症を助長する」といったネガティブな報道が増えれば、社会的批判にさらされる可能性がありますzeiri4.com。実際、一部専門家からはストロング系を名指しした警鐘も鳴らされておりzeiri4.com、メーカー各社は対応に追われました。極端なケースでは企業の自主規制として高アルコール商品の販売縮小や度数引き下げが行われる可能性も否定できません。
飲酒マナー・安全への懸念: 健康志向と関連して、飲酒に関する社会の目も厳しくなっています。飲酒運転の罰則強化やハラスメント防止(いわゆるアルハラ防止)などの動きもあり、酒類業界全体で「適正飲酒」の啓発が求められています。RTDはコンビニ等で買えて手軽に酔える半面、その気軽さゆえに短時間で過度摂取してしまうリスクもあります(実際、9%チューハイ500ml缶はビール中瓶2本分近いアルコールを含み、一気に飲めば急性アル中の危険もあります)。こうした点から、消費者団体等がRTDの販売規制や容器サイズ制限(大容量缶の禁止など)を訴える可能性も考えられます。社会的イメージ悪化は長期的に市場規模を押し下げる要因となり得るため、各社は商品の適正飲酒喚起や低アルコール製品の拡充といった対応でバランスを取る必要があります。
2.3 原材料価格・供給リスク
果実等原料の価格変動: RTD、とりわけチューハイ系製品はレモン・グレープフルーツ等の果汁を使用するため、果実原料価格の影響を強く受けます。近年、気候変動による不作や世界的需要増によりレモンなどの価格高騰・供給不安定が報じられています。価格高騰時には原材料費圧迫で利益率低下を招くほか、深刻な供給不足の場合には一時的に製造休止や代替原料への切替も必要になるでしょう。また糖類、香料、炭酸ガスなど、副原料のコスト上昇(エネルギー価格上昇に伴う製造コスト増)も広く酒類メーカーの課題です。特に2022~2023年は世界的なインフレで原材料・資材全般が高騰し、各社はチューハイの価格改定や内容量減(いわゆるステルス値上げ)で対応しました。価格転嫁が進まないと利益を圧迫するため、今後も原材料市況の動向は注意が必要です。
アルコール原料・容器供給: RTDのベースとなるアルコール(甲類焼酎・スピリッツなど)の調達もリスク要因です。甲類焼酎は主原料が輸入穀物や糖蜜であり、輸入先の情勢(為替、国際関係)によってコストが変動します。またウイスキーやジンを使うRTDでは原酒の長期熟成や需給逼迫により供給制約が生じる場合があります。さらに容器であるアルミ缶も需要増やアルミ価格の高騰で確保が課題になることがあります。世界的に缶飲料需要が拡大する中、缶供給のひっ迫や価格上昇が生じれば生産計画に影響しかねません。事実、パンデミック下で米国などではアルミ缶不足が起きた例もあります。総じて、サプライチェーン上のボトルネック(原料・資材の確保難)やコスト上昇はRTD事業の安定性を揺るがすリスクであり、各社は調達先多角化や長期契約、先物ヘッジ等で対策を講じる必要があります。
2.4 海外市場における政治・文化的障壁
市場参入のハードル: RTDの世界展開を目指す上で、進出先ごとの政治・文化的障壁も無視できません。まず政治的側面では、関税や通関手続き、現地の酒類規制(販売免許制度や流通チャネル規制)があります。例えば米国では州ごとに酒類販売法が異なり、小売できる度数や場所に制約があります。日本企業が現地生産せず輸出に頼る場合、高関税や物流コストで価格競争力が下がる懸念もあります。また現地生産するにも醸造免許やパートナー探しが必要で、政治的なコネクションや交渉力が問われます。
文化・嗜好の違い: 一方、文化的側面では現地消費者の嗜好の差が障壁となり得ます。日本で人気の柑橘系サワーがそのまま他国で受けるとは限りません。例えば米国ではRTDと言えばモルトベースのハードセルツァーが主流であり、蒸留酒ベースのチューハイ系はまだ新参ですasahi.com。また甘味の好み(欧米はドライ嗜好、日本は甘党多めなど)や炭酸飲料文化の有無なども商品受容性に影響します。宗教・習慣的にアルコールに慎重な国では広告宣伝のやり方にも配慮が必要です。たとえば欧米では「女性向け」と明示したマーケティングは敬遠されることもあり、日本的な訴求が誤解を招く恐れもあります。さらにブランド名やデザインが現地文化で予期せぬ意味を持つケース(名前が俗語と被る等)も考慮すべき点です。
地政学リスク: 加えて、海外展開には地政学リスクも伴います。急な政治変動や関係悪化で輸出が止まったり、現地政府の保護主義策で外資メーカーが不利になる可能性もあります。昨今のロシア・ウクライナ情勢や中国との関係悪化など、不測の事態がどこでビジネスに影響するか分かりません。特に中国市場は成長期待が大きい反面、規制変更や輸入制限など政治リスクも孕んでいます。企業としては現地パートナーとの合弁や現地主導のブランド展開などリスク分散策を採り、政治的リスクを低減することが重要でしょう。
2.5 その他の競合・代替品リスク
新規参入競合: RTD市場の成長性ゆえ、新規プレイヤーの参入も活発です。近年では日本コカ・コーラが「檸檬堂」でアルコール飲料市場に参入し、一躍人気ブランドとなりましたjmrlsi.co.jp。また海外系ではディアジオなど大手酒造がRTDカクテルを投入する動きもあり、異業種からの参入が競争を激化させています。こうした新規参入組は既存ビール会社にはない発想やブランド力(例えばコーラ社のマーケティング力)を持つため、既存3社にとって脅威です。またクラフト蒸留酒メーカーなどがオリジナルRTDを出すケースも増え、商品の多様化によって既存ブランドのシェアが奪われるリスクがあります。
代替商品の台頭: アルコール市場全体で見れば、ビール・ワイン・清酒・焼酎など伝統的酒類もRTDの競合です。景気や気温などで消費者の嗜好は流動的で、「やっぱりビール回帰」「ハイボールブーム再燃」などトレンド変化でRTD人気が相対的に陰る可能性もあります。またノンアルコール飲料の進化も無視できません。最近では「ノンアルコールチューハイ」や「モクテル(ノンアルカクテル)」が充実してきており、休肝日用やソフトドリンク代替として市場を広げています。サントリー「のんある気分」やアサヒ「スタイルバランス」などが人気を博し、アルコールを摂取しない選択肢が定着すればRTDの成長にブレーキがかかるでしょう。また長期的には若者の嗜好変化(「お酒より他の娯楽」志向)や健康志向による低アル商品・機能性飲料へのシフトが進むと、RTD需要そのものが頭打ちになるリスクがあります。
以上のように、RTD事業には多角的なリスクが存在します。各社は税制・規制の動向を注視しつつ、商品ポートフォリオの調整(高アルと低アルのバランス、無糖系の強化)、健全な飲酒文化の醸成、原材料調達戦略の強化、海外では現地適応策の徹底など、総合的なリスクマネジメントが求められます。
3. ROI予測:製品・地域別の収益性と将来性分析
本章では、RTD事業の投資利益率(ROI)に関わる要因を製品カテゴリ別および地域別に分析し、今後の収益性と成長性を予測します。
3.1 製品カテゴリ別の収益性・将来性
高アルコール(ストロング系)RTD: アルコール度数7~9%前後のいわゆるストロング系チューハイは、現在RTD市場の中核をなすカテゴリです。収益性の面では、ストロング系はビール等に比べ税コストが低く設定されてきたことが大きな利点でした(350ml缶あたり税額は2023年現在28円でビールの約1/3zeiri4.com)。このためメーカーにとっては原価と税負担を抑えつつ、高めのアルコール度数ゆえ一定の付加価値価格で販売でき、1缶あたりの利益率が比較的高い商品といえます。実際、各社の稼ぎ頭ブランドは9%チューハイが多く、販売数量拡大が利益増に直結してきました。ただし前述のように2026年に税率引き上げが予定されており、1缶あたり+7円のコスト増は利益率を若干押し下げるでしょうsbbit.jp。それでもなおビールより税額は低く価格優位性は残るため、ストロング系RTDの高収益構造は大きくは揺らぎません。一方、将来性の面では健康リスクへの懸念が成長を鈍化させる可能性があります。ストロング系はここ10年爆発的に伸びてきましたが、2020年代半ばに入り社会的批判も出始めましたzeiri4.com。メーカーが自発的にプロモーションを控えたり、需要側も「ほどほど志向」に転換すれば成長率は逓減すると予想されます。もっとも現時点では依然根強い支持があり、短中期的にはストロング系カテゴリのROIは高水準を維持する見込みです。ただ長期的(2040-2050年頃)には人口減少と健康規制強化で市場自体が縮小に向かうシナリオも想定しておく必要があります。
低アルコール(ライト系)RTD: アルコール度数3~5%程度のRTD(例:サントリー「ほろよい」、各社カクテル系)は、若者やお酒に強くない層に支持されるカテゴリです。売価はストロング系よりやや低めに設定されることが多いものの、原材料コスト自体は大差なく、また容量・包装も同じです。そのため単価あたりの利益率はストロング系より低めになります。ただしライト系は差別化要素(可愛らしいデザイン、季節限定フレーバー等)で付加価値を付けやすく、上手くヒットすれば安定した売上を稼げます。実際「ほろよい」は発売以来ロングセラーとなり、マーケティングコストを抑えて高いROIを実現しています。一方でライト系市場全体の成長性は近年やや鈍化傾向にあります。背景には若年人口の減少や、甘味系飲料ブームの落ち着きがありますjp.reuters.com。将来予測として、低アルコールRTDの市場規模は緩やかな縮小か横ばいを想定します。ライトユーザー自体がノンアル飲料へ移行するケースや、ビール系飲料に回帰する動きも考えられるためです。ただしゼロカロリー・機能性付与など新たな付加価値次第では再成長もあり得るため、各社が商品開発でテコ入れすればROIは一定水準を保てるでしょう。
無糖・機能性RTD: 近年急成長の無糖チューハイや、サプリ成分配合などの機能性RTDは、新興カテゴリゆえ市場占有率はまだ限定的ですが利益成長のポテンシャルが高い分野です。無糖系は健康志向層をターゲットとし価格も通常品と同等で売れるため、収益性は良好です。糖類や甘味料を使わない分原料コストはむしろ下がり得ますが、代わりに高純度の蒸留酒や果実香味料など質の高い素材が必要で、開発コストがかかります。しかしヒットすればブランドロイヤリティが高まりやすく、長期にわたり定番化する可能性があります。ROIの観点では、無糖・機能性RTDは投入初期の開発投資こそ必要なものの、中長期には利益率の高い柱になり得るでしょう。例えばキリンの「氷結無糖」は発売後氷結ブランド全体の販売数量増に貢献し、カテゴリ拡大をけん引していますjmrlsi.co.jp。今後も健康ブームが続く中、この領域はメーカー各社が注力するため競争は激化しますが、市場自体が拡大基調のため適切なブランド育成ができれば収益果実は大きいと期待されます。
ハイボール缶・カクテル缶: ウイスキーハイボールや本格カクテルの缶製品もRTDに含まれます。これらはベーススピリッツにコストがかかる(良質なウイスキーやラム等)ため、やや高価格帯で販売されることが多く、プレミアムRTDとして位置づけられます。サントリー「角ハイボール缶」や「ジンビーム ハイボール缶」は飲食店のハイボール人気を取り込んで成功し、安定需要があります。このカテゴリは絶対量ではフルーツチューハイに及びませんが、メーカーにとって蒸留酒販売拡大の一環であり、利幅も比較的確保しやすい商品です。将来性としては、ウイスキー市場の成長やバー文化のカジュアル化に伴い、ゆるやかな需要拡大が見込まれます。ただウイスキー原酒不足などの供給制約や、あまりに高価格にすると売れ行きが鈍る点に留意が必要です。総じてプレミアムRTDは利幅大きい反面、市場規模が限られるため、ROIという観点ではニッチな良品という位置づけです。各社とも主力商品ではないもののブランドイメージ向上に寄与するため、適度な投資を継続するでしょう。
3.2 地域別の成長性・収益性見通し
日本国内市場: 日本のRTD市場は成熟しつつありますが、まだ緩やかな成長が続くと予想されます。富士経済の予測では、2022年から2027年にかけて年平均+1.7%程度の成長と見込まれておりwww2.fgn.jp、市場規模は2027年にピークアウトする可能性があります(人口動態を考慮すると、その後は減少に転じるシナリオもあります)。したがって国内におけるROIは、中期的には現状維持~微増、長期的には市場縮小で効率低下のリスクがあります。ただし銘柄間のシェアシフトが起きており、先述の無糖トレンドなど製品ミックスの変化で各社の利益構造は変動します。特にシェアトップのサントリーと2位のキリンが拮抗する中、アサヒや新規参入組がどれだけシェアを奪えるかで各社ROIも左右されます。現状ではサントリーが高いブランド力で価格維持・売上拡大を達成しており、国内RTD事業の営業利益率はサントリー優位との見方がありますs-agent.jp(*注:具体的数値は開示されていないものの、サントリーHDは酒類事業全体の経常利益で同業他社を上回っているs-agent.jp)。アサヒ・キリンにとっては国内シェアを1%伸ばすことが即ROI向上につながるため、マーケティング投資の妙所です。今後酒税改正でチューハイ価格が相対的に上がることや、消費者の節約志向も踏まえると、国内市場では単価アップより市場シェア拡大による利益確保が鍵となるでしょう。短期的には晩酌需要の定着などで底堅い需要がありますが、長期では縮小も見据えて効率的な経営(生産ライン共通化、新商品開発費の回収など)を行う必要があります。
北米市場: 北米(特に米国)はRTDの新フロンティアであり、高成長が期待される市場です。米国では2019年頃からハードセルツァー(糖類発酵の低糖スパークリングアルコール)がブームとなりRTD市場全体が急拡大しました。その後成長はやや落ち着いたものの、プレミックスカクテルやスピリッツベースRTDが引き続き2桁成長しています。サントリーは米国RTD市場参入に積極的で、2024年に「-196」を21州で展開すると発表しましたsuntory.co.jp。米国市場の魅力は人口規模の大きさと、お酒の多様化ニーズです。ROIの面では、現地生産または提携によって物流コストを下げれば十分高利益が見込めます。価格帯も日本より高めに設定できる余地があり(輸入プレミアム感)、一旦ヒットブランドを確立できれば国内以上の収益源となるでしょう。ただし競合も激しく、米大手(ABインベブ傘下のボストンビール社など)もRTDに注力しているため、過剰なプロモーション費用が必要になる可能性もあります。総じて北米は攻め甲斐のある市場で、中長期で各社のROI向上に大きく寄与しうる地域です。
アジア・オセアニア市場: アジアでは、日本発のチューハイ文化が徐々に浸透しつつあります。特に東アジア(中国・韓国・台湾)では日本食ブームに乗り、日本式レモンサワーへの関心が高まっています。サントリーは2016年に韓国へ「ほろよい」を輸出開始jp.reuters.com、2023年には中国本土で「-196℃」販売を開始しましたsuntory.co.jp。中国市場はポテンシャルが非常に大きく、成功すればROIは飛躍的に高まります。もっとも中国では清涼飲料系RTD(例えばコーラ味チューハイ等)の方が受ける可能性もあり、各社試行錯誤が必要です。オセアニアでは、オーストラリアが注目市場です。豪州は1人あたりのアルコール消費量が多く、RTD(現地ではプレミックスと呼ぶ)の人気も高い土壌があります。サントリーはBeam Suntory傘下のネットワークを活用し、2018年から豪州において「-196℃」を現地主力のウイスキー系RTDに続く新ジャンルとして投入、成功を収めましたsuntory.co.jp。豪州での実績を見るに、適切にローカライズすればROIは非常に良好です。実際サントリーは豪州を足掛かりに欧州・東南アジアにも展開を広げ始めておりsuntory.co.jpsuntory.co.jp、グローバル売上目標(2030年に30億米ドルsuntory.co.jp)に照らしてもアジア・オセアニアでの貢献度は大きいでしょう。東南アジア諸国でも、タイやベトナムなど親日国を中心にチューハイ輸出が始まっています。ただアジア諸国は嗜好の違いが大きく、甘味や香りの調整が必要なこと、所得水準の関係で高価格品は限られることから、短期的な爆発成長は読みづらいです。とはいえ中長期では人口増と経済発展に伴い市場拡大が見込まれるため、ROI改善に寄与する重要地域となるでしょう。
欧州市場: 欧州は伝統的にワインやビール文化圏ですが、近年RTDカクテルやハードセルツァーの需要が生まれつつあります。英国やドイツなどでは既に一部RTDが市民権を得ており、サントリーも2024年より英独で「-196」発売を計画していますsuntory.co.jp。欧州における課題は既存の酒類との競合です。例えばイギリスではジントニックなどが缶で売られているものの、パブ文化が強いため家庭用RTDには限界があるかもしれません。またEU全体でアルコール規制(広告規制や高濃度酒課税)が厳しくなりつつあり、自由にプロモーションできない難しさもあります。ROI面では、市場が小さい段階では大きな貢献は難しいですが、現地生産や現地ブランド買収を通じて本格参入すれば効率は上がります。アサヒは欧州にビール拠点(元ペローニ等)を持つため、そのネットワークでRTDを展開できれば面白いでしょう。欧州は長期的な種まき市場といえ、2030年頃までに一定の需要基盤を築ければ、その後のROI向上余地が出てくると考えられます。逆に進出が遅れると現地メーカーに先行されシェア確保が難しくなるリスクもあります。
まとめ: 地域別に見ると、日本国内は大きな投資なく着実な利益を生む「キャッシュカウ」市場、北米・中国など海外新興市場は「将来の成長ドライバー」で一時的な投資負担はあるが高ROIが見込める市場と位置付けられます。各社とも国内収益で得た資金を海外成長市場に投下し、グローバルでの収益拡大を図る戦略を取っています。実際、サントリーHDやアサヒGHDは売上の半分以上を海外で稼ぐようになっておりnna.jp、RTD事業も例外ではありません。特にサントリーは**「2023年時点でRTD世界シェア3位、これを1位に引き上げる」**目標を掲げておりasahi.com、世界展開による売上・利益成長に自信を示しています。グローバル市場全体で見ればRTDは年10%超の成長が続く見通しでasahi.com、2030年には市場規模が2020年比約1.4倍になるとの予測もありますasahi.com。したがって各社RTD事業のROIも、グローバル展開次第では今後大きく向上し、酒類事業の稼ぎ頭に成長する可能性があります。
4. 将来動向:市場拡大予測・消費者嗜好の変化・代替品との関係
4.1 RTD市場規模の将来予測
国内市場の見通し: 日本国内のRTD市場は2020年代前半まで拡大を続け、2021年時点で過去最大規模に達しましたjmrlsi.co.jp。しかし長期的には人口減少と若年層のアルコール離れにより、市場成長は次第に頭打ちになると予測されます。富士経済による国内チューハイ市場の将来予測では、2027年に市場規模が××億円(2022年比ほぼ横ばい)との試算もありwww2.fgn.jpwww2.fgn.jp、2020年代後半には成長鈍化が顕著になる可能性があります。もっともメーカー各社の新カテゴリー開拓(無糖・機能系など)により需要の質的転換が進めば、市場縮小をある程度カバーできるでしょう。たとえば「お酒デビュー層」がビールではなくRTDから入るケースが増えれば、ビール減少分をRTDが吸収するシナリオもあります。また飲食店での提供が広がる余地もあり(樽詰めサワーなど)、RTDがビールに次ぐ定番酒種として定着すれば底堅い市場となり得ます。政府による飲酒奨励策(2022年には若者の飲酒促進キャンペーン提案が話題になりました)などが追い風となる可能性もわずかながらあります。総合すると、国内RTD市場は今後数年は微増~横ばい、2030年以降は緩慢な縮小とのベースライン予測が妥当ですが、企業のマーケティング次第でシェアの取り合いや需要創造が行われ、各社の体感としては「攻め続ければ成長余地あり」という状況と考えられます。
世界市場の見通し: グローバルで見るとRTD市場の成長余地は極めて大きく、各種レポートが高い伸びを予測しています。サントリーによれば、世界のRTD市場はここ数年平均約20%の年成長率で拡大を続けており、2030年には現在の2倍以上、500億米ドル(約7兆円超)の規模に達する見通しとされていますsuntory.co.jpsuntory.co.jp。別の調査では、2024年に1,060億ドルの市場が2032年までに1,689億ドル(年平均成長率約6%)に達するといった予測もありますdatabridgemarketresearch.com(*定義による差異あり)。地域別には、北米とアジア太平洋が成長ドライバーとなり、とりわけ米国市場はカテゴリーの広がりとともに最大のRTD消費国となる見込みです。実際、現在世界2位のRTDメーカーシェアを持つサントリーも、「RTDで世界金メダルを」つまり世界シェア1位を目標に掲げて米国攻略に注力していますasahi.com。各社の海外投資が実り、現地でRTD文化が根付けば、2030年頃にはグローバルNo.1企業の座が日本勢から出る可能性が高いです(現状サントリーは数量ベース世界2位、金額ベース3位との自己分析nna.jp)。さらに遠い将来(2050年頃)を展望すると、世界人口増地域であるアフリカや南米にもRTDが広がり、真にグローバルな主要酒類カテゴリーになることが期待されます。そうなれば市場規模は現在比数倍にもなり得ます。一方で各国での競争激化により収益性が平準化する(ローカル企業の追い上げでシェアが分散する)ことも考えられます。総じて、世界的にはRTD市場は今後数十年は拡大基調が続く公算が大きく、日本企業にとってはその成長を取り込めるかが鍵となるでしょう。
4.2 消費者嗜好の変化トレンド
「甘くない」へのシフト: 既に述べたように、RTD市場では甘味の強いカクテル風から糖類無添加の辛口志向へのシフトが顕著です。特に無糖・プリン体ゼロ・人工甘味料不使用といったヘルシーさを訴求する商品が若年層~中年層男女問わず支持を広げていますjmrlsi.co.jp。背景には日常的に飲むお酒として食事に合うことが重視されるようになった点があります。ビール代替として晩酌にRTDを飲む層は、食事の邪魔をしないスッキリ系を好むため、甘ったるい缶チューハイよりレモン果汁の酸味が効いた辛口サワーを選ぶ傾向が強まっていますjp.reuters.com。メーカー側も「甘くないチューハイ」を次々開発し、この流れは今後も続くでしょう。また甘味だけでなくアルコール度数のメリハリも付いてきています。極端な例では、アルコール度数0.00%のノンアルチューハイから、9%超(海外では12%程度のRTDも登場)のスーパーストロングまで、消費者の細かなニーズに合わせラインナップが拡張しています。嗜好変化としては**「飲みたい時に飲みたい度数・味を選ぶ」**方向に多様化しており、既存製品の一極集中よりもパーソナライズが進むでしょう。したがってメーカーは多品種少量生産的な供給体制にも対応できるよう、柔軟性が求められます。
素材・フレーバーの多様化: 消費者は常に新しい味を求めるため、定番のレモン・グレープフルーツに加え、「次のヒット素材」が模索されています。近年注目のフレーバーには、梅(梅サワー)、お茶系(緑茶ハイ・ウーロンハイ)、南国果実(シークワーサー、パインなど)、さらにはハーブやスパイス(大葉、ジンジャー、八角入り等)も登場してきましたjmrlsi.co.jpnewsdig.tbs.co.jp。こうしたフレーバー多様化は、RTDがビールや焼酎にはない強みとして活かせる点です。季節限定やご当地素材を使った商品が発売されることで話題性を生み、SNS映えを狙う若年層に訴求できます。一方で消費者は飽きやすくもあり、ブームの移り変わりも早いです。例えばかつてブームになった「塩レモンサワー」や「トマト酎ハイ」なども一時的でした。今後は定番フレーバー(レモン・グレープF・梅・ブドウなど)を軸にしつつ、入替わりで新風味を提供し続けることが求められるでしょう。素材面では、果実以外に蒸留酒そのものの風味を楽しむ動きもあります。ジンやラムなどスピリッツそのものの個性を活かしたRTDや、クラフト蒸留所と組んだコラボ商品など、お酒の質感を味わう高付加価値RTDも一部で伸長するかもしれません。
パーソナライズと体験: 21世紀半ばに向けた消費トレンドとして、個々人の好みに応じたパーソナライズがさらに進むでしょう。たとえば消費者が自分でフルーツやハーブを加えてカスタマイズするRTDセット商品の提案や、味覚センサーによる好み分析を活用したレコメンド販売など、テクノロジー×嗜好の取り組みも可能性があります。消費者は単に酔うためではなく、「楽しい体験」「自分らしさ表現」の一環としてお酒を捉えるようになっています。RTDは缶デザインやブランドストーリーでファンを作りやすいため、コミュニティ形成やオンラインイベント連動など、体験価値の提供が重要になるでしょう。実際、既に一部ブランドでは期間限定バーの開設やSNSキャンペーンでユーザー参加型の仕掛けを行っています。将来的にはAR技術で缶からバーチャル映像が出る遊びや、サブスクリプションで毎月カスタムフレーバーが届くサービスなど、新しい体験が登場するかもしれません。
エシカル消費・SDGs対応: 消費者嗜好には倫理観も影響し始めています。環境や社会に配慮した商品を選ぶ「エシカル消費」が広がり、RTDでも容器リサイクルやカーボンニュートラル製造といった取り組みが評価されるでしょう。若い世代ほどその傾向が強く、単に安い・美味しいから一歩進んで、「このブランドは環境に優しいから買う」という動機づけも考えられます。各社はすでにアルミ缶の軽量化や再生材使用、工場の再生可能エネルギー転換など進めていますが、将来はそれを前面にPRすることが競争要素になる可能性があります。またノンアルコールや微アル商品をライン展開すること自体も「責任ある酒類メーカー」というイメージづくりにつながり、ブランド好感度を左右するでしょう。つまり嗜好の変化として、「美味しさ・楽しさ」だけでなく「共感できる価値観」を提供できるブランドが選ばれる時代になると考えられます。
4.3 代替商品・他カテゴリとの関係
ビール類との関係: RTD市場の拡大は、しばしばビール類市場の縮小と表裏の関係にあります。実際ここ数年、発泡酒・新ジャンルの増税もあって「第三のビール離れ」が起き、割安な缶チューハイへの乗り換えが生じていますnewsdig.tbs.co.jp。これを受けてビール各社はビール本来の魅力を訴求し若者回帰を狙う戦略を打ち出していますnewsdig.tbs.co.jp。将来的にもビールとRTDは晩酌市場を巡る競合となり続けるでしょう。一方で両カテゴリーの境界は曖昧になりつつあります。アルコール度数5%程度で食事に合うという点では「淡麗系ビール」と「辛口RTD」は機能代替になりえます。またビール会社は「ビアカクテル」や「チューハイテイスト発泡酒」など境界商品を出す可能性もあります。消費者にとっては気分で選択肢が変わるだけで、どちらが優位というより共存しつつシェアの取り合いが続くでしょう。なお飲食店では、近年サワー類が定番メニュー化しビール中ジョッキに代わる看板商品になっている例もあります。居酒屋での**“とりあえずレモンサワー”**文化が根付けば、RTD各社が業務用サーバー等に進出する可能性もあります(既にサントリーや宝酒造が業務用レモンサワーの素を展開)。
日本酒・焼酎・ワインとの関係: これら伝統酒類はRTDとは用途・シーンが異なる部分も多いですが、広義にはアルコール嗜好品として代替関係にあります。ワインは食中酒としてビールよりRTDと競合しにくいものの、若者がお洒落な宅飲みでスパークリングワインや缶チューハイを選ぶ場面ではシェア競争が起きています。日本酒・焼酎はRTDに流出した飲客を取り戻そうと、低アルコール日本酒や炭酸割り専用焼酎など新商品を模索しています。将来的には、たとえば地酒メーカーが自社の果実酒を使ったRTD缶を発売するなどコラボもあり得ます。つまり既存酒カテゴリーもRTD的な手軽さを取り入れる方向に進化する可能性があり、境界線は薄れていくでしょう。これにより消費者はますます横断的に酒類を楽しむようになると予想されます。RTDメーカーにとっては、他カテゴリと争うだけでなく協業(梅酒RTD化、日本茶サワー開発など)によって新市場創造するチャンスもあると言えます。
ノンアル飲料との関係: 代替品として最大の脅威もしくは補完となり得るのがノンアルコール飲料です。健康志向や休肝日需要の高まりで、ノンアルビール、ノンアルチューハイ、さらにはまったく新しい機能系ソフトドリンクが急成長しています。各社ともノンアル商品を並行展開しており、サントリー「のんある気分」シリーズなどはRTDブランドから派生したノンアルチューハイとして人気ですienomistyle.com。ユーザーとしては、「今日は酔いたくないからノンアル」「週末はRTDでほろ酔い」というように使い分けが一般化すると、RTDの消費量増加には限界が出ます。ただノンアル市場が広がることは、飲酒習慣離れの抑止にもつながり、将来アルコール飲料に戻ってきてもらう架け橋になる面もあります。したがってRTDメーカーはノンアル飲料を敵視せず、自社で取り込んでポートフォリオを組む戦略を取るでしょう。将来的には、アルコール度数を自由に調整できる希釈タイプ飲料や、飲む人が後からアルコール添加できるキットなど、ノンアルとアルコールの融合商品も考案されるかもしれません。
新たな娯楽との競合: 最後に、代替の視点として他の娯楽消費との競合も挙げておきます。若い世代にとって、お酒を飲むこと自体が娯楽の優先順位で下がっているという指摘があります。スマホゲームや動画視聴など安価で手軽な楽しみが増え、無理に酒にお金を使わなくても満足できるようになってきました。将来、メタバース空間などでの交流が主流になると、仮想世界ではアルコールは必要ないかもしれません。このように、アルコール飲料全般が「なくても困らないもの」になるリスクもあります。しかし人類の歴史上、嗜好品としての酒は根強く残ってきた経緯があります。特にRTDはコミュニケーションやリラックスのツールとしての手軽さが武器であり、今後も適度な地位は保ち続けるでしょう。メーカー各社は時代に合わせてブランディングを変え、「心を豊かにする嗜好品」「自分へのご褒美」「仲間との絆を深めるアイテム」としてRTDの価値を再定義し続けることが重要です。
5. 戦略提言:各社の強み・弱みを踏まえた推奨戦略
最後に、アサヒビール、キリンビール、サントリーそれぞれに対し、短期・中期・長期の観点からRTD事業戦略の提言を行います。各社の経営資源やポジショニングの違いを踏まえ、最適な戦略オプションを示します。
5.1 アサヒビールへの戦略提言
短期(今後1~3年): アサヒビールはRTD市場で後発ながら、「贅沢搾り」や「GINON」など有望ブランドが台頭してきています。この強みを生かし、短期的には新商品のヒット定着とブランド認知向上に注力すべきです。具体的には、2022年投入の「アサヒGINON」が獲得した無糖チューハイ市場の支持を盤石にするため、派生フレーバー(柑橘以外の果実、スパイス系など)の投入や数量限定キャンペーンでリピーターを増やします。また既存の「贅沢搾り」は果汁感を武器に差別化できているため、期間限定のプレミアム果実版(地域特産フルーツ使用など)を展開しブランド価値を高めます。短期の営業面では、同社が強みとする広範な流通チャネルを活かし、コンビニ・量販店での棚シェア拡大交渉を積極化すると良いでしょう。特に競合の弱いエリアや、新ジャンル増税で流入が見込まれる地方市場でキャンペーンを実施し、シェアを底上げします。マーケティングでは若者に人気のSNSを駆使し、ビールの「スーパードライ生ジョッキ缶」で培ったバズマーケティング手法をRTDにも応用します(例:「未来のレモンサワー」発売時に体験イベントを開催newsdig.tbs.co.jpしSNS拡散を狙う等)。短期的な目標は、RTD市場シェアでサントリー・キリンに次ぐ“しっかりとした第3位”の地位確立です。シェア20%前後を視野に入れ、利益よりもまず販売数量拡大を優先します。
中期(今後3~5年): 中期的には、アサヒはRTD事業での収益性向上とブランドポートフォリオ拡充を図るべきです。現在の主力が果汁系・無糖系に偏っているため、たとえばウイスキーやスピリッツ資産を活用した新RTDを開発することを提案します。具体的には、傘下のニッカウヰスキーのブランドを冠したハイボール缶や、ジン「カティサーク」等を使ったカクテルRTDを投入し、プレミアム層にも訴求します。これは他社の角ハイボールや翠ジンソーダに対抗しつつ、アサヒならではの酒質の良さをPRできる分野です。また健康機能への対応として、機能性表示食品のRTDも中期計画に盛り込みます。キリンが「カロリミット」コラボ製品を出しているようにkirin.co.jp、アサヒもグループのサプリメント事業等と連携し、「食事の脂肪や糖の吸収を抑えるチューハイ」等を実現すれば差別化できます。中期の営業戦略では、居酒屋チェーンとのコラボレーションを推進します。たとえば特定チェーン限定のアサヒRTDメニュー開発や、業務用樽詰サワー市場への参入です。これはビール営業網を持つアサヒに適した戦術で、業務用でのRTDプレゼンスを高めることで競合との差別化と収益源多角化につながります。財務面では、中期までにRTD事業単体で黒字幅を拡大し、発泡酒類減収を補填する収益柱に育成することが重要です。そのために生産効率向上投資(缶ライン増設や既存設備転用)を行い、ROIの改善にも努めます。
長期(5年以上、2030~2050年視野): 長期戦略として、アサヒビールはRTD事業のグローバル展開を本格化させるべきです。既に欧州やアジアにビール拠点・販売網を有している利点を活かし、将来的にはアサヒ欧州法人などを通じて「アサヒRTD」を海外市場に定着させます。例えば、アサヒが欧州で所有するプレミアムビールブランドと組み合わせて、ハイブリッドな商品開発も考えられます(ビール×レモンのシャンディガフ的RTDなど)。加えて、2050年を見据えたイノベーションにも投資を惜しまず、次世代飲料の研究に着手します。人工知能によるフレーバー創出や、ノンアルコールでも酩酊感をシミュレートするようなテクノロジー(合法の範囲で)が登場すれば、アサヒ自らがそれを取り入れ新カテゴリーを創造するくらいの発想が必要です。組織面では、若い世代の嗜好をビジネスに反映するために社内ベンチャー制度でRTDの新プロジェクトを立ち上げたり、スタートアップと連携して柔軟な商品開発を行うことを推奨します。長期目標としては、**「RTDと言えばアサヒにも革新的ブランドあり」**と世界中で認知される状態を目指します。ビールで培った“スーパードライ”ブランドのように、RTDでもグローバルメジャーブランドを創出できれば、アサヒの総合酒類メーカーとしての地位は揺るぎないものとなるでしょう。
5.2 キリンビールへの戦略提言
短期(今後1~3年): キリンビールはRTD主力ブランド「氷結」が依然高いブランド力を持っていますが、直近業績ではサントリーに遅れを取っていますienomistyle.com。短期的には、基幹ブランドの再活性化と営業改革が急務です。まず「キリン氷結」については、2020年に投入した無糖シリーズが成功したものの競合他社も追随しているため、ここでもう一段階上の付加価値提案を行います。例えば産地限定果実を使用した高品質ライン「氷結プレミアム」を発売し、味にこだわる層を囲い込みます。また既存の甘味系氷結ファン向けには期間限定の復刻フレーバーやコラボ企画(人気菓子や他飲料とのコラボ味)で話題を作り、ブランド想起率を高めます。加えて、「本搾り」「氷結無糖」「キリンザストロング」など他のRTDラインにもテコ入れをしますが、短期ではSKUを増やしすぎず主力の絞り込みが重要です。キリンは一時RTD新商品乱発で利益を圧迫した経緯もあるため、直近では売れ筋に経営資源を集中投入します。営業面では、キリンは他社比で業務用開拓が弱みと指摘されていますienomistyle.com。短期的に外食需要が回復している今、居酒屋チェーン等への樽詰サワー提案や、キリンシティなど自社業態でのRTD提供など業務用強化策を講じましょう。マーケティングでは、「氷結」は長年培ったファン層がいるので、ファンクラブ的コミュニティ施策(SNSでのユーザー投稿企画やファン感謝イベント)でロイヤルティ向上を図ります。短期目標は、RTD販売数量で前年比プラス成長に返り咲くこと(2023年は前年比98%で減少ienomistyle.comだったものを反転)と、市場シェアの再拡大です。特にアサヒとの差はまだ僅差と見られるため、これを引き離し明確な2位地位を固めることが喫緊の課題です。
中期(今後3~5年): 中期戦略として、キリンは商品ポートフォリオの再構築と新需要開拓を推進すべきです。まずブランドポートフォリオについて、現在の「氷結」「本搾り」「キリンザストロング」「ビターズ」という構成を見直し、重複や弱小ブランドの整理を行います。たとえば売上が伸び悩んでいる「キリンザストロング」は、氷結ブランド内の一バリアントとして統合し、氷結に“ストロングタイプ”を内包する形にすることでブランド力を一本化する手もあります。一方で「本搾り」のような独自路線の商品は伸ばす価値があるので、メディア露出を増やし更なる定着を図ります。また中期的には、キリンが強みを持つ健康・機能性事業とのシナジーを追求します。親会社キリンHDはファンケル等ヘルスサイエンス企業を傘下に持ち、機能性素材の研究開発力があります。これを活かし、「体脂肪が気になる人向けチューハイ」「休肝日明けに優しい低アルRTD」など、差別化できる商品開発を進めます。さらに、キリンはビールで培った海外ネットワーク(アジア豪州の拠点)があるため、海外市場向け専用RTDを開発し中期計画に組み込みます。例えば東南アジア向けに甘みを強調したトロピカルフルーツサワーを現地生産するといったアプローチです。中期の営業戦略では、国内では需要が頭打ちになりつつあるため、オペレーション効率化による利益確保に注力します。具体的には、生産拠点の集約・缶ライン自動化、人件費抑制とDX活用でコストダウンを図り、利益率改善を目指します。また中期のマーケティングでは、飽和市場で勝つために競合との差別化メッセージを明確にします。キリンは歴史的に「品質と信頼」のイメージが強いので、「安心素材・確かな美味しさ」の路線でブランドを磨き込みます(例:「国産果実100%氷結」「添加物無添加の本搾り」など安心感訴求)。中期目標としては、RTD事業の営業利益を着実に伸ばし、ビール他カテゴリの落ち込みを補完する収益の柱に育てることです。シェアではサントリーとの差を詰め、可能であれば再逆転も視野に入れます。
長期(5年以上、2030~2050年): 長期的に、キリンビールは事業構造の変革とRTDの新市場創造に挑むべきです。少子高齢化が深刻化する国内では、従来型の酒類ビジネスだけでは立ち行かなくなる可能性があります。そこで、キリンHDの掲げる「ヘルスサイエンス領域との融合」をRTDでも具現化し、アルコール飲料から総合嗜好飲料企業へ進化する戦略が考えられます。例えば、アルコール×機能性成分でリラックス効果を高めた飲料(睡眠の質向上を謳う夜用サワー等)や、アルコールとノンアルを自在に選択できるセット商品(同じ味でアルコール入りとノンアルをペア販売)など、新コンセプトの商品を提案します。またキリンは研究開発力が高い企業ですので、2050年頃の市場を見据えた革新的技術への投資も重要です。人工培養によるフルーツエキス生成や、香味を個人カスタムできるAI搭載ディスペンサーなど、未来のRTD体験をリードする技術開発を行います。グローバル戦略では、アジアにおけるRTD浸透に引き続き注力し、キリンブランドを海外でも確立させます。豪州では既にLION醸造所など子会社基盤があるため、そこをRTD輸出拠点にするのも一案です。組織的には、長期視野で若手社員や女性社員のアイデアを取り入れる仕組みを強化し、多様な視点で商品開発できる文化を醸成します。これは消費者層の変化に組織が対応するために不可欠です。長期目標は、「信頼のキリン」ブランドを守りつつRTDでイノベーションを起こし、国内トップクラスの総合飲料企業として持続成長することです。市場環境が厳しくなっても、健康・嗜好の両面で消費者に寄り添う商品提供により、存在感を発揮し続けることが求められます。
5.3 サントリーへの戦略提言
短期(今後1~3年): サントリーはRTD市場で独走態勢にありますが、慢心せず短期でも攻め続けることが重要です。まず短期的には、既存トップブランドの維持と市場伸長の牽引に焦点を当てます。具体的には、「-196℃ストロングゼロ」について昨今高まる健康批判に対応すべく、マーケティングメッセージを調整します。度数9%の訴求を過度に強調せず、「食事に合う旨さ」「糖類ゼロの爽快さ」を前面に出し、適正飲酒と旨さの両立をPRします。同時に、既に開始したストロングゼロのブランドリニューアル(名称を「-196」に簡素化するなどgenspark.aigenspark.ai)を消費者に浸透させ、新鮮なイメージを与え続けます。「ほろよい」に関しては、引き続きZ世代の支持を盤石にするため、SNS映えするコラボ企画(人気キャラクターやトレンドスイーツ味とのコラボ)や期間限定フレーバーを矢継ぎ早に展開します。ただし味のクオリティは落とさず、「全部美味しい」という信頼感を損なわないよう品質管理を徹底します。短期においてサントリーは最強ブランドを多数抱える強みがあるため、競合の出方に応じた迅速な防御も意識すべきです。例えばアサヒのGINONが伸びてきたら、即座に対抗する無糖ジンベース商品を自社から投入するなど、後手に回らないようにします。営業面では、昨今チューハイ需要増に応じて生産・物流体制の逼迫が報じられました。短期的には不足リスクを避けるため生産ラインの増強と在庫適正化に努めます。実際サントリーは2023年に既にRTDの増産体制強化を発表しておりienomistyle.com、これを確実に実行し旺盛な需要に応えます。短期の数値目標としては、国内RTDシェア首位を盤石にし(シェア30%以上キープ)、営業利益も前年超過を維持することです。
中期(今後3~5年): 中期的には、サントリーは国内市場でのポートフォリオ最適化と海外事業の本格成長という二軸を追求します。まず国内では、近年の無糖トレンドなどを踏まえて製品群を再整理します。主力のストロングゼロ・ほろよいに加え、2020年以降好調な「こだわり酒場のレモンサワー」ブランドがありますが、それ以外の小粒ブランド(カロリ。など過去商品)は整理し、リソースを集中投下します。一方、新しい潮流への対応として、中アルコール帯(5~7%)の商品強化を提案します。9%は強すぎる、3%では物足りないという層に向けて、ちょうどよいバランスの“ミドルチューハイ”市場を開拓します。例えば「-196℃」の技術を活かしつつ度数5%で果実味豊かに仕上げたシリーズを展開する等です。これは健康志向への配慮も示せ、ストロング系依存を緩和してポートフォリオリスクを下げる効果があります。また中期では、既存ブランドに飽きが生じないようブランド刷新も検討します。例えば「ほろよい」は発売15周年を迎える頃にはパッケージリニューアルや新シリーズ展開(ゼロカロリー版ほろよい等)で刺激を与えます。海外戦略においては、中期で北米・欧州・アジアにおける確固たる市場地位確立を目指します。サントリーは既に2024年に米国21州展開、英国・ドイツ参入を発表していますsuntory.co.jp。この計画を着実に実行し、中期5年で米・欧主要市場においてトップクラスのシェアを取ることがターゲットです。具体策としては、Beam Suntoryや現地パートナー企業と連携し、各国の消費者嗜好に合わせた味・ブランド調整を行います(例えば米国ではフレーバーをより強く、英国では甘さ控えめなどのローカライズ)。現地生産も拡大し、コストダウンと供給安定を図ります。さらにアジア新興国では中国・東南アジアへの輸出拡大と、場合によってはライセンス生産も検討します。中期の組織課題として、サントリーはグローバル体制強化が挙げられます。日本国内と海外事業の情報共有を密にし、人材交流も進めることで、世界規模でRTD事業をマネジメントできる体制作りを行います。中期目標は、「RTD世界シェアNo.1」の実現に向けて明確な進捗を出すことです。国内シェアも維持しつつ、海外売上比率を高め、2030年目標達成に弾みをつけます。
長期(5年以上、2030~2050年): サントリーの長期戦略ビジョンは、**「RTDグローバルトップカンパニー」として君臨し、新たな食文化・飲酒文化を創ることですasahi.com。具体的には、まず2050年までにRTD世界シェア1位を確実なものとし、あらゆる主要市場で存在感を示します。これは中期戦略の延長上にありますが、長期ではさらに踏み込んで、現地開発のRTDブランド買収や現地企業とのジョイントベンチャーなども活用し、地域別に最適なブランドポートフォリオを構築します。例えば、北米では現地のクラフト蒸留酒メーカーと協業して新RTDブランドを立ち上げる、アジアでは各国の人気フルーツを使ったローカルRTDブランドをサントリー傘下で展開する、などです。製品開発面では、サントリーの強みである技術革新を更に推し進めます。-196℃製法に続く第2、第3の画期的製法を生み出し、味・香り・楽しさで競合を圧倒する商品を送り出します。例えば、リアルフルーツ片入りでありながら長期保存可能な缶サワー、飲む直前にカクテルシェイクする新容器など、未来志向のプロダクトです。またサントリーは「やってみなはれ」の精神で異業種にも挑戦する企業文化があります。2050年に向けては、アルコール事業の枠を超え、飲酒体験そのものを再定義する挑戦を期待します。例えばデジタル技術と融合したスマートグラス(IoTグラス)で飲酒量や体調を管理しながら楽しめるシステム提供や、自宅とバーを繋ぐオンラインリアルタイム飲み会サービスの開発など、ライフスタイル提案企業として進化するのです。その中でRTDは重要なコンテンツとなり、ノンアル版や機能性版も含め、人々の生活に寄り添う多彩なお酒体験を提供します。環境・社会への配慮も長期戦略の柱です。2050年カーボンニュートラル目標に合わせ、RTD製造・流通でのCO2削減やリサイクル100%達成などESG経営を完遂します。これにより持続可能な成長を可能にし、次世代にも愛されるブランドであり続けます。要するに、長期的なサントリーのビジョンは「RTDと言えば世界の誰もが知るSunChu(仮称)」**のようなグローバルブランドを打ち立て、なおかつ品質・文化・環境あらゆる面でリーダーシップを発揮することです。
以上、アサヒビール、キリンビール、サントリーのRTD事業に関する包括的な戦略提言を示しました。各社それぞれ強み・弱みや置かれた状況は異なりますが、日本発のRTD文化をさらに発展させるという共通の使命があります。1980年代に始まった缶チューハイの歩みは40年以上を経て国内外に広がり、今まさに新たな成熟期・グローバル展開期を迎えています。今後も市場環境の変化に柔軟に対応しつつ、消費者に喜ばれる価値提案を続けることで、3社はいずれもRTD分野で持続的な成長機会をつかめるでしょう。その実現のため、本戦略書の提言が一助となれば幸いです。

